古びぬ宇宙観と古びた生命観 オラフ・ステープルドン『スターメイカー』

スターメイカー

 ずいぶん長い間SF小説なんか読んでないなと思って挑戦。あるイギリス人がいきなり幽体離脱して、時空を股にかけて様々な生態を持つ人類とテレパシーで交信したり霊的に一体になったりしながら宇宙の創造主(スターメイカー)に迫っていくという話。

 あらすじはもっと詳しく書いてあるページが沢山見つかったのでここではこれ以上書かない。確かに絶賛されるだけのことはあるのはわかったが、個人的は今読んでも面白いとは言いかねる。

 1930年代にビッグバン理論がだいたい固まった頃に書かれたので古く感じないとされているようだが、確かにそうだ。もちろんブラックホールも超新星爆発も中性子星も泡構造もコンピューターも出てこない*1ので古く感じるところがないとは言えないが、面白さを損なうぐらい古いわけではない。

 だが、物語の舞台・背景となる宇宙観が古びていないだけに、それ以外の古びてしまった箇所がかえってはっきりと浮かび上がるのだ。

 代表的なのが物語に登場する多種多様な姿と生態を持つ人類のなかで一番“いいもん”として描かれている共棲人類だ。共棲人類は魚人類と甲殻人類が共棲して一個体を成す*2人類だ。

 彼らは、文明の発達と共にいったん分かれて戦争したりしたものの、再び元の共棲生活に戻って、詳しい経緯は忘れたが、そのテレパシー能力によって宇宙の全生命体の精神共同体化を主導する役割を果たしたことになっている。

 現代のSF作家はもはやこの話を書くことはない。ちょうどフロギストンの質量やエーテルの風を書くことがないのと同じように。

 21世紀の我々は、もはやクロシジミの幼虫を育てるクロオオアリは他種のアリの巣を襲って奴隷を狩るサムライアリより道徳的高所に立っているとか、ましてや宇宙創造主の御心に適うなどと考えることはない。鳩が狼より平和だとか、サナダムシがライオンより怠惰だとか、共生が寄生より偉いとか考えることももはやない。

 この本が書かれた時代にはビッグバン理論によって宇宙の神秘が過去と未来の彼方に追いやられてしまっても、生物学や生態学にはまだまだ神秘が残されていた。70年間の生物学の進歩がそれを吹き払ってしまったのだ。

 振り返って見るにいま現在の最先端のSFは何だろう。現代でもまだ神秘が残されている領域は? 今から70年たった後もそれは古びずに残っているだろうか?

*1:発見・発明されていないのだから当たり前だ。
*2:どうしても伊藤潤二の『ギョ』に出てくるクリーチャーで脳内画像化されてしまうので困った。

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おまけ

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