エドワード・O・ウィルソン『人間の本性について』

人間の本性について (ちくま学芸文庫)

 エドワード・オズボーン・ウィルソンのピュリツァー賞受賞作。内容はタイトル通りで、賞に相応しい素晴らしさ。

 私が生まれた年の本だが、いま見てもそれほど古びていない。問題になりそうなほど古いのは、同性愛を擁護するのにヘルパー説に頼っているところぐらいか。

 同じ人間が『創造』みたいなすっとこどっこいな本を書いたとは、なかなか信じられないほどだが、この本のラストには、それに繋がった問題意識がすでに見られる。

 科学的自然主義scientific naturalismの決定的な強みは、その主敵たる伝統的宗教を、物質的な現象としてあますところなく説明してしまうことができるという点にあると言える。つまり、神学が独立した知的分野として生き残れる見込みはなくなったのである。しかしそれでも、宗教それ自体は、社会に重大な影響力を及ぼすものとして、今後も長く存続することであろう。産みの母である大地からエネルギーを吸収したという神話上の巨人アンティオスと同様に、宗教もまた、単に地上に打ち倒されたぐらいのことで打破されるものではないからである。科学的自然主義の精神的な弱みは、アンティオスにとっての大地に相当するような力の供給源を、それが欠いているということに由来している。科学的自然主義は宗教的感情の強固さの唯物学的源泉を説明しはするが、現在のままの形態では、その力を自らの側に引きよせることはできないのである。なぜなら、科学的自然主義の進化的叙事詩は、人間個人の不滅性を否定し、その代りにただ人類という生物種の実存的な意味を示してみせるばかりだからである。ヒューマニストたちが、精神的帰依や自己放棄の強烈な快感を享受することは決してないであろう。科学者たちは、司祭の役目など金輪際果たせるものではないのだ。かくして我々は次の問いに逢着した。宗教の源泉を白日のもとにさらしてしまうこの偉大な新しい企てに、当の宗教の力そのものをふり向けさせる方法が、一体存在するのだろうか。

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おまけ

 MMD杯は今回もレベル高かったな。

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