人類

科学技術哲学

ドナルド・E・ブラウン『ヒューマン・ユニヴァーサルズ―文化相対主義から普遍性の認識へ』

ここ1世紀ぐらいの人類学の歴史を超大雑把に捉えれば、文化相対主義が盛り上がって頂点を極めた後、徐々に後退している歴史であるといえる。  もちろん、今日の基準に照らせば馬鹿馬鹿しいほどに極端な相対主義は、さらにその前の、もっとずっと極端に酷い文化差別・性差別がまかり通った時代への反動として生まれてきたものだ。  そのことを忘れて、単に後知恵の批判をするだけではまずい。それらの歴史も踏まえた上で、新し...
科学技術哲学

ジュリアン・ジェインズ『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』

Passion For The Future: 神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡  事前の情報からは明らかに期待できない内容なのだが、『神は妄想である』の中でドーキンスの兄貴が、 この本はタイトルからうかがえる通り、奇妙な本である。まったくのトンデモ本か本物の天才の傑作であるかのどちらかで、中間では絶対ない! おそらく前者だろうが、賭けるのはやめておこう。  とか書いてたから、一応目は通しておか...
おすすめ書評まとめ

書評在庫一掃セール2009年7月版

最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。  ★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。 『自分をつくりだした生物―ヒトの進化と生態系』★★★  ジョナサン・キングドン著。先史人類とそのテクノロジーが環境といかに相互作用してきた...
科学技術哲学

ウィリアム・ブライアント・ローガン『ドングリと文明 偉大な木が創った1万5000年の人類史』

これはなかなか面白い。 農業文明前史の仮説としての価値がどのくらいあるのかはまだ判断がつかないが、あってもおかしくなさそうな話だし、単純にオークにまつわる雑学を眺めているだけでも楽しい。おすすめ。解説より。  狩猟採集から、大文字で書く「農業革命」を経て、農業文明、そして産業文明へという常識ではなく、狩猟採集から、大文字で書かれるべき「ドングリ文化」をへて、農業そして産業文明へ、という、もう一つの...
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デニス・シュマント=ベッセラ『文字はこうして生まれた』

文字から計算が生まれたのではなく計算から文字が生まれた。文字に繋がる抽象化にまつわる最も古い遺物は一定間隔で刻み目の入った骨。数えていたものはおそらく日数。 家畜を管理するために、一頭囲いから出すごとに一つ小石や小枝を拾い、一頭囲いに戻すたびに一つ落とす、といったことをしていた時期があったはず。*1 シュメールの遺跡では粘土で作られた様々な形のトークンが出土する。農耕の始まりと定住生活によって増え...
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マイク・モーウッド『ホモ・フロレシエンシス―1万2000年前に消えた人類』

1万2000年前と言えば、以前紹介した『銃・病原菌・鉄』で、人間集団間の文明の格差が生じ始めるスタート時点として仮に設定されていた1万3000年前よりも後だ。  そんな年代まで、チンパンジー並みの体格で火や石器を操っていた別の人類が生きていたとしたらどうだろう?  ……という、実に様々な知的興奮を掻き立てるホモ・フロレシエンシスだが、この本自体はどうも書き方が悪いのか、研究に際しての他の研究者やマ...
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アルフレッド・W. クロスビー『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』

人間は自分達ホモ・サピエンスの長所を精神に求めることに慣れており、動物と身体能力を比較するときは、負けることを好む。  「俺たち人間はこんなに脆弱な肉体しか持たないのに地上を征服した。だから万物の霊長なんだぜい。イェイ!」と思うと気分がよいのだ。  そのためか、人間の身体能力のうち圧倒的に優越しているものがあることをほとんど忘れている。それは投擲力。ものを放り投げる力。  投石は初期人類にとって重...
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ジョナサン・マークス『98%チンパンジー―分子人類学から見た現代遺伝学』

『人間の測りまちがい』の最新分野版とでも言うべき本。チンパンジーのDNAは人間と98%同じなのだから云々、というような主張は一度ぐらい聞いたことがあると思うが、いったいそれはどういう意味なのか?  現代科学ではDNAのわずかな違いが生物にどういう影響をもたらしているかということは、まだまだ研究が始まったばかり。この98%というのは単に、ある塩基配列をそのまま比較しただけの数字にすぎない。  高校で...