2006 10/7

 見た目も大きさも同じ8個の重りがあります。7個は重さも同じですが1つは他よりわずかに軽いニセモノです。天秤を使ってニセモノを確実に特定するには何回天秤を使う必要があるでしょうか。ただしこの天秤はただの天秤ではなく嘘つき天秤で、1回だけ嘘をつく(左に傾く・右に傾く・釣り合うの中から間違った結果を出す)可能性があります。

 まず私の解答を書きます。正解は4回です。4回で確実に特定する手順は以下の通り。

123
456
789

 重りを上のような3×3の行列風に並べます(9はダミー)。

 4回の各測定で、横・縦・右斜め・左斜めの列ごとに3個ずつをそれぞれグループとし、9が入っていない2グループを天秤に載せます。

 釣り合った場合は皿に載っている6個を、傾いたら上がった皿に載っている以外の6個に白判定回数を+1します。

 4回目が終わった時各重りの白判定回数が1以下のものが1つだけ残ります。それがニセモノです。

 次に3回以下ではできないことを示します。結果的にニセモノを特定できた時、同時に天秤が何回目にどんな嘘をついたか、あるいは嘘をつかなかったかも全て特定されます。

 天秤を3回使う時、天秤の嘘のつき方は1-3回目でそれぞれ2通りの嘘をつく、あるいは全くつかないの7通りがありえます。さらにニセの重りがどれかで8通りの場合があるので、問題全体の場合の数は 7 * 8 = 56 通りです。

 対して天秤から得られる情報は最高でも 3 ^ 3 = 27 通りしかありません。3回で確実にニセモノを特定できるということは、27通りの結果を見ただけで56通りの問題のどれかひとつを確実に言い当てられることを意味し、これは明らかに不合理です。

 よって3回では特定できません。

解説

 元となった有名な金貨8枚の問題(ビルゲイツの面接試験にももちろん載ってる)に適当に条件を付け加えてみたら意外にもすごく面白い問題に化けてしまいました。

 一見答え方も元の問題と同じに見えます。元の問題は2回で特定できます。それを応用すれば、各測定を2回繰り返し、嘘が出て割れた場合だけもう一回必要なので答えは5回……と言いたくなります。

 しかし! 正解は4回でした。4回でできる方法があったんです。面白いですね。最初は元の問題の先入観から「まず123と456番の重りを天秤に載せて、釣り合った場合……」という風にニセモノを特定する方向で考え始めたので、ややこしすぎてハマりました。

 で答えてもらったDanielさんの解答を見るとそれでできないわけではないですが。

 解法を見つけるには元の問題に立ち返って、そもそも天秤で何をしているのか、そして特定できたと言うためには最後にどのような状態になっていなければならないかをちゃんと原理から見直さないといけませんでした。

 まず天秤が釣り合うということは皿に載っている全ての重りが白だということです。天秤が傾くということは上がった方の皿に載っているもの以外の全ての重りが白だということです。

 そして3/3/2個に分けるのは、天秤の1回で3通りを識別できる特性を最大現生かすためです。

 そしてここからがポイントですが、今回の天秤が1回だけ嘘をつくかもしれない中で、ニセモノを特定できたと言える条件は他の7個の重り全てが2回以上白判定を受けていることです。

 2回以上白判定を受けていれば最低でもどちらかは真実、すなわちその重りは本物です。逆に言えばその条件を満たせなければ失敗です。

 条件を満たすには、もっとも運が悪い場合でも確実に白判定の数が0や1の重りを追いつめ、その数を減らすことができるようにグループ分けしなければなりません。

 それを可能にする方法は、ある時点でもっとも白判定回数の少ないものが最大限別々になるような3グループに分けて計り続ける方法です。ここまで来てようやく行列風のグループ分けに思いいたりました。

具体例

 ニセモノは3、2回目に嘘が出て釣り合うはずが左に傾く場合。ただし3*3の数字は、

123
456
789

 と同じ位置にある番号の重りの白判定回数。

1回目:123・456・789がグループ

000
111
111

2回目:147・258・369がグループ

101
212
212

3回目:159・267・348がグループ

211
223
313

4回目:168・249・357がグループ

321
324
324

結論:1回しか白判定されていない3がニセモノ。

 3回でできないことを示した方法はもっと一般的にできます。k回天秤を使い、重りがn個の時、


n(2k+1) > 3^k

 ならば特定不可能です。問題は n=8 k=4 だったので 72 <= 81 なので特定できたのは不思議ではありません。

 というか私が諦めずに4回でできる方法を探したのは先にこっちの式でできないと決まったわけではないとあたりをつけていたからです。

 また、この式から重りが9個でも、81 = 81 なのでできるかもしれないことが分かります。現に上の解答の手順でダミーを本物と区別しないだけでできます。

 天秤を3回しか使わない場合、できるのは3個までということも分かります。4個になると28 > 27 なのでできません。

 しかし、適当に考えた割には本当に面白い問題でした。付き合っていただいた方々ありがとうございます。

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2006 10/3

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

 見た目も大きさも同じ8個の重りがあります。7個は重さも同じですが1つは他よりわずかに軽いニセモノです。天秤を使ってニセモノを確実に特定するには何回天秤を使う必要があるでしょう。ただしこの天秤はただの天秤ではなく嘘つき天秤で、1回だけ嘘をつく(載せたものとは何の関係もなく左右に傾いたり釣り合ったりする)可能性があります。

 前の問題のコメント欄で話しているときに思いついた問題。思いついたばかりなので実は私もまだ答えを知らない。解答熱烈募集中。

 とりあえず元ネタの有名な問題の解法を単純に拡張すれば5回でできることは確実。4回以下でできる方法があればその方法を見つけ、同時にさらにそれ以下の回数ではできないことの証明もつけられればパーフェクトだと思う。

10/5(木)追記

 昨日の晩ようやく解けた。真面目にやり始めてから3時間以上もかかった。もちろん9割以上は先入観から全然間違った方向性を模索していた時間だが。

 できてみるとこれ適当に作った割にはものすごい良問だ。昔からパズルやったり作ったりするの好きだけど、このレベルのは生涯に数個しか作れないと思う。

ヒント

 問題は有名な金貨8枚の問題の単純な拡張だが、解答は元の問題の単純な拡張ではだめ。元の問題のエッセンスはもちろん使わなければならないが、単純な拡張でできたと思ったらほぼ確実に間違っている。

 最初から元の問題より相当に難しいことを覚悟して、一から原理原則を踏まえて考えた方がたぶん早く解ける。

10/7(土)追記

 なかなか解答が寄せられないのでポイント懸賞付きではてなに持ち込んでみました。少し前から問題を知ってた人はチャンスです。

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2006 9/28

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

 ナメック星人9割・サイヤ人1割の住む惑星で殺人事件が起きました。唯一の目撃者は「犯人はサイヤ人だった」と証言しました。信頼すべき第三者機関が実験を繰り返した結果「目撃者が当日の条件下で犯人の人種を見間違える(つまりサイヤ人をナメック星人と見誤る、もしくはナメック星人をサイヤ人と見誤る)可能性は10%」という結果が出ました。この事件の真犯人がサイヤ人である確率は?

 答えはずばり50%である。えー!? そんなバカな! 目撃者は90%正しく判断できるんだから90%に決まってるじゃん。と思うかもしれない。

 だがそれは「真犯人がサイヤ人だったときに目撃者がサイヤ人と証言する確率」であって、いま問題になっている「目撃者がサイヤ人と証言したとき真犯人がサイヤ人である確率」とは必ずしも同じとは限らない。それどころが全然異なる。

真犯人(下)証言(右) ナメック星人 サイヤ人 合計
ナメック星人 81 9 90
サイヤ人 1 9 10
合計 82 18 100

 惑星全土で同時に100件の殺人事件が起きていて、その全てに1人ずつ目撃者がいたと考えよう。そのうち90件がナメック星人の犯行で10件がサイヤ人の犯行である。

 90件のナメック星人の犯行のうち81件が正しくナメック星人の犯行と証言され、9件は間違ってサイヤ人の犯行と証言される。10件のサイヤ人の犯行のうち9件が正しくサイヤ人の犯行と証言され、1件は間違ってナメック星人の犯行と証言される。

 問題とされている事件は、目撃者がサイヤ人の犯行であると証言した18件の事件のうちの1つである。そのうち本当にサイヤ人の犯行であるのは9件であるから、求める確率は9/18。つまり50%である。

 面白いのは問題中の誰1人として偏見を持って行動している人はいないにも関わらずサイヤ人は少数派であるというだけでかなりの割合で無実の疑いをかけられてしまうということだ。答えを90%だと思ったまま捜査すれば冤罪を生んでしまいそうな結論である。

 現実でも同じようなことは起こりうる。たとえば100万人に1人の不治の奇病があったとする。検査の精度は99.9999%だとしよう。この検査に引っかかって「陽性です」と言われたら確実に死んでしまうと思ってショックを受けるだろう。

 だが、実はまだ本当に病気である確率は半分しかない。本当にその病気にかかっている100万人に1人の人間なのか、0.0001%の検査のエラーに当たってしまった人間なのかは、再検査するまで何とも言えないからだ。

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2006 9/25

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

 ナメック星人9割・サイヤ人1割の住む惑星で殺人事件が起きました。唯一の目撃者は「犯人はサイヤ人だった」と証言しました。信頼すべき第三者機関が実験を繰り返した結果「目撃者が当日の条件下で犯人の人種を見間違える(つまりサイヤ人をナメック星人と見誤る、もしくはナメック星人をサイヤ人と見誤る)可能性は10%」という結果が出ました。この事件の真犯人がサイヤ人である確率は?

 前回のビルゲイツの面接試験にからめた問題が結構好評だったので味を占めてもう一問。

 この手の問題の中ではたぶん有名な方なので知ってる人もいると思いますが一応黙っててください。解答はコメント・トラバ・メール等お好きな方法でどうぞ。答え合わせは数日後にします。

 ちなみにサイヤ人とかナメック星人とかいう名前はただの記号です。へのへのもへ人とだるまさんがころんだ星人とかでも別にいいのです。だからナメック星人は本来大人しくてサイヤ人は戦闘民族だから犯人はサイヤ人だろうとかいう答えはナシです。

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2006 9/18

次の文章は、とある新聞記事からの抜粋である。
文章を読んで設問に答えよ。

今、若い女性には「愛されOL」系のモデル、エビちゃん(蛯原友里)が人気だが、これからは男性にとっての理想像も 「さわやか正社員」系になるのかもしれない。そういえば( 1 )も、多少気になるところだが、

問1.( 1 )に入る適切な文を以下の選択肢から選べ。
A.秋冬もののトレンド
B.環境に配慮したクールビズ・ウォームビズ
C.女性達からの目
D.自らの国家や民族に固執する右翼系の若者が世界的に増えているという事実

答え http://www.asahi.com/culture/fashion/TKY200609110089.html

 2ちゃんねるのコピペ。これは久々に大笑いさせられてしまった。ウヨクサヨク論はおいといて、ネタとしての料理の仕方が抜群にうまい。

 知らない人のために補足すると、これは朝日新聞が「入試に出題される頻度No.1」と宣伝されていた(今もしてるのかな?)ことへの皮肉にもなっている。

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2006 8/18

階段の問題

 先日の問題の答え合わせです。未読の方は先にそちらのエントリを読んで考えてから読むことをおすすめします。

 棒人間君が図のような魔の7段階段の5段目にいます。棒人間君は毎回コインを投げて、表が出れば上に一段登り、裏が出れば下に一段下がります。7段目にたどり着けばクリア、生きて帰れます。逆に1段目まで降りてしまったらゲームオーバー、死にます。

 さて、この棒人間君が生還できる確率は? もちろんコインの裏表は1/2の確率で等しく出るものとし、階段の途中でやめることはできないものとします。

 さすがネットは広大ですね。3日も経たないうちに解答が出尽くしました。まずもっとも普通に正攻法で解こうとすると、

 となるでしょう。これはもちろん完全に正しくて、正解が出せます。しかしパズルとしてはよりエレガントな解法を見つけたくなると思います。

 問題を読んですぐ一歩引いて「4段目からスタートだったら超簡単なのになあ」と思えた人はセンスがあると思います。

 4段目は階段の中央なので、ルールの対称性より4段目からの生還確率は1/2以外ではありえません。それに気づけば5段目からの生還確率は3段目からの死亡確率に等しいといったことも同時に気がつくでしょう。

 舞台を数直線でなく階段にしたり、棒人間の生死とか大げさな設定をつけたり、一番下を0段目でなく1段目と数えて中央の段を偶数である4にしたりしているのはその対称性から目をそらす策略でもあったわけです。

 時間の対称性にも着目しましょう。時間に応じてルールが変わるわけではないので、コインを振って移動した後も、そこから生還できる確率は最初からそこにいた場合と同じなのです。

 これに気づけば時間tを使った式を立てる必要はなさそうだという予感がしてきます。ここから先の解法はいくつかあるでしょうが、私がもっともエレガントで甲乙つけがたいと思っているのは以下の2通りです。

 この問題の醍醐味をフル活用するとただの連立方程式に。5段目の解を求めるためにあえて一歩引いて他の段からの生存確率を広く考えることでかえって楽に解けてしまうところが素晴らしい。

 コイン2回をセットで考えてたまたまそれでうまくいく段数と初期配置だからこその解法というところが、前者に比べて技巧的な印象ではあります。

 しかし、正攻法だとあれほど複雑に見えた問題が、求める確率をそのままxと置いた中学生レベルの方程式1つで解けてしまうというのはある意味感涙モノではないでしょうか。

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2006 8/15

階段の問題

 棒人間君が図のような魔の7段階段の5段目にいます。棒人間君は毎回コインを投げて、表が出れば上に一段登り、裏が出れば下に一段下がります。7段目にたどり着けばクリア、生きて帰れます。逆に1段目まで降りてしまったらゲームオーバー、死にます。

 さて、この棒人間君が生還できる確率は? もちろんコインの裏表は1/2の確率で等しく出るものとし、階段の途中でやめることはできないものとします。

 ボスのビルゲイツの面接試験ネタに便乗してクイズを出してみました。答えはコメントなりトラックバックなりメールなり好きな方法でどうぞ。種明かしと答え合わせは数日後にします。

 ちなみに『ビルゲイツの面接試験』の著者ウィリアム・パウンドストーンの本はどれも面白いです。『ライフゲイムの宇宙』『囚人のジレンマ』はおすすめですよ。

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2005 11/19

 星新一『生活維持省』を読んでその主題を50字以内でまとめよ。の続きです。

 どんどん記事を流してしまったからか、解答数1つになりましたけど、一番興味があった内容がちょうど聞けたので良かったです。鴉さん協力ありがとうございました。

 ネタバレがあるので『生活維持省』未読の方は必ず先に前の記事にあたることをおすすめします。

 さてここから本題。

鴉さんの解答
「生存競争や戦争の全くない平和な世界にしようとすると自分や他人を生かそうと努力しない空しい世界になる。」

 私はこの話がいわゆるディストピアものとして捉えられているのではないかと思って質問を出したのだが、これはその系統の解答。おそらくは大規模なアンケートでも行えばこのような答えがトップにくるのではないかと予測している。

 生活維持省の世界は平和に見えるが実際はすでに死んだ社会であり、地獄なのだというわけだ。

 しかし、私はこの考え方はとらない。逐一描写の分析はしないけれども、やはりこの世界は地獄ではなく楽園として書かれていると思う。

 この正反対の解釈が生じる原因は社会状況の変化だと思われる。具体的には、この作品に描かれている人口爆発・戦争・生存競争の恐怖が時代の変化によって現実的でなくなっている。

  • 少なくとも日本では人口爆発の脅威は完全に消滅した。それどころか問題になっているのは少子化の方である。
  • 戦争の恐怖はなくなったとは言えないが、それはテロや局地紛争の恐怖であって、冷戦時代のような全面核戦争による人類滅亡というイメージは古くさいものとなった。
  • 生存競争についても同じ。社会問題になっているのはもはや受験戦争や過労死ではなく、引きこもりやニートである。

 ライフスタイルの変化もあるだろう。この作品に描かれているような静かで平和な文化的生活は、お世辞にも21世紀の現代人にとってそれほど魅力的に感じない。死んだ世界と見られるのもある意味仕方ないと思う。

 それらを割り引いて考えた場合、やはりこの世界は魅力的である。この話の前半を通じてじっくりと描かれる世界に住めたらいいと思う。

 ほとんど働くなくても好きなものを手に入れることができ、誰と競争しなくても好きなことだけをして、健康で文化的な生活を送れたら、どんなにすばらしいかと思う。少なくとも私は思う。

 後半になって、見え隠れしていた『たった1つの必要悪』の伏線が明かされる。

 しかし、主人公の弁が優秀で母親の反論が稚拙に描かれているために、この世界を維持するためならそれぐらい受け入れてもいいのではないかと思ってしまう。少なくとも私は思う。現実世界にも生活維持省を創設すればいいのではないかと思う。

 それがラストの主人公の台詞でひっくり返る。ああ今まで感情移入もしたけれど、この台詞は自分には言えないということに気付く。

 振り返ってみれば主人公と同僚はもちろん、作中唯一この生活維持省のシステムに異を唱えたように見える母親ですらも、世界の平和のために「たった1つの必要悪」をちゃんと受け入れることができている。

 これは自分にはできないことだ。自分ならどうやってもシステムの裏をかき、自分と自分の大切な人だけはこの必要悪から逃れられるよう死力を尽くすに決まっている。きっと現実世界のほとんどの人はそうだろう。

 それに気付くと同時に美しく平和な世界の幻想もガラガラと音を立てて崩れ去る。生活維持省は主人公たちのような人間が少なくとも圧倒的多数派でなければ機能しないのは明白だからだ。

 彼らは天使で、これは存在しない楽園の絵空事を描いたお話だったのだ。残念だけど仕方ない。

 しかし、本当にそうなのか?

 楽園追放の逸話は宗教に関係なくあまりにも有名だけれども、なんの欠点もないすばらしいエデンの園から追放されたと言われても別に悔しくも悲しくもなんともない。

 都合がよすぎてそもそもあり得ないと思わせてしまうし、仮に本当でも過去のことだから今さらどうしようもない。

 だが生活維持省の世界は違う。技術的に不可能なことはまったく何もない。たった1つの必要悪も超自然的なものでもなんでもない。やろうと思えば実現できるのだ。

 そう現実に、明日からでも。だがそれができない。その元凶は神でも悪魔でもない。他ならぬ自分自身の心なのだ。

 私は他の誰でもない私自身の業によって、今にも手が届きそうなところにあるたった1つの必要悪しかない世界にすら住むことはできず、生存競争と恐怖の中で死ぬまで生きていかなければならないのだ。

 そして、それは私の子孫にとっても同様であろう。おそらく永遠に。この認識は実に悔しく、悲しい。涙が出るほどに。

 というわけで私にとっての『生活維持省』の主題を50字以内にまとめるなら以下のようになる。

私の解答H
「人は、他でもない自分自身の業のために、ただ1つの必要悪しかない世界すら実現することはできない。」

 ここで書いた以外の第3の解釈をお持ちの方がいらっしゃれば是非紹介していただきたい。

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