最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。
★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。
『オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険』★★★
鈴木光太郎著。懐疑本としてなかなかおすすめ。
『ダーウィンが信じた道―進化論に隠されたメッセージ』★★★★
エイドリアン・デズモンド著、ジェイムズ・ムーア著。ダーウィンの偉大さは単に科学的なものに留まらないということは、グールドのエッセイなどを通じて知られてはいるものの、ここまで一冊にまとまったものは初めてなのではないか。
『ダーウィン―世界を変えたナチュラリストの生涯』★★★★★
エイドリアン・デズモンド著、ジェイムズ・ムーア著。上の本を読んで昔読んでいたことを思い出した。同著者によるダーウィンの詳細な伝記。これはものすごく面白かった記憶がある。
2巻がamazonに出てこないのはなぜかと思ったら、2巻セットになっているようである。すごく高いので図書館で探そう。うちの地元の図書館では1巻2巻別々に登録されている
『科挙―中国の試験地獄 』★★
宮崎市定著。科挙に関する本。面白い。
『眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎』★★★
ダニエル・T・マックス著。プリオン研究の歴史とドラマ。面白い。プリオンに関しては昔ちょっとだけ書いた。
『みんなの進化論』★★★★★
デイヴィッド・スローン・ウィルソン著。群淘汰に関してのみちょっとだけ微妙だが、素晴らしい進化論エッセイ集。
『すべてのアメリカ人のための科学』★★
F. James Rutherford著、Andrew Ahlgren著。話題になったのは大分前だが、普通に科学リテラシー本として読んでも非常に優秀。おすすめ。
『図説 中国の科学と文明』★
ロバート・テンプル著。「それは何百年も前すでに中国で発明されていたのだよ!」「な、なんだってー!!!」という話。しかもトンデモじゃなく本当に。
おまけ
オオカミ少女違い。
by 木戸孝紀
tags:プリオン 科学 教育 書評 心理学 進化 中国 歴史
危険部位が見つかるというのは結構あるかと思っていたがこの決断の早さは意外。タイムリーなので前のブログに書いたエントリをちょっと書き直して再録する。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)というのはBSE(牛海綿状脳症)、平たく言えば狂牛病のことである。
狂牛病はごく最近まで知られていなかった全く新しいタイプの病気、プリオン病である。ではプリオン病とは何か?
寄生虫・バクテリア・細菌による病気はわかりやすい。単に、体に侵入した他の生物が何か体にとって不都合な活動をしているということだ。
ウィルスは少し違う。ウィルスは遺伝情報たる核酸(DNAまたはRNA)とそれを保護したり宿主に侵入するのを助けたりするタンパク質だけからなっており、核酸を複製したりタンパク質を合成したりできない。標的となる宿主の細胞に侵入してその機能を利用して自分自身を再生産させているのだ。
対してプリオン病はプリオンタンパク(PrP)が凝集することによって起こる病気である。プリオンタンパクは単なるタンパク質であり、DNA・RNAからなる遺伝情報は一切を持っていない。
ちょっと待てと思うだろう。遺伝情報を持っていなかったらどうやって増殖したり感染したりできるのか?
実はプリオンタンパクも宿主自身が作っている。ただしウィルスに感染した時のように遺伝情報を持ち込まれて「作らされている」わけではない。
本来の機能は未解明であるものの誰でも作っていて、脳や神経にはプリオンタンパクがたくさん存在する。にもかかわらず誰もがヤコブ病にかかるわけではない。
では凝集する異常プリオンと凝集しない正常なプリオンの違いはどこにあるのだろう。遺伝情報が同じなのだからタンパク質を構成するアミノ酸の種類と配列も同じである。
それにも関わらず性質が異なるのは折り畳まれ方が違うからである。このことはプリオンタンパクに限らずタンパク質全てに言える。
ガムテープにたとえるとわかりやすいだろう。長いガムテープをくしゃくしゃと丸める。丸める前は全く同じ種類同じ長さのガムテープでも、丸めた後は、どこが固くてどこが曲がりやすいか、どこがくっつきやすくてどこがくっつきにくいか、などの性質には大きな差ができる。
異常プリオンは、互いにくっつきやすい構造をしていて、さらに正常プリオンの折り畳まれ方を(誤って)制御して自分と同じ異常プリオンの折り畳み方に変えてしまう性質を持っているわけである。
そのため異常プリオンは遺伝物質を持たずとも、周囲の正常プリオンを異常プリオンに変えどんどん増えていくことができ、増えた異常プリオンがくっつき合って凝集することによって病気を引き起こすことができるわけである。
by 木戸孝紀
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