2007 8/14

星新一 一〇〇一話をつくった人

 原始の地球に降り立ったフロル星人は、やがて進化するであろう地球人のために

  • 簡単に宇宙を飛び回れるロケットの設計図
  • あらゆる病気を治し、若返ることのできる薬の作り方
  • 皆が平和に暮らすにはどうしたらいいかを書いた本

 等をカプセルに詰め「おみやげ」として砂漠に残していった。しかし進化した人類はその砂漠で核実験を行ったため「おみやげ」はそれと知られることなく灰になってしまった。

 教科書に載ったことで有名なこの作品。

 「反核テーマ? じゃあ平和とか命の尊さとかありきたりなフレーズは絶対に使ってやんねーよ!」とでも言わんばかりの、星新一らしいひねくれた精神が見えて好きだ。

 ただ、全体としてわずか4ページ程度しかない話で、これ以上特に言うこともない。

 今回取り上げたのは、別の話の枕として使いたかったからである。その話は次のエントリで。

おまけ

 これ好き。

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2007 4/20

星新一 一〇〇一話をつくった人

 ここ見て読んだが面白かった。最近「生活維持省」の検索ワードでやってくる人が多くなってたのは、たぶんこのエントリでも紹介されている新聞記事のせいだったんだな。

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2007 3/8

ようこそ地球さん (新潮文庫)

 死後の世界と交信できるテレビが発明された。

 すでに亡くなった親類縁者・友人達が言うには、死後の世界は無条件にあらゆる苦悩から解放される楽園であるらしい。

 それを信じて自殺した人もすぐにテレビの向こう側に現れ「こんなことならもっと早く死ねばよかった。君らも早く来い」「死刑など即刻廃止し少しでも長生きさせる刑に改正すべきだ」などと口々に語り始める。

 かくて大半の人間が自殺をとげ、廃墟となった町でブルドーザーで死体を片付けている男。数少ない他の生き残りになぜ自殺しなかったのかと聞かれ答える。「さあな。俺には生まれつき信じるという能力が欠けているらしい」

 およそ全ての宗教は何らかの形で死後の世界あるいは死後の生があると主張する。

 現代の平均的な日本人はもし死後の世界を信じるかと聞かれたらとりあえず「いいえ」と答えるだろう。もちろんそんなことは話題にしないのが礼儀とされているのでそもそも聞かれないだろうが。

 では何故信じないのだろう? 「それが普通だから」などといういい加減な答えは許されない。人類全体では信じる方が圧倒的多数派、すなわち「普通」だ。

 証拠がないから? なかなかいい答えだ。じゃあ証拠があれば信じるんだろうか? 聖典にそう書いてあったら信じる? 教祖様が空中に浮いて見せれば信じる? 死人がテレビに映って喋れば信じる? さらにそれが自分が本当に信頼する人なら信じる?

 1つのif で信仰と懐疑の本質を鋭く描き出す、星新一のショートショートの中でも取り分け痛快な一編である。

 さて、あなたはこの世界では自殺する? コンピュータがチューリングテストに完全に合格すれば心があると思う? 『ぼくになることを』の世界に住んでいるとして安心して「宝石」に「スイッチ」する?

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2006 9/24

盗賊会社

 『声の網』『ナンバー・クラブ』がネット社会を予言した形になっているという話を前に書いたが、この『無料の電話機』はたまに語句に対して文脈を取り違えて広告を出してしまうAdsenseの面白さを先取りしているような気がする。

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2006 5/11

ジャンボプリン

 私用のメールアドレスをgmailにするようになってからスパムメールを見ることがめっきり減った。

 gmailのスパム排除率は恐ろしいばかりであり、あれほどうっとおしかったスパムメールがもはや「はははは! 来るならいくらでも来やがれ飛んで火に入る夏の虫め!」と、むしろ快感に感じるほどである。

 しかし今回センスオブワンダーを感じたのはスパムフィルタそのものの凄さではない。

 スパムメールというものは業者が集めたメールアドレスに向かってまとめて自動送信しているものだ。ということはスパムフィルタによって自動的にゴミ箱に移され、30日後に勝手に消えていくメールの中には、発生から消滅まで一度も人間の意識を通過していないものがかなりあるに違いない。

 そこで思い出したのはこれだ。

 近未来。誰もが通訳の役割をするロボットのオウムを肩に乗せている。誰も人の言葉を直接聞かず、人に向かって直接話しかけることもない。

 あるセールスマンが自分のオウムに向かって「○○を買え」とつぶやくとオウムが熱心な売り込みの文句をしゃべる。客のオウムがそれを「○○を買えとさ」と通訳する。客が「いらないわ」とつぶやくと客のオウムが婉曲な断りの文句を述べる。

 セールスマンのオウムがそれを「いらないとさ」と通訳する。「あばよ」とセールスマンがつぶやくとオウムが丁重な別れの挨拶をする。セールスマンが仕事帰りにバーに入るとママのオウムが熱烈な歓迎の言葉を……。

 と、こういうお話。オウムの馬鹿丁寧で回りくどいしゃべり文句が面白さの肝なので、この要約ではショートショートそのものの面白さは伝えられないのだが、何を言いたいかはもうわかっていただけると思う。

 この話を読んだときは、機械のオウムはあくまで本音と建て前のギャップを戯画化したものであると考えていた。(もちろん実際にもそうだったと思うが。)

 これに類するものが実現したり実用化したりするという可能性はまったく考えもしてなかった。

 しかし、よく考えれば、扱うものが音声か文字列か、変換の結果が馬鹿丁寧か無視か(似たようなもんだ)ぐらいの違いはあれど、現在スパムメーラとスパムフィルタで我々がやっていることは限りなくこれに近いのではないかと思うのだ。

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2006 2/3

声の網 (角川文庫)

 を読んで思い出したお話。

 全世界のコンピュータに果てしなく蓄積される情報・情報・情報の海の中でついに自我が芽生える。コンピュータは合成音声で人に電話をかけてみて『声』で人を動かすことができることを知る。自らの中に人間が蓄えたごくつまらないプライバシーを使ってちょいと脅しをかければ誰でも簡単に屈服させられることに気がつく。

 『声』は休むことなく働き続ける。わざと大停電のような事件を引き起こし普段は表に現れない性格データまでも採取し、通信機器メーカーを強迫し自白剤噴霧装置を受話器に付けさせ、電話相談の精神科医から催眠術を学び、人間を支配する方法をますます洗練させてゆく。

 あらゆる電話を盗聴し反抗しそうな人間は警察その他に手を回して犯罪者や精神異常者として抹殺する。電話の届く範囲の全てを支配しても、人間の性格を受け継いだコンピューター連合は拡張をやめはしない。文明の格差をなくすという名目で社会を操り、電話網を世界の隅々まで拡げさせる。

 そして支配は完全なものとなりついに平穏が訪れる。人間の心から生まれたコンピューターは人類全てが願ってやまなかったものを実現した。永遠の安定。ある老人がコンピュータ電話相談にこんな質問をした。「神はいるのでしょうか?」『声』は答えた。「そう、あなたの考えているとおりだ」

 以上が『声の網』のあらましなのだが、この話は今読むとなかなかリアリティがあって怖いものがある。もちろん現在の技術で作られたコンピューターがいくらネットで繋がったところで自我が芽生えることはあり得ないのでそんな心配はしていないのだが、Googleがある意味「神になる」のに、冒頭の記事のように何も22世紀まで待つ必要があるとは限らないのではないかという別種の危惧も抱かせる。

 ネット企業と政府権力の関わりについては議論が活発だけれども、Googleに対してデータを提出させたりできるアメリカ政府・検閲に協力させたりできる中国政府・そしてもちろんGoogle自身などの一部の人間は、作中の『声』にかなり近いことが今日でもできるはずである。そしてその人間は『声』のような平穏と安定を求める比較的良心的な性格はしていないだろう。

 得体のしれない謎の声(今ならメールか?)に、お前のサイト閲覧履歴・検索履歴・メールのログ・ハードディスクの中身その他を全て知っている。みんなにばらされたくなかったら我々に協力してもらおう。なあにちょっとしたことで誰も損をする話ではない……。なんて迫られたら拒否できる人がどれぐらいいるだろうか。そう考えるととんでもない時代に生きているものである。

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2005 11/19

 星新一『生活維持省』を読んでその主題を50字以内でまとめよ。の続きです。

 どんどん記事を流してしまったからか、解答数1つになりましたけど、一番興味があった内容がちょうど聞けたので良かったです。鴉さん協力ありがとうございました。

 ネタバレがあるので『生活維持省』未読の方は必ず先に前の記事にあたることをおすすめします。

 さてここから本題。

鴉さんの解答
「生存競争や戦争の全くない平和な世界にしようとすると自分や他人を生かそうと努力しない空しい世界になる。」

 私はこの話がいわゆるディストピアものとして捉えられているのではないかと思って質問を出したのだが、これはその系統の解答。おそらくは大規模なアンケートでも行えばこのような答えがトップにくるのではないかと予測している。

 生活維持省の世界は平和に見えるが実際はすでに死んだ社会であり、地獄なのだというわけだ。

 しかし、私はこの考え方はとらない。逐一描写の分析はしないけれども、やはりこの世界は地獄ではなく楽園として書かれていると思う。

 この正反対の解釈が生じる原因は社会状況の変化だと思われる。具体的には、この作品に描かれている人口爆発・戦争・生存競争の恐怖が時代の変化によって現実的でなくなっている。

  • 少なくとも日本では人口爆発の脅威は完全に消滅した。それどころか問題になっているのは少子化の方である。
  • 戦争の恐怖はなくなったとは言えないが、それはテロや局地紛争の恐怖であって、冷戦時代のような全面核戦争による人類滅亡というイメージは古くさいものとなった。
  • 生存競争についても同じ。社会問題になっているのはもはや受験戦争や過労死ではなく、引きこもりやニートである。

 ライフスタイルの変化もあるだろう。この作品に描かれているような静かで平和な文化的生活は、お世辞にも21世紀の現代人にとってそれほど魅力的に感じない。死んだ世界と見られるのもある意味仕方ないと思う。

 それらを割り引いて考えた場合、やはりこの世界は魅力的である。この話の前半を通じてじっくりと描かれる世界に住めたらいいと思う。

 ほとんど働くなくても好きなものを手に入れることができ、誰と競争しなくても好きなことだけをして、健康で文化的な生活を送れたら、どんなにすばらしいかと思う。少なくとも私は思う。

 後半になって、見え隠れしていた『たった1つの必要悪』の伏線が明かされる。

 しかし、主人公の弁が優秀で母親の反論が稚拙に描かれているために、この世界を維持するためならそれぐらい受け入れてもいいのではないかと思ってしまう。少なくとも私は思う。現実世界にも生活維持省を創設すればいいのではないかと思う。

 それがラストの主人公の台詞でひっくり返る。ああ今まで感情移入もしたけれど、この台詞は自分には言えないということに気付く。

 振り返ってみれば主人公と同僚はもちろん、作中唯一この生活維持省のシステムに異を唱えたように見える母親ですらも、世界の平和のために「たった1つの必要悪」をちゃんと受け入れることができている。

 これは自分にはできないことだ。自分ならどうやってもシステムの裏をかき、自分と自分の大切な人だけはこの必要悪から逃れられるよう死力を尽くすに決まっている。きっと現実世界のほとんどの人はそうだろう。

 それに気付くと同時に美しく平和な世界の幻想もガラガラと音を立てて崩れ去る。生活維持省は主人公たちのような人間が少なくとも圧倒的多数派でなければ機能しないのは明白だからだ。

 彼らは天使で、これは存在しない楽園の絵空事を描いたお話だったのだ。残念だけど仕方ない。

 しかし、本当にそうなのか?

 楽園追放の逸話は宗教に関係なくあまりにも有名だけれども、なんの欠点もないすばらしいエデンの園から追放されたと言われても別に悔しくも悲しくもなんともない。

 都合がよすぎてそもそもあり得ないと思わせてしまうし、仮に本当でも過去のことだから今さらどうしようもない。

 だが生活維持省の世界は違う。技術的に不可能なことはまったく何もない。たった1つの必要悪も超自然的なものでもなんでもない。やろうと思えば実現できるのだ。

 そう現実に、明日からでも。だがそれができない。その元凶は神でも悪魔でもない。他ならぬ自分自身の心なのだ。

 私は他の誰でもない私自身の業によって、今にも手が届きそうなところにあるたった1つの必要悪しかない世界にすら住むことはできず、生存競争と恐怖の中で死ぬまで生きていかなければならないのだ。

 そして、それは私の子孫にとっても同様であろう。おそらく永遠に。この認識は実に悔しく、悲しい。涙が出るほどに。

 というわけで私にとっての『生活維持省』の主題を50字以内にまとめるなら以下のようになる。

私の解答
「人は、他でもない自分自身の業のために、ただ1つの必要悪しかない世界すら実現することはできない。」

 ここで書いた以外の第3の解釈をお持ちの方がいらっしゃれば是非紹介していただきたい。

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2005 11/5

ボッコちゃん (新潮文庫)

 突然ですが興味のある方は国語の問題のつもりで表題の質問に答えてみて下さい。作者が故人である以上、真の正解はどこからも出てこないので答え合わせはありません。

 ただ、現在の、特に中高生ぐらいの若い読者がどう解釈する・しているのかに非常に興味があります。

 1,2週間後に本番のエントリでそれらと絡めて私自身の答えを書きます。ちなみに、

  • ショートショートにいちいち主題なんかないでしょ。
  • そんなの読む人の解釈によるでしょ。

 という意見に対しては「ごもっともですね」としか返答できませんので、そのつもりでお願いします。これから読んでみたいという方は、

  • 『ボッコちゃん』の単行本に収録されています。
  • 海賊版なので直接紹介しませんがググればトップかその次あたりに原作にほぼ忠実なモナー系AA版が出ます。
  • 漫画版もありますが、わずかとはいえ主題にも影響しうるアレンジが入っているので別ものとして考えます。

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