メラのダメージはなぜ10なのか?

メラ

 商品の値段がしばしば99や980などで終わることはよく知っておられると思う。これは言うまでもなく我々が数字の表記法として位取り記数法を用いているために起きる現象である。

 上の桁は下の桁より常に10倍も重要なので、まず上の桁に注目する習慣が完全に定着しているのだ。そのため99円100円よりも1円以上、1980円2000円よりも20円以上、安い印象を与えることができるのだ。

 位取り記法については単独でもっと書きたいことがあるのだが本筋から外れるのでここで置いておく。今回の本題は同じ原理がゲームに応用可能であるということである。例とするにふさわしい題材として選んだのがメラだ。

 『ドラゴンクエスト3』で初登場したおなじみのメラの呪文のダメージは約10である。それにはちゃんとした理由がある。結論から言うと「プレイヤーが初めて見る2ケタのダメージにするため」であり、その目的は

 呪文の通常攻撃との差を印象づけるため

 である。ドラクエ3の冒険がスタートした時点で標準的なパーティーの攻撃手段は通常攻撃とメラの呪文のみである。そして通常攻撃のダメージは戦士でも必ず1ケタで10以上にならないようになっている。*1

 初めて攻撃呪文を使うプレイヤーは、メラの呪文によって初めて2ケタに達するダメージを眼にし、呪文に通常とは質的に違った攻撃をする力があることを学ぶのである。

 もしメラの平均ダメージが同じでも最大が9だったらどうか?

 メラの威力はレベル3程度の戦士・勇者の通常攻撃とほとんど差がない。スタート当初は魔法使いのMPも低い。魔法使いがいずれグループ攻撃魔法・全体攻撃魔法・補助魔法を使えるようになることを知らないRPG初心者プレイヤーは「なんだ魔法使いってよえーじゃん」と言って、魔法使いを外して代わりに商人などを入れてしまうかもしれない。

 そうなったら苦戦は必至である。メラのダメージが10に設定されているのはそのような錯誤を防ぐための制作者からのメッセージなのである。

 こじつけと思うだろうか? メラの上位呪文メラミの威力は約80である。この数値にもちゃんと意味がある。メラミの消費MPは6で、同じ消費MPの魔法使い系攻撃呪文はあと2つ存在する。表にしてみよう。

呪文 威力 消費MP 対象
メラミ 80 単体
ベギラマ 35 グループ
ヒャダルコ 50 グループ

 それぞれ習得レベルが異なるという差はあるものの、他の2種が一度に3,4体でも攻撃できるグループ攻撃呪文であることを考えれば、メラミは明らかに弱すぎる。

 普通に考えると100ポイントぐらいにしたいところである。なぜそうしなかったのだろう? ここで魔法使い系上位攻撃呪文の威力一覧表を見てみよう。

呪文 威力 消費MP 対象
メラゾーマ 180 12 単体
ベギラゴン 100 12 グループ
マヒャド 100 12 グループ
イオナズン 140 18 全体

 そろそろ勘のよい読者はわかってきたのではあるまいか。そう、メラミの威力が80に留まっているのは「3ケタのダメージを出させないため」であり、その目的は

 3ケタのダメージを叩き出せる呪文を最上位呪文に限定することによってその強力さを際立たせるため

 である。さらに、上の表を見てメラゾーマにもメラミと全く同じことが言えるのに気がついただろうか? 

 同じ消費MPなのに半分以上の威力でグループを攻撃できるベギラゴン・マヒャド、消費MPは高くてもほそれほど変わらない威力で全体を攻撃できるイオナズンと比べてどう考えても弱い。

 なぜ180しか威力がないのか? せめて200はあってもいいのではないか? その理由はもう予想できるだろう。

呪文 威力 消費MP 対象
ギガデイン 200 30 全体

 そう、メラゾーマのダメージが180なのは「100の位で2を越えさせないため」であり、それは、

 勇者専用呪文ギガデインの最強性を際立たせ、勇者のキャラを立てるため

 である。このようにドラクエにはプレイしていても容易には気づかないような形でプレイヤーを心理的に誘導する仕掛けがいたるところに施されているのである。次回は応用編。私が実際にゲーム製作にどう応用したかを紹介しよう。

おまけ

コメント

  1. 8月10日のニュース

    ・週刊ストーリーランド見てたやつちょっと来い (ESCAPISM AREAさんより) 懐かしいなー。ホントに何であの番組終わったのか良くわからない。 ・メラのダメージはなぜ10なのか? (斜壊塵さんより) そんな事まで考えてダメージ設定されてたのか。知らなかった。・痛 …

  2. 木戸孝紀 より:

    >norinoさん
    どうも。ドラクエ以前については個人的にもあまり詳しくないのでわかりませんね。そういう配慮の跡が見える事例があったら知りたいです。
    ドラクエにはまだいくつか類似の話ができるのでまた機会があればやってみたいです。
    >名無しさん
    タイプミスでした。指摘どうも。

  3. 匿名 より:

    呪文をを最上位呪文?

  4. norino より:

    素晴らしい考察ですね。DQ3の名ゲーの由縁を改めて知りました・・・
    それ以前のゲームからもそういった数値の印象を意識した設定はあったんでしょうかねえ

  5. TidalBeachBlog より:

    DQのダメージ管理

    前回のライフゲージに関する話の続き。前回でいうところの「技術」の紹介になります。まずは、下記のエントリをごらんください。メビウスプロジェクトさまの文章です。http://tkido.blog43.fc2.com/blog-entry-104.html 前回のエントリにおいて、ドラゴンクエ

  6. 匿名 より:

    怒涛の羊はレベルによって威力が変わります。羊が来ない時もあるし攻撃対象もランダムです。単純にメラゾーマより強いとか使えるとか言えないと思いますよ。
    マダンテは全MPを使いきる技だから威力があって当然です。そもそも普通の呪文とは性質の異なる技ですから。
    アルテマソードはパラディンとバトルマスターを極めてからなれるゴッドハンドをマスターしてやっと修得できる技。普通にやってたらED後でしょう。裏ダンジョンのモンスターの強さ(例 ドラゴン・ウー HP900)からするとMP20で単体に威力600は妥当かと。
    また、弱い魔法全部無意味ということも無いでしょう。強い特技は上級職になるかレベルをかなり上げないと使えません。それまでは充分に活躍します。さらに山彦の帽子を入手したら呪文の効果は倍増するという利点もあります。
    確かに特技のバランスは完璧とは言えませんが、呪文との差別化がきちんと考えられたうえで、ああいった威力や性質になっているのではないでしょうか。

  7. 木戸孝紀 より:

    実は7以降を未プレイなのでマダンテしか正確にわからないんですが、MP使わない特殊攻撃が増えてくるとバランス取るの難しそうですよね。それより弱い魔法全部無意味になりますから。

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