スパムとフィルタと『肩の上の秘書』

ジャンボプリン

 私用のメールアドレスをgmailにするようになってからスパムメールを見ることがめっきり減った。

 gmailのスパム排除率は恐ろしいばかりであり、あれほどうっとおしかったスパムメールがもはや「はははは! 来るならいくらでも来やがれ飛んで火に入る夏の虫め!」と、むしろ快感に感じるほどである。

 しかし今回センスオブワンダーを感じたのはスパムフィルタそのものの凄さではない。

 スパムメールというものは業者が集めたメールアドレスに向かってまとめて自動送信しているものだ。ということはスパムフィルタによって自動的にゴミ箱に移され、30日後に勝手に消えていくメールの中には、発生から消滅まで一度も人間の意識を通過していないものがかなりあるに違いない。

 そこで思い出したのはこれだ。

 近未来。誰もが通訳の役割をするロボットのオウムを肩に乗せている。誰も人の言葉を直接聞かず、人に向かって直接話しかけることもない。

 あるセールスマンが自分のオウムに向かって「○○を買え」とつぶやくとオウムが熱心な売り込みの文句をしゃべる。客のオウムがそれを「○○を買えとさ」と通訳する。客が「いらないわ」とつぶやくと客のオウムが婉曲な断りの文句を述べる。

 セールスマンのオウムがそれを「いらないとさ」と通訳する。「あばよ」とセールスマンがつぶやくとオウムが丁重な別れの挨拶をする。セールスマンが仕事帰りにバーに入るとママのオウムが熱烈な歓迎の言葉を……。

 と、こういうお話。オウムの馬鹿丁寧で回りくどいしゃべり文句が面白さの肝なので、この要約ではショートショートそのものの面白さは伝えられないのだが、何を言いたいかはもうわかっていただけると思う。

 この話を読んだときは、機械のオウムはあくまで本音と建て前のギャップを戯画化したものであると考えていた。(もちろん実際にもそうだったと思うが。)

 これに類するものが実現したり実用化したりするという可能性はまったく考えもしてなかった。

 しかし、よく考えれば、扱うものが音声か文字列か、変換の結果が馬鹿丁寧か無視か(似たようなもんだ)ぐらいの違いはあれど、現在スパムメーラとスパムフィルタで我々がやっていることは限りなくこれに近いのではないかと思うのだ。

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