2016 11/23

 というエントリを以前書いたが、最近もうひとつ別の要素も大きく関わっているのではないかと思うようになった。

 これはニセ科学に騙されているとか不安商法に踊らされているというよりも――その要素は実際あると思うが――ある種の呪術であり、自ら信じたいのではないかと。

 そのベースになる考え方はすでに一度書いている。

 子供の知的発育は非常に重大なことである。にも関わらず、現実的で有効な対処法は存在しない。存在しても、それをそうと確信することはできない。まじないが流行る絶好の問題だ。

 流行するまじないは、実行可能であり、適度なもっともらしさと困難さを備えていなければならない。

 実行は可能だ。大抵の家庭にはテレビがあり、当然ついていることもよくある。実行可能でも負担が大きすぎて生活に支障が出るようではだめだが、そんなことはない。テレビを消しても死なないし、真剣に困ることもまずない。

 逆にあまり簡単すぎるのも、ありがたみが無くなるので駄目だ。これもクリアする。テレビを見たがる子供をなだめたり、自分で相手をしたりするのも、「ちょっと頑張ったな」と思えるほどの負担ではある。

 ……完璧に当てはまっているように思える。

 子供の知能という重大な事柄が、遺伝のようなもう変えられない要因や、まだ誰も解明していない偶然の要因に左右されているというのは不安だ。だからそれを制御しうると、確実にプラスになることをしていると信じて安心したいのだ。たとえ根拠薄弱だと知っていても。

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2012 7/14

『飢える大陸アフリカ―先進国の余剰がうみだす飢餓という名の人災』★★★

 ロジャー・サロー著、スコット・キルマン著。現代の飢餓は物理化学生物的な限界の問題ではなく政治の問題。最悪なのは先進国の農業補助金。まあわかっていたと言えばわかっていたことではあるが、とてもいい。おすすめ。

『この人と結婚していいの?』★★★

 石井希尚著。結婚しようと思っていたときに見つけて買った。男はウルトラマンで女はシンデレラとかなんとか。結構いい。

『徳の起源―他人をおもいやる遺伝子』★★★★★

 マット・リドレー著。前から貼ったりはしてたと思うけど、そのもの自体はまだ紹介してなかったか。このテーマでは一番まとまってるかも。

『魚は痛みを感じるか?』★

 ヴィクトリア・ブレイスウェイト著。読み物としての面白さはいまひとつだが、テーマは面白い。下の雨崎さんのまとめと考察が秀逸。

『図説 金枝篇』★★★

 サー・ジェームズ・ジョージ・フレーザー著。ちょっと古いけどやはり抑えておくべき定番。

『アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか』★★★

 ドナルド・B・クレイビル著、デヴィッド・L・ウィーバー・ザーカー著、スティーブン・M・ノルト著。いつかRSSでニュースを目にして気になっていた話。かなり面白い。

『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』★

 エリック・スティーブン レイモンド著。今となってはちょっと昔だが重要。IT・プログラミングに予備知識のない人には向かない。

『生命と非生命のあいだ』★

 アイザック・アシモフ著。書かれたのが1960年代後半なので約半世紀前とのギャップを楽しむ意味で読むべき。ちょうど今頃の世界を予想しているところがあった。

おまけ

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2010 10/25

(本文とは無関係)

 現在某所でトップになっている、痴漢冤罪対策と称するコピペ。数年ごとに流行するデマで、2004年からあるらしい。私もいつかは忘れたが、前回のブーム時には見た覚えがある。

 この現象は、昔の「悪魔を退散させる呪文」とか、子供に流行する「口裂け女に話しかけられた時のおまじない」といったものの、現代・大人版と言えるであろう。脅威を制御しうると信じて安心したい人間心理の発露である。

 何の本で得た知識か忘れたが、このようなまじないが発生し、流行するにはいくつかの条件があるようだ。下に適当に並べてみるが、こうして見ると、このコピペは実に良くできている。数年ごとに大流行するだけの理由はあると思える。

1「稀で深刻な脅威である」

 日々誰もが遭遇するような現実の脅威なら、いい加減な呪文やまじないに頼ってなどいられない。頼る必要もないだろう。まず経験者の話を聞きに行けばいい。

 噂には聞くが、自分や身近な人が実際に遭遇したことはないという程度の、稀な発生率である必要がある。おそらく痴漢冤罪の発生率はこの条件を満たす。

 次に、当然だが深刻でない脅威ならそもそも制御したいという心理もそれほど強くならない。痴漢冤罪によって被る被害は、間違いなく深刻と言ってよいだろう。

2「現実的で有効な対処法は存在しない」

 ホモ・サピエンスは、概ね現金で抜け目ない生きものだ。当たり前だが、そんなものがあれば、それで対処するのだ。*1

 そして、痴漢冤罪はこの条件も満たす。ブームの度に言われていることだが、現実的で有効な方法は、今のところ実在しないと思われる。日本の司法制度・風土および満員電車という現実は、どちらも個人が一朝一夕で変化させうるものではない。

3「まじないは適度なもっともらしさ・困難さを備えている」

 もっともらしくなければいけないのは当たり前と言えば当たり前だが、もっともらしければいいというものでもない。

 まず、実行可能でなければならない。誰も憶えられないような呪文や、誰も実行できないようなまじないが流行ることはありえない。実行可能でも現実生活の負担に感じるほど難しくては駄目だ。しかし、逆にあまり簡単すぎるのも、ありがたみが無くなるので駄目だ。

 昔だったら聖書の章句を暗唱するとか、今だったら法律の条文を二つや三つ暗記するとか「ちょっとやってみるか」と思えるほど簡単だが「ちょっと頑張ったな」と思えるほどには難しい、という絶妙な複雑さが要求される。

*1:「未開人はもっぱら呪術の世界に浸っていたのではなく、自然の力と超自然の力をともども認識し、普段は確実な知識に基づく合理的な手段で自然に対処していたが、あらゆる努力も知識も凌駕する不可知の影響力を統御するときに、呪術に頼った。文明社会も実は同様なのであり、理性と神秘の境界線の位置や知識の体系のあり方、それらと社会の仕組との関係が異なっているだけなのである。」などこの辺も参考。

おまけ

 電車で妖怪で脅威で卑猥というとこれか。

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