2015 6/29

第39回】 【目次】 【第41回

 ここまで『存在の大いなる連鎖』という一本の柱に沿って、時系列に進んできたこのシリーズだが、ここからは、詳細に分け入る代償として、多少複雑にならざるをえない。

 このシリーズでは、過去と未来で何が変化して何が不変であるかを常に意識することが、理解にあたって重要だ。*1しかし、完全に過去から現在へ進みながら、多岐にわたる話を扱うと、話があちこちに飛びすぎてわかりづらいことになる。

 折衷案として、織物でいえば縦糸とでも言うべきいくつかのキーワードを選び、縦糸を次々と取っ替え引っ替えしながらも、その糸の範囲では時系列を(ほぼ)維持するという方針を取ることにした。

イルカと話す日

 最初の糸の先端を、またリリー博士から再開させていただこう。

 中間テストでも予告したジョン・C・リリー『イルカと話す日』のエピグラフ。2本あるうちの最初のひとつはこれだ。

「公衆が科学研究の努力と成果とを、意識的かつ分かりやすい形で体験する機会を与えられるということは、大変意義深いことである。一握りの専門家だけが研究成果を利用し、洗練して、応用するだけでは十分ではない。知識をわずかな数の専門家だけに独占させることは一国の国民の哲学的精神を衰退させ、精神の貧困をもたらすことになる」

――アルバート・アインシュタイン

 アインシュタインに極端な愛憎を抱く――おそらくは単に彼が世界一有名な学者であるというだけの理由で――というトンデモ科学者のステロタイプをまたしても連想させる内容だが、今回着目するのはこちらではなく、並列されているもうひとつのエピグラフの方だ。

 「人間の親指にも満たない大きさの内なる精神、プルシャは、あらゆる生物の魂に永遠に宿っている」

――『ウパニシャッド

 最初に現在の本筋でない部分を断っておく。『イルカと話す日』を扱っている際に、本の巻頭にあるこのエピグラフを、あえて見せなかった理由は、おそらく理解していただけると思う。

 今日の日本人にとって“プルシャ”という単語は特定のエピソードを連想させすぎる。このシリーズ全体の主旨と無関係というわけではないが、あの段階で予断を持たせるのは、マイナスの効果の方が勝ると思ったからだ。

 さて、この2本の引用元の選択には、科学に対して愛憎半ばする感情と東洋思想への傾倒という、当時のリベラルな人々が共有した精神をよく代表している。第24回の内容を憶えていれば、たとえ当てられずとも予想外とは言えないはずだと思う。

 中間テストに回答を寄せてくれた数少ない奇特な人たちの中で、「ダライ・ラマ」と回答した人が複数いた。「方向性さえ合っていれば正解とする」と予め言っておいたのはこの回答を予想してのことであり、私はこれを正解に数えたいと思う。

 ダライ・ラマが欧米で有名になったのはリリー博士より後のことだが、少し時代がずれていたら、ここにウパニシャッドの代わりにダライ・ラマ14世の言葉が入っていても、まったく不思議はなかっただろう。

dalai_lama

 確か2008年頃だったか、シーシェパードの公式ホームページに行くと、サイドバーにダライラマの写真が貼ってあった。

 現在は見られないが、当時のスクリーンショットを保存したものがあったので貼っておこう。

 知っての通り――知らなければ見ての通り――ダライ・ラマ14世は、宗教的・政治的にどうかはともかく、個人的・外見的には典型的なモンゴロイドのおっさんである。

 シーシェパードのような反捕鯨運動が、一部の人々の言うように、キリスト教白人至上主義の陰謀であるのならば、黄色人種の仏教指導者がトップページでアピールされるのはなぜだろう。

 おそらく、捕鯨反対の日本人は、これを単にシーシェパードやあるいは一般的に反捕鯨運動は人種差別などではない証拠と見なすだろうし、反反捕鯨派は「日本差別を人種差別と言わせないための偽装だ」とかなんとか苦しい言い訳をするであろうと思う。

 もちろんこの場合、どちらかと言えば、圧倒的に前者が正しい。何度も言っているが、シーシェパードやその支持者は、伝統的な意味での人種差別主義者ではない。むしろ、そのような人種差別には最も批判的な層に属する人々だ。

 話がこれで終わりだったら、どんなに良かっただろう。だが、私はこれから、残念ながらそうではないという話をしなければならない。一本目の糸となるキーワードは『オリエンタリズム』だ。

  1. ジェームズ・ヒルトン『失われた地平線』(1933)
  2. ロバート・A・ハインライン『異星の客』(1961)
  3. アーサー・C・クラーク『海底牧場』(1957)

 3本の作品を通して、リベラルな欧米人のオリエンタリズムの対象が、アジア(東洋人)から宇宙(火星人)へ追いやられ海(クジラ)へ戻ってくる変遷、人種差別・宗教差別意識の今昔、鯨肉のカニバリズム感と高知能説*2の関係、等々を描こう。

*1第36回
*2:今後このシリーズで単に「高知能説」と言った場合、ジョン・C・リリーを発端とする鯨類高知能説を指す。

第39回】 【目次】 【第41回

by 木戸孝紀 tags:


“ガイア教の天使クジラ40 一本目の糸:オリエンタリズム”へのコメント 1

  1. 1. haostin

    たまたま「イルカがせめてきたぞっ」関連の画像を見かけたので、見せたくなりましたw
    https://twitter.com/hayamiu/status/623610582818668544

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