2011 3/30

ボッコちゃん (新潮文庫)

 停電と星新一でまず思い出したのは『感謝の日々』なのだが、他にもう2編だけ思い出せるものがある。

 一つはこれ、

 便利な文明生活を営んでいる夫婦が、謎の原因で停電した途端、何もできずにあっさり凍死してしまう。ペットの猿だけが平気で生き延びている。

 というだけで、特に名作とは思わないのだが「電気が絶たれた時の文明生活の脆弱性」というテーマは、まさに今タイムリーだと思う。

 もう一つは、以前も紹介したが『声の網』の中の、コンピューターがわざと大停電という事件を引き起こし、普段は表に現れない人々の性格データを採取する、というシークエンス。

 今回の震災と原発の件は、別にコンピューターの陰謀ではないけれども、結果的にいろいろな人の、普段は絶対に表に現れない本性を覗き見ることはできた気がする。

おまけ

 凍死つながり。(ややホラー注意)

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2011 3/16

ひとにぎりの未来 (新潮文庫)

 完全自動操縦の自動車、壁一面のテレビ電話、脳波を読み取って勝手に食べたい料理を作ってくれる自動調理器、なんでも揃っている便利な世界。

 三ヶ月に一度の「休電日」には全ての電気が止まり、皆電気のありがたさに感謝する。半年に一度の「無保険の日」にはあらゆる保険が効かなくなり、皆保険制度のありがたさに感謝する。

 そして、年に一度の「法律感謝の日」には刑法も停止されるので、皆武装して家に閉じこもる。その日の終わりには心から文明社会のありがたさに感謝する……。

 計画停電で思い出したのは、この話。意図的にやってないだけで実質的にほとんどこの通りのような気が。

おまけ

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2009 12/25

マイ国家 (新潮文庫)

 iPhoneを買って新聞をやめてしまった件で思い出した。

 愛する夫のイメージに合わせて家具をいろいろあつらえていたインテリアコーディネートが趣味の妻。ある日、非常に高価な絵を贈られるが家の雰囲気に合わなくて困る。

 捨てるわけにもいかないので、しかたなく絵に合わせて額縁を変え、壁紙を変え、家具を入れ替えていく。そしてある日、弁護士に電話して「どうしても夫を取り替えなければならないの!」

 ……という話。

 なんというか喜劇的でもあり、悲劇的でもあり、どこか人間性の本質的な部分を垣間見せるようでもあり、地味ながら好きな一編。

おまけ

 日付的にクリスマスソングで。

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2009 2/5

宇宙のあいさつ (新潮文庫)

 結婚を控えた若い優秀な科学者エス氏は、経済界の首領から何でも2倍欲しくなる治療不可能なウィルスの開発を依頼されていた。

 アイスクリームなら普段一杯で満足するところをもう一杯食べないと気が済まなくなり、本のような一冊あれば十分なものでさえも、もう一冊買わなければ気が済まない。

 博士は「どうも無駄のような気がする」と懸念するが「無駄こそ文明の本質だよ」と説得される。そして一生豪勢に暮らせる金額を、当然さらに2倍した金額の報酬と引き替えにウィルスを渡す。

 翌日、喜び勇んで婚約者の元に向かった博士。しかし、彼女の指に見慣れない指輪が。

「どうしたんだい、その指輪は。一つはぼくの贈った婚約指輪だが、もう一つは……」
「これも婚約指輪よ」
「なんだって」
「あたしはあなたを愛しているし、婚約を取り消すつもりはないわ。でも、なぜだかわからないけれど、あなた一人に満足できないような気分になってきて、さっき婚約を申しこんできた人とも、婚約をしてしまったの」
 エス博士はしばらく黙っていたが、やがてうなずきながら言った。
「その気持ちは、ぼくにも少しずつわかりかけてきたようだ。ぼくもきみ一人では満足できそうもない。……たしかに、これからの世界は、かなり活気あふれたものになりそうだぞ……」

 景気対策の話題が尽きない昨今だからこそ面白い小咄。ただし、私はこの「無駄こそ文明の本質だ」というのを単なる諧謔とは思っていない。むしろ肯定的に捉えている。機会があれば書く。

おまけ

 10年も経てば不況なんて……一巡してまた不況だったりして。

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2008 11/26

(本文とは無関係)

 ボンボンと悪夢 (新潮文庫)より。

 ある刑務所。そこにいる囚人は彼たった一人。しかも牢の鍵は自分が持っている。

「まったく変なことになったものだ。犯罪者でもないおれが、刑務所のなかにいる。そして、きみたちは脱獄の邪魔をしないばかりか、内心ではしてくれるよう祈っている。しかし、おれは出ていかない。なれてはきたものの、時たま考えるとおかしくなってくる」

 塀の外では飢えて絶望した群衆が集まって「囚人を渡せ」と叫び始める。塀を乗り越えようとする者が現れると、看守たちが次々と機関銃で撃ち殺す。

 彼は人口爆発による食料危機に対して合成食料を研究する学者だった。あるとき実験機器の事故に巻き込まれ奇跡的に助かった彼はなぜか皮膚が緑色になり、水と日光だけで生きていける体になっていたのだった。しかし、その結果は再現できなかった。事故と似た状態に志願した者はいたが効果がないか死ぬかのどちらかで、彼の体をいくら診察しても、彼だけがこうなった理由はわからない。

 生理学、医学の関係者は、そろってこのような報告をした。
「わかりません。このうえは、徹底的に解剖し、すべてをばらばらにして調べない限り、どこに問題があるのかの発見はできないでしょう。それが許されれば必ず……」

 彼は看守に撃つのを止めてみろと提案してみるが、拒否される。

「それではいかんのかね」
「いかんだろうな。それからの社会をなんで維持してゆけばいいんだ。法律かい。だが、罪のない人間を殺すことによってできた新しい社会で、どんな法を作り、守らせようと言うんだね。目的さえあれば無実の人間を殺してもいいという道徳や法律に、従わせるわけにはゆくまい。そうなったら、すべてがめちゃくちゃだろう」

 塀の外には痩せた死体がどんどん積み上がっていく。

「食料に縁のないのは、そとの連中とおれということになるな」
「そとの連中のことを考えると、食事をするのが罪悪に思えてくる。食料を送ってくれなければいいのにと思う。だが、看守たちに変な気をおこさせまいと、法と秩序と正義をまもるため、十分すぎる食料が送られてくるのだ。食わなければいいんだろうが、腹がへり、前に食料があると、どうにもならない。情けない話だが、それを押さえる力は人間にそなわっていないらしい」
「情けないのはお互いのことだ。おれに自殺ができないのと同じだろう。生命への執着、食欲、つまらないものが人間にはとりついていやがるな。」

 いつもと変わらぬ一日が過ぎていく……。

 を読んで思い出した話。人間とは倫理とは何ぞや。なかなか好きな話ですねこれは。

おまけ

 人間とは倫理とは何ぞやつながり。(ネタバレ&グロ注意!)

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2007 10/14

白い服の男 (新潮文庫)

「みなさま。夕食もおすみになり、夜のひとときをおくつろぎのことと思います。ではこれより、正義にみちスリルに溢れる社会の連帯と向上のためのみなさまの番組、そして現実のドラマである〈悪への挑戦〉をお送りいたします。これは法律省のご協力と、スポンサーである……」

 あたしはこの番組の熱烈なファン。もっとも、あたしだけじゃない。誰でも、どこでもそうなのだ。開始以来、ゴールデン・アワーのこの番組は驚異的な視聴率をあげ続けている。

 老人のひき逃げ事件のリアルな再現映像。

 スポーツカーはブレーキの音をきしませ、一瞬止まったが、あたりに誰もいないと知ると、すぐにスピードをあげた。その青年の複雑な表情。発覚への不安から、憎々しい平然さへと徐々に移ってゆく演技が巧みで、あたしの心の底に火をつけた。
 怒りがこみ上げ、炎が体中を走り回った。どんなことがあっても許されない行為だわ。早く捕まえてぶち殺すべきよ……。

 捜査のリアルな再現映像。

 悪を憎む大衆の網の目に追われ、犯人はほとんど逃げ切れない。逃げおおせる可能性は三パーセント以下だ。
 やがて、定期便のトラックの運転手の証言から、その時刻にすれ違ったブルーのスポーツカーが問題とされ、容疑はその所有者にしぼられた。
 ごまかし、逃げようとする青年。しかし、大衆と警察の協力の前にはそれもむなしく、川に飛び込んで自殺しようとする。救いあげる警官、人工呼吸、医師の手当て……。

 コマーシャルが終わると、法廷の場面となった。これは現実に撮影したフィルムを要領よく編集したもの。被告席には犯人の青年が座っている。さっきまでの俳優のメーキャップがうまく、犯人そっくりだったので、何の抵抗もなく見続けることができた。
 厳しい検事の論告。必死に防戦する弁護士。不安におののく被告。うなずきながら並ぶ陪審員たち。それに、興味深く見つめる傍聴人が大勢。それらが緊張した空気を織りなしていた。
 被告は無罪を立証することができなかった。最後に裁判長が判決を下した。
「死刑を宣告する。その執行期日は追って通知する。なお、処刑の方法は、被告の希望によって、定められたものの中から選ぶことができる……」
 テレビの画面は、その瞬間の青年の表情の変化を、大写しにしていた。絶望と驚きと恐怖。事態を理解するにつれ、顔の色は灰色に変わってゆく。焦点の定まらない、見開かれた目の白さが印象的だった。逃げ場を求めても、それはもはやどこにも存在しない。進む道はただ1つ、その果てに待つものは死。
 顔の筋肉が激しく引きつってから、力が抜け、しおれてゆく草のように弱々しいものに変わった。マイクロフォンの感度がよく、歯の鳴る音、心臓の鼓動までがはっきり聞き取れた。崩れるように椅子にかける音、喉の奥の声にならない声……。
 あたしは興奮した。全国のあらゆる人が一斉に興奮するひとときだ。もし、上空から見下している人があれば、その熱気が陽炎のように立ちのぼるのを、目にすることができるのじゃないからしら。
 これこそ真実なのだ。事実なのだ。ここにこそ人間がある。社会がある。我々の秩序がある。法がある。悪の末路のみじめさ。正義を支持する人々の勝利の賛歌……。

 あらゆる広告料金の中で最も高価なコマーシャルの時間の後で、処刑の実況中継となる。

 すべての用意が完了し、所長はテレビカメラにむかい、手をあげて合図した。
 それを受け、放送局のアナウンサーが、視聴者に呼びかけた。
「みなさん。いよいよ始まりです。電話をお願いします。いつもご説明していることですが、かかってきた電話の数が百に達すると、自動的にスイッチが入ります。本日の電話の代表番号は……」

 番号が告げられてからスイッチが入るまで、十秒とかからない。椅子のそばに赤いランプがともり、縛られた青年を高圧の電流が襲った。悪を憎む、善良な大衆の怒りの津波。
 それを受け、囚人の体は激しく震え、硬直した。縛りつけられていなかったら、天井まで飛び上がったかもしれない。そうすればいいのに。ひき逃げされた老人は、十メートルも飛ばされたのよ。
 電流は更に一回、五秒後に自動的に囚人に流れた。また少しふるえた。さっきのだけでは、死ななかったのかしら。なんだかうめき声がしたようだった。
 あたしの体は、興奮のため、血が泡だって流れを早めたようだった。ぞくぞくする刺激。閃光と闇の交錯する、自分が生きているとの強烈な実感。とめどなく涙の出る正義の勝利。理想の社会へと踏みしめる確実な一歩。ああ……。

 主人公は興奮のあまり窓際の花瓶を落とし、以前トラブルのあった人間を偶然死亡させてしまう。逃亡を試みるもすぐに捕まって死刑を宣告される。しかし、死刑になるかわりに死刑囚の人形作りの仕事をさせられることになる。

「何ですって。すると、テレビで放送されていた処刑は、みな人形だったのね」
「そうですよ。そうでなかったら、ああ見事にはできません。作り物だからこそ、ああ迫力があるのです」
「処刑前のすすり泣きはどうするの」
「昨夜、あなたのを録音しておきました。あなたの人形の処刑は、何とかギロチンでやってみたい。刃がうねりを立てて落下し、首が飛び、血が吹き上がる。スポンサーに増額の要求ができるんですがね」
 あたしは腹が立ってきた。
「ごまかしだったのね。社会みんなを騙していたというわけね」
「それがどうしていけないんです」
 所長は言った。どうしていけない。でも、何か不都合があるはずだわ。あたしは自分の知識を色々と組み合わせてみたが、それに反論する理屈は見つけられなかった。

 囚人生活といっても、テレビを見ることも許されていた。だけど、あたしは自分が処刑される番組だけは見る気になれなかった。

 また旬を逃した感があるが、光市事件問題の話を見かける度に思い出すのはこの話。長くなったので続きはまた今度。

10/16追記

 やっぱやめた。これ以上なにも付け加えることないわ。はてなブックマークでついてるコメントにもあるけど星新一はやはり天才。

おまけ

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2007 10/8

星新一 ショートショート1001

<みなさま、まもなく政府の提供による、テレビ・ショーの時間でございます。お子さまがたには、ぜひ見ていただかなくてはなりません。ショーはただいまから十分後に始まります。ご家庭では、それまでにお子さまをテレビの前にお連れになるよう、お願いいたします。>

 部屋にいない子供を捜す両親。電話で高校の実験室にいるのを突き止めて呼び戻す。

 妻はそばの椅子に腰を下ろした。
「あたしはこんな風にも考えてみるのよ。あたしたちがずっと若かった昔、全世界が最終戦争の恐怖に怯えて、誰も未来を信じなかったことがあったわね。そのため、神様が罰を下して、未来を人類の手から取り上げてしまったのではないかと」
 夫は、パイプに火をつけながらうなずき、煙を吐きながら答えた。
「ああ、そんなこともあるかもしれない。未来を拒否しようという意識が積もり積もれば、こんな風に形を取ってあらわれてくることだって、十分に考えられるな」

 そして始まった政府提供のテレビ・ショーの内容はなんとエロビデオ。

 人類から急速に失われつつある性欲を、何とかして子供たちに植えつけようとして、政府提供の豪華なショーは、このように祈りを込め、だが、むなしく放映され続けられる。

 少子化問題に対して政府が何かするというニュースは必ずこの作品の記憶を呼び起こす。

 政府の対策が無駄だと言っているわけではない。むしろ大いに必要だろうと思う。下のニュースのような単純なばらまきが有効かどうかという具体的な問題は別として。

 しかし、望みうる最高の対策が全てなされたとしても、それで出生率が望ましいレベルに回復するかというと大いに疑問がある。

 ある程度の技術と知識が行き渡った状態での出生率はおそらく、今財布に入っているお金でも来月振り込まれる金額でもなく、もっと長期的な未来に対する楽観的な見通し、つまり未来は現在よりもっと良くなると思っているか? に相関しているのだろうから。

 じゃあどうすりゃいいんだって言われると、こればっかりは本当にどうすればいいんだろうねえとしか言いようがない。

 またバブルみたいな景気拡大と、それがずっと続きそうだという幻想が同時に成り立てば、その時だけ回復するなんてことがありえそうだけど、それでいいのかというと、違うだろうし。

 民主党が7月の参院選マニフェスト(政権公約)で柱に据え、今国会へ提出する予定の「子ども手当」法案の概要が7日、明らかになった。親の所得制限などは設けず、ゼロ歳から中学校卒業までの子ども1人当たり月額2万6000円を支給する。必要な費用は約5兆8000億円を見込んでいる。

 同法案は「次代の社会を担う児童の成長および発達に資することを目的とする」と規定。費用は経過措置を置いた上で全額国庫負担としているが、財源については「所得税にかかわる扶養控除などの改廃その他の必要な措置を講じる」とするにとどめた。このほか、施行後3年をめどに見直しを可能とする規定も設けた。

(2007/10/07-15:52 子ども手当2万6000円支給=民主、今国会に法案提出)

おまけ

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2007 9/12

星新一 ショートショート1001

 太陽系外からの突然の侵略軍に敗北寸前の地球。敵ミサイルの攻撃になすすべもない司令官と部下たちの部屋に、長く地面に埋まっていたとおぼしき古びた金属筒入りの古文書が飛び込んできた。

「……勝つか負けるかの場合には、体当たりの精神以外に、勝利への道はない。爆弾もろとも敵にぶつかる。一機をもって一艦を葬るのである……」

 司令官は直ちに命令を下し、争って志願した部下たちは見事形勢を逆転させ侵略軍を全滅させた。

「それにしても、なんで、あんな簡単な方法に気がつかなかったのだろう。もっと早く知りさえしていれば、損害が少なくてすんだのに」
「それは仕方ないよ。どの図書館にも、あの戦法を記した本が残っていなかったのだから。あるいは、過去のある時期に思想統制が行われ、全て抹消されたのかもしれない」
「いずれにせよ。あのタイムカプセルが出現してくれて助かった。おかげで、貴重なる地球の文明を、守り抜くことができたのだから。どんな祖先が、あの文章を書いたのだろうか。今では知りようがないが、きっと、思想統制に反抗した、自由主義者だったのだろうな」
 勝利をおさめたとはいうものの、地上の破壊も凄まじかった。まず、方々に倒れている戦友たちを収容しなければならない。これは、あまり楽な仕事ではないのだ。油まみれになってもげている首や手足を拾い、腹からこぼれている歯車、ネジ、電線、それに細かな電子部品などを集めて回らなければならないのだから。

 を見て思い出した話。2ちゃんすんなとは言わんけど星新一ぐらい目を通してからにしようぜ、と。ああそれにしても返す返すも見事な二段落ちよ。

おまけ

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