星新一の夢世界

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星新一『冬の蝶』

停電と星新一でまず思い出したのは『感謝の日々』なのだが、他にもう2編だけ思い出せるものがある。  一つはこれ、  便利な文明生活を営んでいる夫婦が、謎の原因で停電した途端、何もできずにあっさり凍死してしまう。ペットの猿だけが平気で生き延びている。  というだけで、特に名作とは思わないのだが「電気が絶たれた時の文明生活の脆弱性」というテーマは、まさに今タイムリーだと思う。  もう一つは、以前も紹介し...
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星新一『感謝の日々』

完全自動操縦の自動車、壁一面のテレビ電話、脳波を読み取って勝手に食べたい料理を作ってくれる自動調理器、なんでも揃っている便利な世界。  三ヶ月に一度の「休電日」には全ての電気が止まり、皆電気のありがたさに感謝する。半年に一度の「無保険の日」にはあらゆる保険が効かなくなり、皆保険制度のありがたさに感謝する。  そして、年に一度の「法律感謝の日」には刑法も停止されるので、皆武装して家に閉じこもる。その...
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星新一『趣味』

iPhoneを買って新聞をやめてしまった件で思い出した。  愛する夫のイメージに合わせて家具をいろいろあつらえていたインテリアコーディネートが趣味の妻。ある日、非常に高価な絵を贈られるが家の雰囲気に合わなくて困る。  捨てるわけにもいかないので、しかたなく絵に合わせて額縁を変え、壁紙を変え、家具を入れ替えていく。そしてある日、弁護士に電話して「どうしても夫を取り替えなければならないの!」  ……と...
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星新一『不景気』

結婚を控えた若い優秀な科学者エス氏は、経済界の首領から何でも2倍欲しくなる治療不可能なウィルスの開発を依頼されていた。  アイスクリームなら普段一杯で満足するところをもう一杯食べないと気が済まなくなり、本のような一冊あれば十分なものでさえも、もう一冊買わなければ気が済まない。  博士は「どうも無駄のような気がする」と懸念するが「無駄こそ文明の本質だよ」と説得される。そして一生豪勢に暮らせる金額を、...
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星新一『囚人』

ボンボンと悪夢 (新潮文庫)より。  ある刑務所。そこにいる囚人は彼たった一人。しかも牢の鍵は自分が持っている。 「まったく変なことになったものだ。犯罪者でもないおれが、刑務所のなかにいる。そして、きみたちは脱獄の邪魔をしないばかりか、内心ではしてくれるよう祈っている。しかし、おれは出ていかない。なれてはきたものの、時たま考えるとおかしくなってくる」  塀の外では飢えて絶望した群衆が集まって「囚人...
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星新一『悪への挑戦』

「みなさま。夕食もおすみになり、夜のひとときをおくつろぎのことと思います。ではこれより、正義にみちスリルに溢れる社会の連帯と向上のためのみなさまの番組、そして現実のドラマである〈悪への挑戦〉をお送りいたします。これは法律省のご協力と、スポンサーである……」  あたしはこの番組の熱烈なファン。もっとも、あたしだけじゃない。誰でも、どこでもそうなのだ。開始以来、ゴールデン・アワーのこの番組は驚異的な視...
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星新一『テレビ・ショー』

<みなさま、まもなく政府の提供による、テレビ・ショーの時間でございます。お子さまがたには、ぜひ見ていただかなくてはなりません。ショーはただいまから十分後に始まります。ご家庭では、それまでにお子さまをテレビの前にお連れになるよう、お願いいたします。>  部屋にいない子供を捜す両親。電話で高校の実験室にいるのを突き止めて呼び戻す。  妻はそばの椅子に腰を下ろした。 「あたしはこんな風にも考えてみるのよ...
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星新一『ある戦い』

妖精配給会社 (新潮文庫)  太陽系外からの突然の侵略軍に敗北寸前の地球。敵ミサイルの攻撃になすすべもない司令官と部下たちの部屋に、長く地面に埋まっていたとおぼしき古びた金属筒入りの古文書が飛び込んできた。 「……勝つか負けるかの場合には、体当たりの精神以外に、勝利への道はない。爆弾もろとも敵にぶつかる。一機をもって一艦を葬るのである……」  司令官は直ちに命令を下し、争って志願した部下たちは見事...