最近まで、週に何度か『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の深夜再放送をやっていたので、録画して目覚まし代わりに見ていた。
すごい傑作なのは改めて言うまでもないが、今回気づいたのはキャラの性格の幅が意外なほど狭いということだ。
特に女性キャラは9割9分まで「肝っ玉母さん」の一類型に収まる。
トリシャ・イズミ・ピナコ・ブラッドレイ夫人・グレイシアあたりは、そのまんま肝っ玉母さん。ウィンリィ・オリヴィエ・リザ・マリア・ランファンも結婚したら間違いなく肝っ玉母さんだし、メイ・チャンも成長したらそうだろう。ラストですら、人間でないということを割り引けば、その範囲に収まりそうだ。
どうやっても収まりそうにないのはシェスカぐらいだが、この作品には珍しい作者にすら途中で忘れられた感じのキャラなので、むしろ法則を証明する例外のようにも思われる。
男性キャラも9割方「仕事人間」の一類型でくくることができる。
軍人たちはもちろん、公認仕事人間のブラッドレイを筆頭として、マスタング、その部下たち、ヒューズ、敵味方問わず仕事人間。
主人公兄弟やホーエンハイムは罪滅しという使命のために、敵方のお父様は完全な存在になるという使命のために欲望を切り離してまで、それぞれ倦まず弛まず働く仕事人間である。
仕事とは普通言わないけれども、スカーは復讐という使命に忠実。快楽殺人者のナンバー66(バリー)や破壊魔キンブリーも、それぞれの欲望には忠実だし、誰かに仕事を振られたときは真面目に取り組んでいる。
その名も『怠惰』のスロウスですら「めんどくせー」と口で言うだけで実際はひたすら働いている。「仕事人間」に当てはめられない男性キャラは、ほとんど存在しないように思われる。ややその毛色が薄いのは、アームストロング少佐・エンヴィー・旧グリードぐらいだろうか。
なんでそうなのかというと、おそらく作者荒川弘本人がそういう人間だからだろう。
妊娠中・出産後ともに一度も休載していない。また、自身の子供について「15歳になったら自分の漫画を読ませて絶対面白いと言わせてやる…」「そうした将来の読者が出来たので戦いがいがある」と対談にて語っている。
というエピソードなど、まさに「肝っ玉母さん」かつ「仕事人間」以外の何者でもないではないか。お父様のホムンクルス作成よろしく、自分の人格の一部を分割してキャラを作っていくタイプの作家なのかもしれない。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:アニメ コミック 鋼の錬金術師 漫画
私はあまりコレクション――使用するためではなく集めるだけが目的のコレクション――というものはしないたちだが、唯一雑誌の『ファンロード』を集めていた。
読まなくなってからの時代の分が、これまで何冊か欠けていたのだが、和田慎二の訃報をきっかけに思い出して久しぶりに調べたら、結構あっさりネットで買えた。これで本誌は創刊号から休刊まで全てコンプリートした。
二次創作・CGM・パロディ精神といった、今では2chやニコ動・pixiv・個人HPなどに舞台が移ってしまったような文化の、インターネット以前の姿を留める歴史資料として、今見てもけっこう興味深いと思うのだ。
本誌の復活は時代的にもう厳しいかもしれないが、最近ではJコミみたいな仕組みもあるし、過去のものだけでもどうにかならんものだろうか。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:コレクション ファンロード 雑誌 日記
「スケバン刑事」漫画家の和田慎二さん死去
和田慎二氏 61歳(わだ・しんじ、本名・岩本良文=いわもと・よしふみ=漫画家) 5日、虚血性心疾患で死去。告別式は未定。
広島県生まれ。1971年、大学在学中に「別冊マーガレット」でデビュー。「超少女明日香」シリーズや「ピグマリオ」など少女漫画で活躍。テレビドラマ化、映画化もされた「スケバン刑事」は大ヒットした。現在は、「ミステリーボニータ」(秋田書店)で「傀儡師リン」を連載中だった。
(読売新聞 7月6日(水)11時19分配信 最終更新:7月6日(水)13時39分)
ううむ、ローディストとしては森勇気さんはどうしているのだろうか、というのが第一印象。
それにしても若いなあ。手塚治虫といい石ノ森章太郎といい横山光輝といい藤子・F・不二雄といい、すごい漫画家というのは長生きしちゃいけない決まりでもあるのか。
『スケバン刑事』は正直今読んでも面白いと思う。要するに『魁!!男塾』の少女漫画版みたいなもん(?)なので、少女漫画の中では男でも比較的読みやすい方だと思う。まだの人にはおすすめしてみる。ちなみにドラマのことは知らない。
おまけ
同じ高校生とは思えん。
by 木戸孝紀
tags:コミック ニュース ファンロード 漫画 訃報
弐瓶勉には『BLAME!』で一時期すごくハマっていたのだが、『BIOMEGA』がいまいちだったことから、新連載のこれはずっとスルーしていた。
しかし今回、のうん君のつぶやきがきっかけでレンタルして1-4巻までまとめて読んでみたら、メチャメチャ面白かった。
いつも通りの異常なセンスと「普通さ」とでも言うべきものが両方そなわり最強に見える。『BLAME!』の絶頂期ほどとは言わなくても再び注目したい。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:SF アフタヌーン コミック 弐瓶勉
今まで全く気にも止めていなかったが、どこかでジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞を取っていることを知って、TSUTAYA のコミックレンタルで借りた。予想よりかなり面白い。
元々BL系の作者だという話から、とりあえず男が掘られてりゃ高く評価しちゃう的なアレじゃないのか? という予断もあったのだが、いい意味で裏切られた。
男女逆転というテーマを聞いたときは、そんなに興味は持てなかった。ジャイアンのセリフで有名な「表の模様が裏についていて裏の模様が表についている50円玉」という話と同様に、単純に裏返しただけでは結局同じになってしまうだろうと。
裏返して変わる部分と裏返しても変わらない部分の微妙さにこそ裏返しの妙味があるわけだが、そこがちゃんとできている。まだの人にはおすすめしたい。冒頭はいまいちだが2巻の後半〜3巻あたりから面白くなってくる。
おまけ
でもやっぱニコ厨的に男の園はこっちのイメージが。
by 木戸孝紀
tags:コミック ジェンダー レビュー 歴史
ゴルゴ13の出身は、たびたび話題になるものの、決して明らかになることはない。なぜか?
ある意味では答えは簡単だ。多分あなたもすぐ思いついた通りだ。明らかになってしまったら、いつでも使えて確実に人気のあるネタの一つが無くなってしまうからだ。
しかし、それはあくまで至近要因だ。なぜゴルゴの出身が確実に人気のあるネタなのか?
想像してみよう。ついにゴルゴの真の出身が疑問の余地なく判明した! 実はロシア系中国人で日本とは縁も紫ゆかりもなかった!
あるあ……ねーよ。
そう、誰もそんなことはありえないと知っている。みんな実はゴルゴは日本人――でなくとも、少なくとも日系人とか日本人とのハーフとか――だと知っているのだ。
では、なぜゴルゴは日本人でなければならないか?
いつか一言だけ触れた(参考)が、ゴルゴ13というキャラクターの人気は、戦後日本人の国際政治コンプレックスと切り離して考えることはできない。
いつも無表情でアメリカ大統領やCIA長官を震え上がらせるゴルゴというキャラクターは、メガネでへらへら笑うエコノミックアニマルとしての日本人の自己認識の正確な裏返しだ。
では、もう一度最初の問いに戻って、なぜゴルゴの出身は決して明らかにならないのか?
明らかにしたっていいのではないか、誰もがすでにそうだと知っているのだから。読者が皆そうであることを望んでいるとわかっているのだ。ネタのストックをひとつぐらい減らしても、明らかにしてあげるべきでは?
もちろん、違う。
コンプレックスの補償としての娯楽は、それを楽しみつつ、そうしているということをはっきり自覚させないことが重要だ。
「日本人と断定されたゴルゴ」は、あまりにも日本人の国際政治コンプレックスの代償の要素がはっきりしすぎる。それは、たとえるならギャルゲーに「非モテ御用達」と明記するような自殺行為だ。
- おそらく日本人と思われつつも不明のまま
- 日本人と判明する
- 日本人でないことが判明する
ゴルゴの出身についてのありうる選択肢は、この順番で望ましい。つまり、現状のままがベストだということを、作者はもちろん読者もみんなわかっているのだ。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:コミック ゴルゴ13 心理 政治 日本
知る人ぞ知る怪作。タイトルの時点ですでに何かが決定的におかしい。
内容も、輸入雑貨の貿易商を個人で営んでいる井之頭五郎という普通の男が、腹を空かして普通に食事をするというだけ。本当にただそれだけ。
藤子不二雄のSF短編で、食事と性行為に関する羞恥心の概念が逆転した世界に迷い込んでしまう男の話があった。(参考)
その世界では、食事は個体の維持にしか貢献しない利己的な行為だから、一人隠れてこっそり行う恥ずかしいものであり、性行為は集団の維持に貢献する利他的なものであるから、正々堂々とおおっぴらに行うべきである、とされている。
従って、その世界では歩きながらサンドイッチを食べるような気安さで路上性行為が行われ、「食事会」が現実世界における「乱交パーティー」に相当するものになっている。
どうもこれを読んでいると、そのSFは半分正しいのではないかという思いにとらわれる。
つまり、人間がものを食う時は一人なのが自然であり、それを克明に描写する――たとえばこの作品のように――のはエロティックな覗き行為であり、いわゆる普通のグルメマンガというのは、乱交パーティーのような倒錯した変態行為なのではないかと。
おまけ
個人的にはゴローちゃんネタといえばテクテクさんのイメージが強い。
by 木戸孝紀
tags:SF グルメ コミック 久住昌之 谷口ジロー
最近連続していい評判を聞くので、引っ越し準備の息抜きに、1巻を注文して読んだ。確かにすごく面白かった。
大急ぎで2巻も続けて注文しようと思ったらAmazonで品切れになってる。そりゃなるわな。死ぬほど使い古された題材に思えても、ちょっとした工夫と表現力次第でまたすごく面白くなる、という好例かもしれない。
何言ってもネタバレになりそうなので、曖昧な言い方しかできないが、
描写まんべんなくあるので、成人向けというわけではないが、お子様はご遠慮願いたい。大人のマンガ好きはネタバレに出会う前に1巻入手に走れ。好き嫌いは分かれるだろうが、損したとは思わないはず。
(ネタバレになりそうな感想はコメント欄に書いた。1巻読んだ人だけどうぞ。)
おまけ
「夜は自己嫌悪で忙しいんだ」
by 木戸孝紀
tags:コミック 花沢健吾