2016 2/19

『反対進化』★★★★

 エドモンド・ハミルトン著。おもろい。古さは否めないけど、粒ぞろい。

『「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する』★★

 橘玲著。タイトルが悪い。副題の方が内容を表すには正しい。進化心理学や行動経済学が好きな人にはもう当たり前の内容だけど、簡単なまとめとしてはいいのでは。

『だれもが偽善者になる本当の理由』★★★★★

 ロバート・クルツバン著。読んだの結構前だが、なぜか紹介を忘れてた。自己欺瞞と心のモジュール性に関する非常に重要な本だと思う。内容はshorebird先生にお任せ。

『イーロン・マスク 未来を創る男』★★★★★

 アシュリー・バンス著。会長のメルマガで話題が出てきたので読んだが、むちゃくちゃ過ぎて面白い。多少は話を盛ってるのかもしれんにしても。

『家庭モラル・ハラスメント』★★★★

 熊谷早智子著。うひいいいい怖い! 心当たりある人は勿論、ない人にもおすすめ。

『虚空の旅人』★★★★

 上橋菜穂子著。シリーズ4冊目。主人公が変わってるが安定したクオリティ。

『コンピュータは数学者になれるのか? -数学基礎論から証明とプログラムの理論へ-』 ★★★

 照井一成著。これもタイトルがやや誤解を招くもので、副題だけ見るのが正しい。内容は大変良い。このテーマで過去最高級だと思う。

『暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待』★★★★★

 エイドリアン・レイン著。これはむちゃくちゃいい。必読。医学・犯罪学の啓蒙書としても、単に面白い読み物としても、生活や子育ての参考書としても、政策の提言としても、SFとしても(?)いずれも一級。

by 木戸孝紀 tags:

2015 5/25

暴力の人類史 上

 ピンカーの『暴力の人類史』を読んで考えたこと。大半は今回初めて考えたというわけではないが。

 『暴力の人類史』を読んでいることを前提とするが、必ずしも必須ではない。

 価値観の話でややこしくなるのを避けるため、単純に人類間の暴力を減らすことを良しとする。ブロイラーの福祉とか、地球のため宇宙のためとかは考えない。

 理由はどうあれ事実として暴力はずっと減少してきたし、今後も減り続ける可能性が極めて高い。予見しうる将来にわたって時間は味方だ。

 ここでは格言に反して、巧遅が拙速に勝る。どんなもっともらしいあるいはもっともらしくない理由であっても、棚上げ・時間稼ぎ・現状維持は、ほとんどの場合に善だ。

 統計的に考えた場合、暴力が無視できるほど減るまでに、特異点的な大破局、平たく言えば第三次世界大戦を起こさないことだけが肝要だ。

 バイオテロは現実だが実践的に極めて困難で、ナノテク災害や人工知能の反乱はまだSFで、おそらく永久にSFにとどまる。

 結局、第三次世界大戦であっても、大破局を人為的に引き起こせる手段は、古典的(?)な戦略核兵器の撃ち合いぐらいしかない。その危険もキューバ危機を頂点に大幅に減っているが。

 戦略核兵器の運用能力があって、ユートピアイデオロギーの影響下にあり、民主的でない独裁政権を持つ国がポイントになるが、かなり限られる。中国・ロシア・イラン・北朝鮮ぐらいだろう。

北朝鮮

 このうち北朝鮮は、個人独裁過ぎて何世代も持たないだろうし、今ですら中国が保護していなければ一時も成り立たないので、今回の観点としては中国の一部と言ってもよいだろう。

 独裁崩壊が不測の事態(のきっかけ)になりうるけども、もちろんいい方向にも変わりうる。良くも悪くもそれだけだろう。

イラン

 『暴力の人類史』でもあったと思うが、イランが核化しても、別に何も起きないだろう。インドやパキスタンの時と同じように。

 およそありそうもないような奇跡的な最悪ケースでも、せいぜいイスラエルとイランの限定核戦争だろう。(もちろんそれでも十分ひどいが。)

イスラム

 イランのついでにイスラムについて。

 個人的には、暴力という観点から見てのイスラムの問題点は、ムハンマドがイエスと違って世俗的にも成功してしまったために、政教分離が困難なシステムになってしまった、ということに尽きると思われる。

 『暴力の人類史』の中で最も実践的な指摘はモラルの適用範囲を狭めれば暴力は減るということだろう。

 宗教は(全ての文化でそうだというわけではないにせよ)モラルとかなり重複するし、政治というのは(それが全てというわけではないにせよ)暴力装置の独占である。

 政教分離はモラルの非暴力化+適用範囲の大幅削減に他ならない。

 それにイスラムは統一された政体ではないし、そうなりそうな気配もない。ISとかがいくらがんばってもこの記事で考えているような破局をもたらしうるとは思えない。

ロシア

 第2次世界大戦後初めて武力で大きく国境線を変更して、歴史の時計を巻き戻した感があるロシアだが、これは大部分ウラジーミル・プーチンという類い希な個性と能力の持ち主ひとりの問題に見える。

 大破局が特異な性格の個人によって引き起こされうるというのが『暴力の人類史』でも強調された警告であるから、だからと言って警戒しないでいいというわけではない。

 だが、彼の代を過ぎてもロシアが今ほど危険である可能性は、かなり低いと思うし、彼の代のうちに大破局を選ぶほど彼が馬鹿とも考えにくい。

中国

 そうなると結局、唯一本当の本当に危険になる可能性があるのは中国だ。

 だいぶ薄れたとはいえ共産主義というユートピアイデオロギーを正統とする独裁政権が、世界一の人口とまもなく世界一にもなろうかという経済を擁している。

 だが、ここでもやはり時間は味方だ。現在の中国共産党指導者がどれほど酷かろうが、毛沢東と比べたら天使のようだ。今の指導者と50年後の指導者を比べても同じだろう。

 人口動態も味方になる。中国にもまもなく来る人口減少と高齢化は、経済的にはともかく暴力の観点からは利点しかない。直感的にも明らかだが暴力傾向はおおむね若い男性のものだからだ。男女比の偏りも今より悪化はしないだろう。

 中国が経済的・軍事的に地球の覇権を握るというビジョンは、ちょっと前に日本が経済的にそうだと思われていたのと同じく、近過去から現在までのトレンドをそのまま未来に外挿するというありがちな誤りに過ぎない。

 何度でも言うが時間は味方だ。常に今が一番危険な時で、あとほんのちょっと(歴史的な尺度では)だけバランスを取って耐えればいいだけだ。

 しつこいが棚上げ・時間稼ぎ・現状維持がおおむね善だ。逆に一番まずいのは、今すぐ何かやらないともっと危険になるという誤った危機感に捕らわれることだ。恐怖すべきことはただひとつ、恐怖そのものだ。

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2009 10/11

名誉と暴力―アメリカ南部の文化と心理

 『みんなの進化論』で言及されていて面白そうだったので読んだ。以下は超要約。

 アメリカ南部の文化が、端的に言ってマッチョ的だというイメージは広く知られている。しかし、南部人は単に何に関しても暴力的というわけではない。自分自身や女性親族の「名誉」を守るという文脈で、特に暴力を許容する傾向がある。

 よく言われてきた「奴隷制のせいで良心が摩滅しちまったんだよ」という類の説明は、「社会制度が暴力肯定を助長することがある」という一般論として正しい部分はあるかもしれないが、南部の特殊性を説明しうるものではない。

 南部の「名誉の文化」の特殊性は、初期の移民達の牧畜生活の産物である。盗まれやすい家畜が主な財産であり、公権力に頼りにくい牧畜生活では、家畜や家族を守る暴力を持たないと見なされる、すなわち「なめられる」ことは、死活問題に繋がりやすいからである。

 かなり面白かった。実験やデータの説明もなかなか面白いのでぜひおすすめ。

参考リンク

おまけ

 牧畜と文化つながり(?)

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