核と塩

塩の博物誌

 昔上記エントリを読んでたときに思いついた話だが、ネタ帳に埋まっているのを発見したので核。じゃなかった書く。

 軍事力が通貨の信用の裏付け(のひとつ)となるなどというのは、別に核以前から当たり前の話なので、ウラン・プルトニウム本位制という話にあまり価値があるとは思えない。現代の核の位置づけをたとえるならよりむしろだろう。

 塩は老若男女を問わず生存に必須のため、専売が行われたとされる。それはもちろん正しいが、塩よりもっと生存に必要不可欠なものだってある。たとえば空気や水だ。それなのに、なぜ酸素の専売を行う政府がないのか? 言うまでもなく、コントロール不能だからだ。

 しかし塩は違う。まとまった量の塩を得る方法は実際上2通りしかない。

  • 岩塩を掘る
  • 海水を乾かす

 の2通りだ。いずれも決まった場所でしか行えず、しかも労働力の集中的な投入を必要とされるので、隠れて行うことができない。そのため権力による独占が可能である。

 では、核についてはどうか。老若男女を問わず核攻撃されないことが生存に必須であることは確かだが、もし本気で大量破壊兵器として使用することだけを考えた場合、核兵器より化学兵器の方が有効だ。安くて・強くて・作りやすい*1

 これは一見いいことずくめのようだが、最後の「作りやすい」は、実はまずい。独占できないからだ。普通の化学工場でも作れる化学兵器が大量破壊兵器の主役だったら、いくら持っていても優位というものはなくなる。それでは意味がない。

 対して核兵器の製造は極めて難しい、原料となる濃縮ウラン・プルトニウムを得るにも、まずウランを掘って、

  • 濃縮する
  • 原発でプルトニウムを得る

 かのいずれかの工程が必要だ。どちらも大規模な施設が必要で、こっそりできるようなものではない。

 起爆装置を作るのも大変な仕事である。原爆*2は天文学的な資金を費やしたマンハッタン計画とフォン・ノイマンのような超天才達の能力なくしては作れなかった。21世紀の軍事大国*3北朝鮮でさえ本当に作れたか大いに怪しいほどなのだ。

 そのため核兵器は強国による独占が可能で、それ故に価値がある。こんな条件を満たせる兵器が他に誕生する*4はずもなく、地球上に話を限定する限り水爆より上の威力には意味がないし、本気で宇宙進出するような時代まで兵器が必要とされるとも思えないので、結局核は永遠に“最終兵器”であり続けるのだろう。

*1:実際オウム真理教にも作れた。
*2:とりわけプルトニウムによる爆縮式原爆。
*3:という表現は一見奇異に感じるが事実だ。
*4:正確にはすでにあるのにわざわざ他に誕生させる。

おまけ

 兵器と塩つながり。

コメント

  1. 木戸孝紀 より:

    >名無しさん
    北朝鮮に触れたからか、最初の括弧付き「金」を「キム」と読んでいて、後で気づいて1人で勝手に吹いた(笑)。

  2. 匿名 より:

    塩っすか?うまい表現だ。
    ふむ、持っていれば権力に直結するところや、戦闘行為自体が目的なら別に無くても代替できるところなんか、言いえて妙ですな。
    しかし、化学兵器と違ってミサイルを撃った時点で瞬時に話が終わるとことかは「金」に近いか・・・「お前ん家のトイレにミサイル撃つぞ」という言葉自体が最大の外交カードあって、フタをあけてみたらどうかなんて実際は誰も知らんとか。「金」っつーか先物取引の手形?あれ?やっぱり結局、塩とか小豆なんか?w

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