本書の原題”Out of Thin Air”は、直訳すれば「薄い大気の中から[進化した]」というような意味である。薄いというのは酸素濃度のことであり、何が進化したかといえば、話題の中心は恐竜と鳥類である。しかし著者ピーター・ウォードはもっと大風呂敷を広げる。地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれたというのだ。歴史上の大量絶滅はことごとく酸素濃度が急落した時期と一致している。そうした時期には、低酸素という危機を乗り切るための新しい機関や新しい体制(ボディ・プラン)をもつ生物が出現し、そのあと、酸素濃度の回復にともなって、体制の組み換えに成功した少数の種が、多様な生息環境に適応放散していったのだという、壮大な仮説を提唱している。
- 人間が高山病であっさり死ぬ一方で、ヒマラヤを越えて渡りをする鳥がいる。
- 鳥の呼吸器官:気嚢は哺乳類のそれよりかなり効率がよい。とりわけ酸素濃度が低いときに。
- 最近の研究では恐竜も気嚢を持っていたことはほぼ確実。おそらく気嚢を持つ冷血動物という現代のどの動物とも似ていない動物だった。
- 恐竜の繁栄は低酸素の時代に効率の良い呼吸システムを身につけたことに寄るところが大きいのではないか。
- 現在の鳥に、温血かつ飛翔という途方もない重労働が可能なのは低酸素の時代に身につけた呼吸器官を高酸素の現代で使用しているから。
- 低酸素の時代は生きにくい。大量絶滅と低い多様性。環境圧力が高く、新しい体制が生まれやすい。
- 高酸素の時代は生きやすい。多様性が増し、大型化する。
- 石炭紀、リグニンを分解する微生物がおらず木材がそのまま埋没した*1有機物が大量に埋没すると高酸素になる。
- 石炭紀・ペルム紀初期は現在以上の高酸素。昆虫が大きくなれたのもそのため。有名な巨大トンボを現代に連れてきたらたぶん酸欠になる。
- 大量絶滅は低酸素環境か急速な酸素濃度低下にほぼ一致している。恐竜の絶滅が隕石衝突によることは確実だが、他の大量絶滅もそうだと思うのは早計。
- いかなる哺乳類も4千数百メートルより上では、生きていることはできても繁殖できない。胎児に酸素を供給できない。低酸素時代にはより低い標高でも遺伝子の隔離を起こしえたであろう。
なかなか面白い。何を言うにしても“ゲオカーブサーフ”という酸素濃度の推定に使われているモデルが正しければ、という条件付きになってしまうのが歯がゆいが、概ね正しい方向性に思える。
*1:後の石炭である
参考リンク
おまけ
「息を吸うの忘れた……。」(笑)
コメント
[自然科学][小ネタ]体長10メートルのゴキブリは人類の天敵たりうるか?
ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』 神は細部に宿り給うで紹介されている、進化と酸素濃度の話は興味深い。じゅうぶんアリだと思うんだけど、専門家の評価はどうなんだろにゃ。 ところで、引用したエントリにある 石炭紀・ペ