もっと人を殺しましょう

鋼の錬金術師(12) 初回限定特装版

 『鋼の錬金術師』(以下ハガレン)がいよいよ核心に迫ってきたようで面白いです。やはり現在連載中の少年漫画では群を抜いています。海外でも人気らしいですし、誰もが認める面白さと言えるでしょう。

 しかし、なぜ面白いのかを考え始めるとハガレンほど難しい作品もないです。個々の要素に分解してみると特別優れているところが1つもなく、むしろ古くさいと感じるところばかりだからです。

 アニメ化でブームになった頃、錬金術の設定が面白いとか、等価交換のテーマ性がどうとか、あえてB級にこだわる娯楽性がどうとか、いろいろと研究されてはいました。

 しかし1つとしてハガレン独自の特徴であるとも、その人気のほどを説明できているとも思えませんでした。するとハガレンは一体なぜ面白いのでしょうか?

 単刀直入に言いましょう。ハガレンが面白いのは昔の漫画のようにきちんと人を殺しているからです。ニーナを・ヒューズを・憲兵Aを・グリード組を・バリーを・ラストを、しっかりと殺しているからです。

 ついでに言うと手足が不具(なぜか変換できない!)だったりもげたりちょん切れたり、頭がぶっ飛んだりする描写をきっちりと描いてるからです。

 短絡しすぎと思いますか? では『ワンピース』で常に過去編の方が人気なのはなぜでしょう? 過去編だけはちゃんと人が死ぬからですよ。それしか考えられません。

 『H×H』がたまにしか載らない下書き状態でも人気を維持できるのはなぜでしょう? どんな人気キャラでも次週には肉ダンゴかもしれないという緊張感があるからですよ。違いますか?

 私は提案します。面白い漫画を描きたかったらもっと人を殺しましょうと。ここまではっきり言い切るのは、現在日本を覆っているある空気に対して自分が不満を感じていることを再確認する機会があったからです。

 「不殺」が一種のPC運動となっているという指摘は当を得ていると思います。PC的教条主義は一見道徳的高所に立っているように見えて、思想の自由を妨げ社会を誤った方向に導きます。あなたが

 と感じているとしたら、間違いなくその原因の一角を占めているはずです。

 勝手な期待かも知れませんが、私はハガレンにこの「空気」を出し抜き、あわよくば打ち倒して、その先を切り開いてくれる可能性を見ています。他の表現者にもその気構えが伝播して欲しいと願っています。

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