スティーブン・ジョンソン『ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている』

ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている

 これはいい本だ。ある種の人たちは考えもしないことで、逆の種類の人たちはあまりにも当然だと思って、それぞれ言わないでいることを、まとめてはっきりさせたという点で素晴らしい価値があると思う。

 主張は極めて明解で首尾一貫している。以下は私なりの要約。

 「ゲーム脳」の例を引くまでもなくゲームやテレビが人々、とりわけ子供を白痴化させるという言説は極めて一般的であるがそれは多くは偏見に基づく嘘である。仮に本がゲームよりあとに発明されていたら彼らがなんと言って読書を非難するか想像してみよ。

 現代人の平均的な知能はわずかな期間に着実に増加した。それはもちろん遺伝的な影響ではなく文化の影響だ。『パックマン』から『ハーフライフ2』へ、のんびりしたホームドラマから『24』へと、ゲームやテレビは着実に複雑化してきた。それが人々とりわけ子供達の脳に対してパターンやシステムを認知する訓練を施しているのだ。

 本当に視聴者や子供達が怠け者で、大資本メディアが稼ぐためにそれに迎合することしか考えていないのであれば、ゲームもドラマも昔よりもっと簡単でわかりやすく単純で何も考えないでも理解できるものになっていなければおかしいではないか。しかし、実際に起きたことはこの逆だ。

 人間は生来複雑なものを認知したい本能がある。怠け者どころではない。資本は確かに稼ぐことしか考えていないかもしれないが、コンテンツがDVDやケーブルテレビで何度でも利用されてもっと稼げるようにするために、何度も鑑賞する、プレイするに堪える複雑さを持たせるようにすることで、結果的に利用者を賢くしている。

 この学習効果は一見暴力的であるとか下品である等の、まともな証拠がない害悪に対して、ずっと明白な利益である。

 当たり前だが例がすべてアメリカのソフト・番組なので、ゲームはともかくドラマの具体例がよくわからなかったが、趣旨にはあまり影響しないので問題はない。

 特に「DVDやケーブルテレビによって繰り返し見られることで利益が上がる構造になって複雑さが利益をもたらすようになった」というあたりの話は、日本でも最近の『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒットが連想される。

 ゲーム脳への反論としてだけでなくメディア論・エンターテイメント論としても激しくおすすめ。

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おまけ

 これをやったらどうなるかなあ。

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