ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために

 ジョセフ・ヒース著。単独でこれという新しい知見はないのだけど、とにかく尋常じゃないほど良い。それも『資本主義が嫌いな人のための経済学』と同じ人だと!? とんでもねえな。

 今日日「哲学者」の肩書きで、ここまで自信持っておすすめできる著者は他にダニエル・デネットぐらいしかいないのでは。

 備忘のため内容を箇条書き形式まとめておく。かなり大胆に要約というか言い直しているので、原文とニュアンスが違ってしまっているところもあるかもしれないので注意。

  • 近年、いくつかの理由により理性が軽視され、あまりにお馬鹿な、狂気と言えるような議論が幅をきかせるようになっている。啓蒙思想を復権させ、正気を取り戻すことが必要だ。
  • アメリカには反知性主義――スノッブな知的エリートの理屈より普通の市民の直感が正しい――の伝統があり、この理性軽視の傾向は、左派より右派がうまく政治的成功につなげている。
  • 近年の心理学や行動経済学の成果「人間はホモ・エコノミクスではない」「直感で多くの物事を判断する」等が、いささか歪められ過大評価されている。
  • 新たに登場した24時間ニュース番組は、実際には15分のワンフレーズ映像の繰り返しになり、むしろ新聞等の時代と比べて、政治議論における理性の度合いを低下させた。
  • ゲッペルスがすでに気づいていた単純な繰り返しの効果が、多くの企業や選挙コンサルタントに行き渡り、商業広告や政治宣伝は、理性より直感・感情に訴える方法を洗練させてきた。
  • フランス革命や共産主義に代表される啓蒙思想1.0は、理性を過信するという誤りを犯した。主に人間の限界がよく知られていなかったためだ。
  • 保守主義から学ぶべき教訓がある。「作られた理由がわかるまで塀を壊すべきではない」。古いことがすべて良いというわけではないが、現実世界は人間が認識しているより複雑なので、うまくやれていてもその理由が説明できないということは、ままあるのだ。
  • 人間の脳は、進化的に古い・素早い・並列・直感的・動物的・ワーキングメモリを必要としないシステム1と、進化的に新しい・遅い・直列・理性的・人間的・ワーキングメモリを食うシステム2を備える。
  • デネットは意識を伴った合理的な心を「進化が与えてくれた並列型のハードウェアに――非効率的に――実装された、直列型のバーチャルマシン(仮想機械)」と評している。人間にこのバーチャルマシンを生じせしめた適応は、おそらく言語だ。
  • 大雑把に言えば、正気を取り戻すには、システム1を抑制し、システム2を優勢にさせる環境を整えることだ。
  • 大衆のためになると考える選択を政府が押しつける(パターナリズム)のではなく、大衆がより自分のためになる理性的な選択をしやすくなるような環境を、政府が整える(リバタリアン・パターナリズム)のは、実現可能な余地が大きく問題の少ない方針に思える。
  • たとえば政治報道にせめて食品成分表示と同レベルのルールや義務を課すとか、一定限度以上に短く編集することを制限するとか、それらが難しいことはわかっているが、ちょっとしたことでも効果はあるはずだ。
  • ちょうど健康を脅かすファストフード社会に対してスローフードが提唱されたように、理性を脅かす性急な環境に対しては、スロー・ポリティクスが必要だ。

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