デビルマン・寄生獣・ネウロに共通する進化論へのまともな理解 後編

魔人探偵脳噛ネウロ 12 (12) (ジャンプコミックス)

 (前回の続き)

 で、最後にネウロだ。

 最近出てきた新しいボスキャラ「シックス」の設定は、一見『オレが進化の頂点を極めた究極生物なのだッ!』的ないい加減な理解の代表に見える。

 しかし、実は定向進化を実体のあるものであるかのような言い方をしていることを除けば、原理的におかしいところは何もなかったりする。

 こんなまっとうな方法で進化した少年漫画のボスキャラというのは前代未聞ではないかと思われる。

 もちろんかなり少年漫画的誇張を施されているので、厳密に言えばどこもおかしいのだがデビルマンや寄生獣の時と同様細かいことは気にしない。

 もっと詳しく書いている人がいるので、もうちょっと詳しく知りたい人はそちらをどうぞ。

 ネアンデルタール人のくだりもまだ細部に学問的に決着していない部分はあるが、基本的な認識としては別に間違ってはいないし、特に種の区別というのは結局のところ中間型がすでに絶滅していることによってのみ意味を持っているという認識は極めてまともだ。

 これはそう簡単な話でもないのに、普通にジャンプ漫画としての流れを止めずに読めるように収まっているのは、よく考えるとかなり驚異的である。そもそも漫画全体まで含めてもこの話題にちょっとでも触れた作品が今まであっただろうか。ここまででも特筆すべきことだと思う。

 ここからは先の話になるが、上で紹介したリンクでも触れられているようにシックスが自分あるいは自分たちの血族を人類とは別種と見なすことには疑問がある。

 これまでの情報を見る限り、血族全体がどこかに地理的に隔離されているわけでも、互いの存在を知っていて仲間内でしか交配しないようにしているわけでもないようである。このことから少なくとも一部は人類と交配可能ということになり、普通の定義を取るなら明らかに人類とは「まだ」同一種である。

 「まだ」というのがポイント。もしシックス個人がすでに普通の人間と交配不可能なほど遺伝的に異なっており、血族を人類とは別種として確立したいと思っているならば(そう思わせるような描写はある)、シックスが殺さなければならないのは誰か?

 人類ではない。血族以外の人類をいくら殺しても、単に人類という同種の個体数が減る以上のことにはならない。

 実は、この場合シックスが殺さなければならないのは自分以外の血族である。血族の中にいるはずの人類ともシックスとも交配可能な中間型が絶滅すれば、その時点で初めて、人類とシックスは互いに別種であると言っても間違いでなくなる。

 この理屈からシリーズの終盤で「私が送り込んだ刺客を全て倒してくれてありがとう。おかげて私は完全に人類とは別種の存在として確立することができたよ」というような超鬼畜な展開が予想されるわけだ。(う〜む、なんて悪い奴!)

 本当にこうなったら『オレが進化の頂点を極めた究極生物なのだッ!』キャラの進化論的にまともなバージョンと言えるだろうし、こんな手の込んだ伏線を張っているのならネウロもデビルマンや寄生獣に匹敵するとまでは行かなくとも歴史に残る傑作になれる可能性もあるだろう。

おまけ

 ネウロファンには濃い人が多いようだ。MADが質・量ともに尋常でない。

コメント

  1. まえやま より:

    訂正
    ×物語が進行して行くことつれて
    ○物語が進行して行くことにつれて
    失礼しました。

  2. まえやま より:

    この記事の内容からは、いくぶんか視点が違うコメントをしてしまいますが。
    寄生獣の物語の本質的な部分は、「平凡な高校生」がわけのわからない「他者」とつながってしまって様々な事件や出来事が起きるたびにお互いの立場や発想の違いを意識せざる得なくなることになる。そして、物語が進行して行くことつれてより深く他者と向かい合うことになり、高校生が成長していく。
    というようなところだと思います。
    私が上に説明したようなことが抜け落ちたら、面白くないし、物語が成立しない。
    そして、寄生生物が地球にやってくるという、設定を別のものに変えても。上に挙げた要素が表現できる設定ならそれなりに読める漫画になるかも知れません。
    他者同士がお互いにかかわりあうことによって、それぞれ自己の認識を深めていくという、哲学的な漫画だったのかもしれません。
    冗談ですが、こんな解釈もありかな。

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