たまたま具体例が続けて目に入ったので、いわゆるニセ科学批判批判に対する自分の立場。まずガザ地区に侵攻したイスラエルの白燐弾の話。
ミリタリー系に全然興味がなく兵器の知識も戦闘に関係する法律・条約の知識もゼロに近い私は、この件に関してもほとんど何も知らないのだが、一部に「ちょうかがくへいき」的なデマを吹聴している人間がいるのは、ぱっと見にも事実だろう。
私は、尊敬する海外の著述家が一人残らずユダヤ系だという理由で個人的・心情的には超ウルトラ親イスラエルなので、
仮に100%イスラエルに批判的な立場を取るとして、すでに生中継で何人も射殺してる犯人が「人質にタバコを押しつけてます! ああ副流煙も配慮せずに!」って強調することに何の意味があるのだろうか?
……ぐらいのことは思わざるをえないのだが、そういうニヒリズムの壁を打ち破って、ガザのパレスチナ人に注目や寄付を集めようと思ったら、ニセ科学的・トンデモ的な恐怖を煽るのが一番有効な手段でもあるかもしれない。
昨今では「人間が虐殺されてます!」と普通に訴えても「だから? 虐殺なんてイラクでもチェチェンでもチベットでもダルフールでも起きてるだろ?」ぐらいにしか受け取られない場合が多いであろうし。
上のあべ・やすしさんのところからいくつか発展している農業の話。GM作物が広まる過程で、途上国の貧富の格差が広がったり、大企業にしてやられる農民が出ることもあるのは、おそらく事実だろう。
しかし、バイオテクノロジーについては相応の知識があるのではっきり意見を言わせてもらうが、GM作物のような科学技術は、ある程度以上に広く長い目で見れば、人類全体の福祉に資する。
「遺伝子組換えは“自然”に反するからダメ!」みたいな極端な――と言って悪ければ素朴すぎる――主張は、ほぼトンデモと断定してよい。*1そんな遺伝子版ラッダイト運動が幅広く勝利をおさめるようなことがあれば、その国はみんなで貧困化する*2だけだ。
しかし、そうして疎外された貧しい農民が先進国の大企業に対抗したければ「生命を弄ぶと“自然”がお怒りになるぞ! 精子が減少して人類滅亡するぞ!」とか、途上国・先進国・どこの人間にも共通して受け入れやすい、オカルト的・魔術的恐怖を煽るのが一番(もしかしたら唯一)有効な手段かもしれない。
何が言いたいかというと、弱者を搾取するようなトンデモはもちろん論外として一致できる人々の中にも、さらに弱者の側に立つことを重視する立場と、人類全体の福祉を重視する立場があり得る。ニセ科学批判批判というのは、おおむね*3前者から後者への批判であろう。
今の文脈ではどちらかと言えば後者、悪く言えば全体主義寄りであろう私としては、どんなトンデモも批判を免れるべきではないと強調した上で、オカルトは弱者の最高の、かつ往々にして最後の、武器であることも多いので、それを「おおトンデモきもいきもい」だけで済ませてしまうことはしないよう心がけよう。
超化学兵器はデマでうざいかもしれないけど「このトンデモサヨクめ!」だけで済まそうとしたら虐殺への加担にしかならないので「だったらそもそも占領・攻撃をするなよ」という方を強調するようにしないといけない。
非科学的なバイオ反対運動がうざいかもしれないけど「このオカルト主義者め!」だけで済まそうとしたら搾取への加担になりがちなので「だったら疎外される人間も救済されるように工夫しようぜ」という方を強調するようにしなければならない。
科学の周辺部に数多あるニセ科学、社会の周辺部にあるトンデモ、人間精神の周辺部にあるオカルト、これらはたとえるならタマネギやラッキョウの皮のようなものだ。
まったく剥かずに食べようとすることは明らかに有害で馬鹿げている。だからと言って、ムキになって完全に剥いてやろうとすると、食べるところも何もなくなってしまう。
剥いて捨てるべきところと残して食べるべきところに自明な境界はなく、それをどこに定めるべきかというのは、永遠のテーマの一つなのだろう。
*1:もちろんあべ・やすしさん自身はそんな極端でも素朴でもない。
*2:少なくともそうでなかった国と比較して相対的に。
*3:おおむね、と言うのは半可通による頓珍漢な批判も沢山あるからだが、下ばかり見ていたらきりがないので今は無視する。
おまけ
タマネギ→タマネギ部隊→パタリロ
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