会長が言及している、写真のクリスピー・クリームの行列。
私もたまたま先週ここを通る機会があった。行列整理の人員まで出動していてえらい騒ぎであった。見たところ何の変哲もないドーナツ屋にしか見えない。
こんなに流行っているからには理由があるはずだと思いたくなるが、実はみんなが並んでいるから並んでいる以上の理由などないのかもしれない。
顕著な例を目撃したことがある。北海道に旅行した時、札幌のラーメン横町というところに行った。私の見たのは6,7件ほどだったが、ほとんど何の違いもないラーメン屋が軒を連ねていた。
どこも凄い行列だったが、たった一件だけ行列どころか誰1人として客が入っていない店があったのである。周囲にはラーメンが食べたくて行列しているはずの人間がうじゃうじゃいるのに誰1人としてその店に入らないのである。
店は閉まっていたわけではない。明らかに営業はしていた。なぜなら手持ちぶさたの主人と店員が「一体うちの店に何が起こっているんだ……?」というようなポカーンとした表情をしていたからである。
さてこの店に何が起こったのだろう? 本当にその店に何か異常なことが起こっていた可能性ももちろんある。
しかし、私には本当に異常なことが起こったわけではないことが推測できる。その日の開店時間の直後にたまたま珍しい偏りがあったのである。
その日最初の客がたまたま4,5人ずつのグループ客で他の店に入ってその店だけに入らなかったとか。あるいは時計が狂っていたり店員が遅刻したりでシャッターを開けるのが周りの店より10分遅れたとかそんな小さな偏りが。
しかし、たとえ最初は小さな偏りであったとしても一度「行列ができている他の店と、誰も入っていない一件だけの店」という状況ができあがってしまうと正のフィードバックが引き起こされる。
新しくやってきた客(私を含む)には実際に何が起こったかは判断できない。行列ができている店にはそれなりの理由が、誰も入っていない店にもそれなりの理由があるのではないかという心配をしなければならないのだ。
わざわざ「行列ができるほど人気のあるラーメン横町」にやってきている客達は何か問題があるかもしれない店に並ばずに入るよりは、すでに行列のできている店に並ぶ方を選ぶ。
そして小さな初期値の偏りが大きな差に広がって、私の目にした状況が引き起こされたわけだ。
そうとわかっているならその店に入ってやればよかったんじゃないかって?
そうかもしれない。他の客の中にもきっと何人もそう思った人がいただろう。しかしきっと彼らは同時にこうも思ったのだろう。
誰も並んでいない店に入ればそれをきっかけに普通に客が入るようになるだろう。しかしもし誰も並んでいないことにまっとうな根拠があった場合俺は、その問題のあるラーメンを食べて帰ることになる。
普通に並べば確実にある程度美味しいラーメンが食べられるのに何で“俺が”そのリスクをかぶらなければならないのだろう。カオスに翻弄される見ず知らずの店の主人を助けるために?
もちろん私もそう考えた。だから普通に他の店に並んで普通に食べて帰った。普通に旨かった。
このクリスピー・クリームの行列も必ずしもドーナツが素晴らしく美味いことを意味しない。かといって別に不味いことも意味しない。
初めの頃にほんの些細な違いがあったら、たとえば開店日が土砂降りの雨だったとか、たまたまあるメディアで話題にならなかったらとか、あるいは取り上げられたらとか、もうすでに閑古鳥だったかもしれないのだ。
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