科学技術哲学

ガイア教の天使クジラ

ガイア教の天使クジラ32 人間の思考に対して働く時代精神の制約がいかに強力なものであるか

【第31回】 【目次】 【第33回】  歴史上存在した生物の由来に関する理論は、創造論と進化論のふたつだけというわけではない。  もちろんそれは最も重要な境目には違いないが、『種の起原』が出版されたと同時にスイッチが切り替わるように前者が後者に置き換えられ、以後そのままであるかのような印象を抱いているなら誤りだ。  それはあくまで第28回で少し触れたような、我々が歴史を理解しやすくするために必要な...
ガイア教の天使クジラ

ガイア教の天使クジラ31 ジョン・C・リリー『イルカと話す日』 5/8

【第30回】 【目次】 【第32回】  ではまた『イルカと話す日』の続きから始めよう。次の部分はちょうど第29回の引用部分の直後に続くもので、ガイア教徒の鯨類に関する中心信条とでも言うべきものである。  機会があれば後で実例もお目にかけるが、驚くべきことに――そろそろ驚かなくなってきていてもらえると嬉しいのだが――今日時点ですら、これをほぼそのまま信じている人は大勢いる。  このような考察を推し進...
ガイア教の天使クジラ

ガイア教の天使クジラ30 狂っているのは我々の歴史に対する感覚であって彼らの頭ではない

【第29回】 【目次】 【第31回】  前回で、ついに“脳”を介して歴史上三つの大いなる存在の連鎖が全て一本に繋がるところまで来た。いい機会なので少し俯瞰してまとめてみよう。  いつの時代も――少なくとも何万年という長きにわたって――ずっと変わらないものがある。それは、自分と自分たちの共同体が、宇宙の中で特別の歴史を持ち・特別の使命を帯び・特別の地位を占めていると信じたい人間の心である。  それは...
ガイア教の天使クジラ

ガイア教の天使クジラ 中間テスト

しばらくの間、全く無関係ではないとはいうものの死刑問題に浮気していたり、やっぱりもうちょっと年代順を続けた方がわかりやすいかと思って構成を変更していたりと色々事情があってずっと停止していましたが、そろそろガイア教シリーズを再開しようとしています。  しかし、やはり最速でも週一・週二ぐらいしか更新できないので、待ち時間に使えるクイズ集を作ってみました。これは学校の試験ではありません。正解を出すことよ...
ガイア教の天使クジラ

ガイア教の天使クジラ 目次

このエントリは『ガイア教の天使クジラ』シリーズのポータルページとしてwiki的な使い方をします。 シリーズ本編 回数タイトル 第1回個人的回想と主題の提示 第2回“存在の大いなる連鎖”の概念とその変遷 第3回反捕鯨は食肉業界の陰謀でも文化帝国主義でも人種差別でもない 第4回反捕鯨は科学や論理的整合性の問題ではない 第5回金儲けのための宣伝や政治利用を批判するのが論の目的ではない 第6回活動家の熱意...
科学技術哲学

佐藤克文『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待』

はるばる南極まで行ってアザラシやペンギンやウミガメにデータロガーと呼ばれる小型のハイテク装置をくっつけて後で回収し、位置・温度・水圧、時には映像まで、様々なデータを集めて、これまで明らかになっていなかった生物の海中生活を明らかにする……。  「何勘違いしてるんだ? 博物学はまだ終了してないぜ!!」  とばかりにバイオロギングという新しい研究手法を熱心に紹介する本。著者の人柄の良さと科学に対する愛情...
科学技術哲学

アルフレッド・W. クロスビー『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』

人間は自分達ホモ・サピエンスの長所を精神に求めることに慣れており、動物と身体能力を比較するときは、負けることを好む。  「俺たち人間はこんなに脆弱な肉体しか持たないのに地上を征服した。だから万物の霊長なんだぜい。イェイ!」と思うと気分がよいのだ。  そのためか、人間の身体能力のうち圧倒的に優越しているものがあることをほとんど忘れている。それは投擲力。ものを放り投げる力。  投石は初期人類にとって重...
科学技術哲学

ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』

本書の原題"Out of Thin Air"は、直訳すれば「薄い大気の中から[進化した]」というような意味である。薄いというのは酸素濃度のことであり、何が進化したかといえば、話題の中心は恐竜と鳥類である。しかし著者ピーター・ウォードはもっと大風呂敷を広げる。地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれたというのだ。歴史上の大量絶滅はことごとく酸素濃度が急落し...