書評

科学技術哲学

ニック・レーン『生と死の自然史―進化を統べる酸素』

0.予習  予告しておいてから随分間が開いたが、久しぶりに相当面白い本に当たったので紹介する。すごくオススメである。続編にあたる『ミトコンドリアが進化を決めた』も都合がつき次第読みたいと思っている。  まず、絶対に必要というわけではないが以下のエントリの内容を踏まえておいた方がもっと面白いと思う。 ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』 ガブリエル・ウォ...
科学技術哲学

リー・M. シルヴァー『人類最後のタブー―バイオテクノロジーが直面する生命倫理とは』

宗教右派と自然崇拝の左派、双方からのバイオテクノロジーに対する反発に対する、分子生物学者の立場からの批判。この手の話に慣れている人にとっては改めてすごい話は出ないと思うが、その分網羅性が高く、どんな人にも非常におすすめである。  原題は"Challenging Natrue - The Clash of Science and Spirituality at the New Frontiers o...
文化芸術宗教

土居健郎『「甘え」の構造』

英語には日本語の「甘える」に相当する言葉がない、という話から始まる日本論。Wikipediaにも項があるようなベストセラーだったそうだが最近まで知らなかった。私にはやはりこれは日本論というより裏返しの一神教論として読めてしまう。  たとえば浄土真宗では他力本願といって、自己の力で悟りを開いて成仏するなどという考え方は捨てて、ただ阿弥陀如来の力にすがるべし、というようなことを強調するわけだが、思えば...
科学技術哲学

アルフレッド・W.クロスビー『ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10~20世紀』

アルフレッド・クロスビーつながり4冊目。それなりに面白かったが、『銃・病原菌・鉄』とほぼ完全に重複する内容であり、そちらの方が時代的にも後でより洗練されているので『銃・病原菌・鉄』を読んだことがある人は、差分の分しか面白くないかもしれない。訳者あとがきより。  本書の原題はEcological Imperialism: The Biological Expansion of Europe, 900...
科学技術哲学

ウィリアム・パウンドストーン『選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?』

アローの不可能性定理 社会選択理論 投票の逆理 戦略投票  のような内容に関する本。今のところ候補ごとに1〜10点などと評価をつけさせる範囲投票が一番ましに見えるという結論らしい。  当たり前だが具体例がアメリカの話ばかりなので、読んだ面白さはウィリアム・パウンドストーンの他の著作に比べると大分劣ってしまう。  これらの話題に関しては昔もっと簡単に面白みを伝える本を読んだ記憶があって、そちらを同時...
文化芸術宗教

古川日出男『アラビアの夜の種族』

わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: この本がスゴい2008 わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 「アラビアの夜の種族」はスゴ本 【徹夜保証】  と、スゴ本さんのところでメチャメチャ褒めちぎられていたので正月休み用に選んだのだが正解。ネタバレすると致命的というわけではないが、かなり興がそがれると思うので検索禁止。  100%味わえるかどうかはある箇所で「○ィ○○○...
科学技術哲学

アルフレッド・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック』

アルフレッド・クロスビーつながりで三冊目。1918〜1919年のスパニッシュ・インフルエンザ、通称スペインかぜのパンデミックを扱った本。超不謹慎だが終始、映 画 化 決 定 ! ! というテロップが脳内を流れっぱなしであった。めちゃめちゃ面白い。  強毒性のインフルエンザが発生した。折しも世界は第一次世界大戦のまっただ中。冷たい雨の中を行軍し、狭い船に詰め込まれて移動する大勢の兵士達が、戦時公債購...
科学技術哲学

ブラッドリー・C.エドワーズ フィリップ・レーガン『宇宙旅行はエレベーターで』

軌道エレベータにはSF等ですでにお馴染みの存在だとは思うが、最近まであくまで空想の存在であり実現可能だとは思われていなかった。このために使えるほど軽くて張力に耐える物質など存在しうると思えなかったためだ。  全てを変えたのがカーボンナノチューブ。ただでさえ限りなく魅力的な新素材だが、なんと軌道エレベータのケーブル素材としての任に耐えそうなのだ。そして、それ以外に軌道エレベータのために必要な技術は、...