書評

科学技術哲学

アルフレッド・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック』

アルフレッド・クロスビーつながりで三冊目。1918〜1919年のスパニッシュ・インフルエンザ、通称スペインかぜのパンデミックを扱った本。超不謹慎だが終始、映 画 化 決 定 ! ! というテロップが脳内を流れっぱなしであった。めちゃめちゃ面白い。 強毒性のインフルエンザが発生した。折しも世界は第一次世界大戦のまっただ中。冷たい雨の中を行軍し、狭い船に詰め込まれて移動する大勢の兵士達が、戦時公債購入...
科学技術哲学

ブラッドリー・C.エドワーズ フィリップ・レーガン『宇宙旅行はエレベーターで』

軌道エレベータにはSF等ですでにお馴染みの存在だとは思うが、最近まであくまで空想の存在であり実現可能だとは思われていなかった。このために使えるほど軽くて張力に耐える物質など存在しうると思えなかったためだ。 全てを変えたのがカーボンナノチューブ。ただでさえ限りなく魅力的な新素材だが、なんと軌道エレベータのケーブル素材としての任に耐えそうなのだ。そして、それ以外に軌道エレベータのために必要な技術は、む...
科学技術哲学

セス・ロイド『宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』

宇宙は常に時代精神の最先端を走るイメージでたとえられます。 大昔は宇宙は大きな卵だったり、亀の背中に乗ってたりしました。中世ではもちろん宇宙は神でした。科学が勃興すると宇宙は時計仕掛けの機械だと言われたこともあります。コンピューターが発達した頃は宇宙はコンピューターだと言われ、複雑系ブームの頃は宇宙はカオスの渦だと言われました。 そして現在。いよいよ量子コンピューターが現実味を帯びてきたので、もち...
文化芸術宗教

バート・D. アーマン『破綻した神キリスト』

『捏造された聖書』の著者の本。こちらはそこまで面白くはなかった。極東ブログの書評が非常に詳しく、私もほぼ同意できるのであまり書く事がない。 ヨブ記がどんな話かとか黙示思想がどんなものかとかをあまり知らない人の方がむしろ新鮮で面白いかもしれない。黙示思想は今でもこんな形で現れたりするものだし、知っておいて損はないと思う。 ただ、これに関連して『多様化世界』の記事で予告していたフリーマン・ダイソンの神...
科学技術哲学

ビョルン・ロンボルグ『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』

昨日の映画と、『生物多様性という名の革命』の山形浩生で思い出した。 要するに「このままではもうすぐ人類は滅亡する!」みたいな恐怖を煽るお決まりの話には眉に唾つけて、環境対策はリスクとコストとベネフィットを総合的に判断してやろうぜ、という話。 核融合エネルギーの実用化可能性について楽観的すぎたりとか、つっこみたくなるところはいくつかあるが概ねまともと言ってよい内容。 ただし、これに便乗したかのように...
科学技術哲学

ニール・シュービン『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト―最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅』

ティクターリク(Tiktaalik)の発見者が書いた本。とは言っても話はティクターリクだけに留まらず、魚類から四肢動物への進化の過程エボデボ(発生生物学+進化生物学)人類と他の生物が祖先を同じくすることの意味 と、多岐にわたる。それぞれについては関連図書にあげたような本の方が詳しいが、その全てが約300ページ・2000円とかなり圧縮してまとまっている。すごくいい本だと思う。今まで興味がなかったよう...
文化芸術宗教

エーリッヒ・フロム『愛するということ』

『自由からの逃走』からエーリッヒ・フロムつながりで読んだ。“愛”についての本。内容は参考リンク先が充実しているので繰り返さない。 面白いけど原著が1956年というだけあって、とても時代を感じる。今日時点で、 社会の未開人的自然崇拝的な愛からキリスト教的な愛への成長を、個人の母性的愛から父性的愛への成長になぞらえる なんてことをやったら「二重三重の意味でPCでない!」と怒られるんではなかろうか。私は...
科学技術哲学

トム・カークウッド『生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』のための予備知識二冊目。1.なぜ老いるのか 人間の寿命の信頼できる最高記録は120年とちょっとである。不老不死は今も昔も究極の夢であるが、そもそも生物はなぜ老いるのか? 老化は極めてありふれた現象であるにもかかわらず、実はこの問いに完全な答えは未だ得られていない。 「細胞は常に損傷に晒されているんだからいずれ劣化するのは当たり前じゃないの?」などと言ってみたとこ...