書評

科学技術哲学

セス・ロイド『宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』

宇宙は常に時代精神の最先端を走るイメージでたとえられます。  大昔は宇宙は大きな卵だったり、亀の背中に乗ってたりしました。中世ではもちろん宇宙は神でした。科学が勃興すると宇宙は時計仕掛けの機械だと言われたこともあります。コンピューターが発達した頃は宇宙はコンピューターだと言われ、複雑系ブームの頃は宇宙はカオスの渦だと言われました。  そして現在。いよいよ量子コンピューターが現実味を帯びてきたので、...
文化芸術宗教

バート・D. アーマン『破綻した神キリスト』

『捏造された聖書』の著者の本。こちらはそこまで面白くはなかった。極東ブログの書評が非常に詳しく、私もほぼ同意できるのであまり書く事がない。  ヨブ記がどんな話かとか黙示思想がどんなものかとかをあまり知らない人の方がむしろ新鮮で面白いかもしれない。黙示思想は今でもこんな形で現れたりするものだし、知っておいて損はないと思う。  ただ、これに関連して『多様化世界』の記事で予告していたフリーマン・ダイソン...
科学技術哲学

ビョルン・ロンボルグ『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』

昨日の映画と、『生物多様性という名の革命』の山形浩生で思い出した。  要するに「このままではもうすぐ人類は滅亡する!」みたいな恐怖を煽るお決まりの話には眉に唾つけて、環境対策はリスクとコストとベネフィットを総合的に判断してやろうぜ、という話。  核融合エネルギーの実用化可能性について楽観的すぎたりとか、つっこみたくなるところはいくつかあるが概ねまともと言ってよい内容。  ただし、これに便乗したかの...
科学技術哲学

ニール・シュービン『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト―最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅』

ティクターリク(Tiktaalik)の発見者が書いた本。とは言っても話はティクターリクだけに留まらず、 魚類から四肢動物への進化の過程 エボデボ(発生生物学+進化生物学) 人類と他の生物が祖先を同じくすることの意味  と、多岐にわたる。それぞれについては関連図書にあげたような本の方が詳しいが、その全てが約300ページ・2000円とかなり圧縮してまとまっている。すごくいい本だと思う。今まで興味がなか...
文化芸術宗教

エーリッヒ・フロム『愛するということ』

『自由からの逃走』からエーリッヒ・フロムつながりで読んだ。“愛”についての本。内容は参考リンク先が充実しているので繰り返さない。  面白いけど原著が1956年というだけあって、とても時代を感じる。今日時点で、  社会の未開人的自然崇拝的な愛からキリスト教的な愛への成長を、個人の母性的愛から父性的愛への成長になぞらえる  なんてことをやったら「二重三重の意味でPCでない!」と怒られるんではなかろうか...
科学技術哲学

トム・カークウッド『生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』のための予備知識二冊目。 1.なぜ老いるのか  人間の寿命の信頼できる最高記録は120年とちょっとである。不老不死は今も昔も究極の夢であるが、そもそも生物はなぜ老いるのか? 老化は極めてありふれた現象であるにもかかわらず、実はこの問いに完全な答えは未だ得られていない。  「細胞は常に損傷に晒されているんだからいずれ劣化するのは当たり前じゃないの?」などと言ってみ...
科学技術哲学

ガブリエル・ウォーカー『スノーボール・アース 生命大進化をもたらした全地球凍結』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』という本がめちゃめちゃ面白かったのでそれに関して書きたいのだが、その前に前提知識として持っておいた方が思われる内容があるので、以前読んだ本を紹介する。まずは一冊目。  スノーボールアース仮説*1は、最近NHKスペシャルの地球大進化でも言及されていたように記憶しているが、大陸移動説以来までは言わなくとも、K-T境界の隕石衝突説に勝るとも劣らない重要な地質学上の革命...
科学技術哲学

アルフレッド・W・クロスビー『数量化革命 ヨーロッパ覇権をもたらした世界観の誕生』

『飛び道具の人類史』が面白かったので、アルフレッド・クロスビーつながりで借りてきた。  中世のヨーロッパは全てが宗教一色に塗り固められていて文明はむしろイスラム圏や中国より劣っており、近代の繁栄が始まったのはギリシア文明のルネッサンスから、というのは中学校でも習う話だが、それを“数量化”という観点からまとめた本。訳者あとがきより。  世界を理解する枠組みが、従来のような定性的で目的論的なものから、...