書評

科学技術哲学

デニス・シュマント=ベッセラ『文字はこうして生まれた』

文字から計算が生まれたのではなく計算から文字が生まれた。文字に繋がる抽象化にまつわる最も古い遺物は一定間隔で刻み目の入った骨。数えていたものはおそらく日数。 家畜を管理するために、一頭囲いから出すごとに一つ小石や小枝を拾い、一頭囲いに戻すたびに一つ落とす、といったことをしていた時期があったはず。*1 シュメールの遺跡では粘土で作られた様々な形のトークンが出土する。農耕の始まりと定住生活によって増え...
科学技術哲学

レイモンド・スマリヤン『天才スマリヤンのパラドックス人生 ゲーデルもピアノもマジックもチェスもジョークも』

否定できないけど自分で天才って言っちゃうのはどうよ? と思ったら原題は"Some Interesting Memories: A Paradoxical Life"(「いくつかの興味深い思い出――ある逆説的な人生」)だった。  レイモンド・スマリヤンの本は昔とても好きだった。既読のものと内容が重複する部分が多いのでこれ自体はあまり楽しめなかったが。 数学パズル ものまね鳥をまねる―愉快なパズルと結...
科学技術哲学

デヴィッド・タカーチ『生物多様性という名の革命』

うむむ、もともとある下心を持って借りてきたのであって、良い本だと期待していたわけではないのだが、これではちょっとグダグダ過ぎて叩き台にも使えない。  amazonリンク先の山形浩生の書評にほぼ同意する。多様性擁護がこんなスピリチュアルしなくちゃできない議論だと思われたらかえって迷惑だ。 参考リンク 地球温暖化や生物多様性の発見から政治へ 『生物多様性という名の革命』 - leeswijzer: b...
科学技術哲学

ポール・ホフマン『放浪の天才数学者エルデシュ』

ポール・エルデシュの伝記にからめて様々な数学および数学史の逸話を盛り込んだ本。  四六時中手を洗う、とか潔癖症を通り越して強迫神経症を疑わせるようなエピソードが多数あり、これまた天才とキ○ガイは紙一重と表現したくなるような人物だったようだ。  エルデシュ自身に一般的にすごくわかりやすい目立つ業績(たとえば「あのフェルマー予想を証明した!」とか「あのポアンカレ予想を証明した!」とか)があるわけではな...
政治経済社会

前田高行『アラブの大富豪 』

“アラブの石油王”なんて表現はフィクションではお馴染み……かと言えばそうでもないな。イスラム圏なので文化の壁もあるだろう。そもそも本当の金持ちというのは、自分がいくら金を持っているかも、どのように運用しているかも秘密にするものだそうである。  まあ確かにそうだろう。近代的な会計制度によって財務がオープンになる企業を通して金持ちになるという私たちが当たり前だと思っているスタイルが、むしろ最近になって...
科学技術哲学

デーヴ・グロスマン ローレン・W・クリステンセン『「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム』

『戦場における人殺しの心理学』の実践編みたいな位置づけの本。前作と共通部分が多いので、普通の人は前作のみで十分かもしれない。逆に自衛隊員・警察官・SP・警備員・消防士といった職業の人は自腹切っても読むべきだと思う。  いや……自腹というか、配られて然るべきなんじゃないのか? そもそも日本の自衛隊や警察では、ちゃんとこういう最新の研究成果に基づいた教育と訓練が行われているのだろうか? 根拠はないが絶...
科学技術哲学

パスカル・ボイヤー『神はなぜいるのか?』

原題は『説明される宗教』(Religion Explained)。原題の方が内容に忠実だ。全体の趣旨は私なりに思いっきり要約するとこう。 従来の説明 宗教は説明を与える。 宗教は安らぎを与える。 宗教は社会に秩序を与える。 宗教は認知的錯覚である。  これらはみな一理あるが不十分である。このような現在「宗教の特徴」と言われて思いつくようなものは、いくつかの大宗教の特徴であるに過ぎず、宗教全体の中で...
アニメコミック

Boichi(ボウイチ)『HOTEL』

いけさんフロムFR・NEO RE 壮大なるSFロマン!Boichi作品集「HOTEL」が待望のリリース!!  立ち読みで印象に残っていた作品だけど、上のいけさんのところで単行本化を知って速攻買ってきた。やはりこれは絶品。読んでいて、なぜか木城ゆきとの『飛人』を思い出した。何となく雰囲気とか全体の密度の高さとかノリとか、もちろんSF短編集であること等が似ている。神漫画『銃夢』作者の短編集と無意識に比...