書評

政治経済社会

藤原辰史『ナチス・ドイツの有機農業―「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」』

今もシュタイナー教育などに名を残し、真面目に受け取っている人もいるルドルフ・シュタイナーと有機農法の話から始まって、自然を愛し全ての生命と共生しようという思想がなぜ大量殺人のような結果を生んだのかを巡る話に繋がっていく。  私はこれとかこれとかナチスネタには目がないのだが、この本と『ナチスと動物』『健康帝国ナチス』の2冊はどれも素晴らしく、“いまここにいるナチス”三部作とでも勝手に命名しておすすめ...
科学技術哲学

ウィリアム・パウンドストーン『天才数学者はこう賭ける―誰も語らなかった株とギャンブルの話』

クロード・シャノンといえば情報理論を1人で生み出し完成させたと言われる、今日のコンピュータ化世界を作った立役者の一人。そのシャノンの人生と絡めてギャンブルと金融市場に関する理論とアメリカ社会の歴史を描くという本。  ちょうど同じウィリアム・パウンドストーン著でフォン・ノイマンにスポットを当てた『囚人のジレンマ』と同じような構成だ。彼の本はどれも最高クラスに面白く、もちろんこの本もつまらなくはないの...
科学技術哲学

河井智康『消えたイワシからの暗号―七人の研究者と魚類五億年目の謎』

このものすごいタイトルを見て超絶したトンデモ本を期待して借りたのに、意外にもまともな水産学本だった。  妙に力の入った言い回しを好む人らしく、ところどころかなり変なことも言っているが本筋にはあまり関係ない。ちょっと残念(笑)。 おまけ 【ニコニコ動画】初音ミクねんどろいど到着記念「おさかな天国」
科学技術哲学

マイク・モーウッド『ホモ・フロレシエンシス―1万2000年前に消えた人類』

1万2000年前と言えば、以前紹介した『銃・病原菌・鉄』で、人間集団間の文明の格差が生じ始めるスタート時点として仮に設定されていた1万3000年前よりも後だ。  そんな年代まで、チンパンジー並みの体格で火や石器を操っていた別の人類が生きていたとしたらどうだろう?  ……という、実に様々な知的興奮を掻き立てるホモ・フロレシエンシスだが、この本自体はどうも書き方が悪いのか、研究に際しての他の研究者やマ...
文化芸術宗教

松岡正剛『日本という方法―おもかげ・うつろいの文化』

なんかものすっごい微妙な本。何とも説明しづらい感覚なのだが、これを読んで「感動した!」って人間とはあまり趣味が合わなさそうと思う反面、これに書いてあるようなことを「全然興味もありません。」って人間ともあまり趣味が合わなさそうな感じ。  よって、一目で「面白そう」と思った人には「必ずしも読まなくてもいいです」と言い、一目で「全然食指が動かない」という人には「まあそう言わずに読んでみて」というぐらいの...
科学技術哲学

佐藤克文『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待』

はるばる南極まで行ってアザラシやペンギンやウミガメにデータロガーと呼ばれる小型のハイテク装置をくっつけて後で回収し、位置・温度・水圧、時には映像まで、様々なデータを集めて、これまで明らかになっていなかった生物の海中生活を明らかにする……。  「何勘違いしてるんだ? 博物学はまだ終了してないぜ!!」  とばかりにバイオロギングという新しい研究手法を熱心に紹介する本。著者の人柄の良さと科学に対する愛情...
科学技術哲学

アルフレッド・W. クロスビー『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』

人間は自分達ホモ・サピエンスの長所を精神に求めることに慣れており、動物と身体能力を比較するときは、負けることを好む。  「俺たち人間はこんなに脆弱な肉体しか持たないのに地上を征服した。だから万物の霊長なんだぜい。イェイ!」と思うと気分がよいのだ。  そのためか、人間の身体能力のうち圧倒的に優越しているものがあることをほとんど忘れている。それは投擲力。ものを放り投げる力。  投石は初期人類にとって重...
文化芸術宗教

井筒俊彦『イスラーム文化 その根柢にあるもの』

最近ちょっとシーア派とスーフィズムの位置づけについて確認したいことがあって再読。  真面目なのとコミカルなのという位置づけで、下の阿刀田高のとセットで読むとちょうどいいか。あとは昔読んでいいと思ったこれとか。 参考リンク イスラーム文化 その根柢にあるもの - 情報考学 Passion For The Future おまけ  これはドバい。 【ニコニコ動画】沸騰都市 01 「ドバイ 砂漠にわき出た...