書評

科学技術哲学

アルフレッド・W. クロスビー『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』

人間は自分達ホモ・サピエンスの長所を精神に求めることに慣れており、動物と身体能力を比較するときは、負けることを好む。 「俺たち人間はこんなに脆弱な肉体しか持たないのに地上を征服した。だから万物の霊長なんだぜい。イェイ!」と思うと気分がよいのだ。 そのためか、人間の身体能力のうち圧倒的に優越しているものがあることをほとんど忘れている。それは投擲力。ものを放り投げる力。 投石は初期人類にとって重要な武...
文化芸術宗教

井筒俊彦『イスラーム文化 その根柢にあるもの』

最近ちょっとシーア派とスーフィズムの位置づけについて確認したいことがあって再読。 真面目なのとコミカルなのという位置づけで、下の阿刀田高のとセットで読むとちょうどいいか。あとは昔読んでいいと思ったこれとか。参考リンクイスラーム文化 その根柢にあるもの - 情報考学 Passion For The Futureおまけ これはドバい。【ニコニコ動画】沸騰都市 01 「ドバイ 砂漠にわき出た巨大マネー」
科学技術哲学

ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』

本書の原題"Out of Thin Air"は、直訳すれば「薄い大気の中から[進化した]」というような意味である。薄いというのは酸素濃度のことであり、何が進化したかといえば、話題の中心は恐竜と鳥類である。しかし著者ピーター・ウォードはもっと大風呂敷を広げる。地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれたというのだ。歴史上の大量絶滅はことごとく酸素濃度が急落し...
文化芸術宗教

暁烏敏『歎異抄講話』

先月祖父が亡くなった。その葬儀の時に初めて知ったのだが、うちの宗派は浄土宗だったらしい。 ちなみにその週の絶望先生がちょうど失って初めて気づくとか、死んで初めて知るとか、そういうネタだったのですごい偶然だと思った。 そのせいという訳でもなかろうが、私は仏教の中では浄土真宗が好きだ。歎異抄は有名で色々解説本も出ているが、私はこの本をおすすめする。おまけ 仏教つながり。【ニコニコ動画】僧侶のアクエリオ...
文化芸術宗教

バート・D. アーマン『捏造された聖書』

これはとても面白かった。超おすすめ。 しかし、邦題があまりにひどい。これではどう考えてもトンデモ本にしか見えない。finalvent氏のところで見かけてなかったら絶対手に取ってないぞ。 訳者あとがきに 本書はバート・D・アーマン著『イエスの誤引用――聖書を改変した人々とその理由の背後にある物語』(Misquoting Jesus: The Story Behind Who Changed the ...
科学技術哲学

マッテオ・モッテルリーニ『経済は感情で動く―― はじめての行動経済学』

タイトルに経済と入ってはいるが、あまり経済には限定されていない。かといって散漫というわけでもなく、かえって人間の認知の偏り全般についての本としてうまくまとまっているように思える。 特にこれといって新しい話はないが、この分野に興味を持つきっかけとしていいかもしれない。かなりおすすめ。おすすめ類書おまけ 今やWiiでSFCソフトがダウンロード販売されてる時代。【ニコニコ動画】スーパーファミコン全ソフト...
WEB情報通信

安岡孝一 安岡素子『キーボード配列QWERTYの謎』

やっと図書館で借りられたので読んだ。この話の決定版と言ってよいのではないか。 要点は、「QWERTYはタイプライターのキーが絡まないように、連続して使われる文字を離してわざと早く打てないように決められた。」というよく聞く話は、意外で強い印象を与えるというだけの理由で生き残っているデマであり、本当はそんな単純な話ではなくもっと複雑な歴史的経緯があるということ。 しかし、キーボードのような実用一辺倒の...
科学技術哲学

シャロン・モアレム ジョナサン・プリンス『迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか』

病気と進化の関係というのは比較的新しくかつ面白い、ホットな話題の1つ。これとかも面白いしね。この本も面白いんだけど、1章のへモクロマトーシスについての話で、 そもそも瀉血という行為が世界中で何千年も続けられてきたという事実は、この行為に何らかのプラス効果があるということを示している。瀉血療法を受けた人が皆、死んでいたら、こんな治療法はあっというまに姿を消していたにちがいないからだ。 ひとつだけ確か...