書評

科学技術哲学

ウィリアム・ブライアント・ローガン『ドングリと文明 偉大な木が創った1万5000年の人類史』

これはなかなか面白い。 農業文明前史の仮説としての価値がどのくらいあるのかはまだ判断がつかないが、あってもおかしくなさそうな話だし、単純にオークにまつわる雑学を眺めているだけでも楽しい。おすすめ。解説より。 狩猟採集から、大文字で書く「農業革命」を経て、農業文明、そして産業文明へという常識ではなく、狩猟採集から、大文字で書かれるべき「ドングリ文化」をへて、農業そして産業文明へ、という、もう一つの大...
文化芸術宗教

繁田信一『殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語』

要約すると文学しか注目されない平安貴族の暮らしだけど、実情はわりとカオスでしたという話。当たり前と言えば当たり前なのだけど、こういう幻想が破壊される感は個人的に大好きだ。 後半はだんだん似たような内容の繰り返しになってきて、一般的にはあまり面白い本とは言い難いので、そんなに積極的におすすめはしない。ものはついでだが、源氏物語については、ふみまよう の音読mp3と、源氏物語の世界 再編集版 のHTM...
文化芸術宗教

H.S.クシュナー『なぜ私だけが苦しむのか―現代のヨブ記』

最近読んだ本の中で連続して目にしたため、有名な本らしいから読まなければと思っていた。ちなみにその一つは『ヤバい経済学』の増補改訂版だったような気がするがまた記憶違いかもしれない。 まずヨブ記そのものについて多少の知識が必要なので、まったく知らない人は、その概要と意味合いについて昔読んだ下のエントリを参考にしてほしい。ヨブ記タグについて - nerdists’ beach (旧・東瀛倭族拝天朝) 邦...
おすすめ書評まとめ

書評在庫一掃セール2009年4月版

最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。土居健郎『続「甘え」の構造』★ 『「甘え」の構造』の続編。つまらなくはないが前作以上のものは特に。立花隆『電脳進化論―ギガ・テラ・ペタ』★★★ ...
科学技術哲学

エドウィン・A・アボット『フラットランド 多次元の冒険』

404 Blog Not Found:文字通り次元が違う一冊 - 書評 - フラットランド 多次元の冒険 で復刊を知りました。ここでも少し言及しましたが、私もお薦めします。子供も大人も楽しめる、数学教育としても風刺文学としても最高クラスの一冊だと思います。おすすめ類書おまけ この動画シリーズもおすすめ。【ニコニコ動画】Dimensions 第1章 2次元
科学技術哲学

長沢和也 編著『フィールドの寄生虫学―水族寄生虫学の最前線』

寄生虫ほど人の心を捉える生物もそうはないだろう。ただしマイナスの方向にだが。口絵からして気色悪さ全開だが、『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』でも感じた現代博物学の面白さもあるので、こういう生物系が耐えられる人なら一読してみてもよいのでは。 しかし、これで思い出したが『パラサイト・レックス』は一度きっちりおすすめしておく必要がありそうだ。寄生虫のみならず寄生という概念そのものに生じた――今も...
政治経済社会

ポール・ポースト『戦争の経済学』

一つ前の『テロの経済学』にも通じる内容だがこちらも結構面白い。要点からさらに抜粋してメモしておく。第1章 戦争経済の理論マクロ経済学的な要点戦争は2種類の影響をもたらす:心理的影響と現実的影響。軍事支出によって総需要を増やすと、経済を不況ギャップから引っ張り出せるけれど、そうした支出はインフレの原因にもなる。ミクロ経済学的な要点生産要素(特に資本と労働)がどれだけ動員されるかは、戦争の経済的影響を...
政治経済社会

アラン・B・クルーガー『テロの経済学 人はなぜテロリストになるのか』

“自爆テロは路上犯罪より投票行動に似ている。” 原題は"What Makes a Terrorist"(『何がテロリストを生み出すのか』)だが、著者自ら「"What Doesn't Makes a Terrorist"(『何がテロリストを生み出さないのか』)にすべきだったのではないか」と書評されたことを興味深いと言っており、私もそちらの方が適切のように感じる。テロリストは十分教育を受けており、裕福...