書評

科学技術哲学

フランシス・コリンズ『ゲノムと聖書:科学者、〈神〉について考える』

『神と科学は共存できるか?』の頃からチェックリストには入っていたがやっと読んだ。感想は下の雨崎さんの感想にほぼ一字一句同意。  ほんとまじめなんですよ、この先生。自分の良心の落としどころを求めて、あれやこれや試行錯誤に調整を試みた末の、せいいっぱいの”有望な”神の延命計画を提案しているんですよ。インテリジェント・デザイン(ID)説に苦言を呈しーの、有神論的進化論を試しーの、バイオロゴスはどうかと打...
科学技術哲学

エルンスト・ヘッケル『生物の驚異的な形』

グラン・トリノを見に行ったときに本屋で見かけて思わず目を疑った。有名なエルンスト・ヘッケルの画集が出ている。  邦題がすごく安っぽい印象になってしまっているが、原題"Kunstformen der Natur"は直訳すると『自然の芸術造形』である。  昔グールドのエッセイか何かで存在を知り、荒俣宏の世界大博物図鑑に載っていた放散虫の図をわざわざ図書館でコピーしたりした記憶がある。 Ernst Ha...
政治経済社会

ビョルン・ロンボルグ『五〇〇億ドルでできること』

コペンハーゲン・コンセンサスというものがある。  要するに、古典物理の原則に固執したり思弁を弄んだりするのはやめて、波動関数の収縮はとにもかくにも起きるのだという量子論的実験結果を素直に受け止めよう、ということ……じゃないそれはコペンハーゲン解釈。  要するに、世界に山積する重大問題をちゃんとした根拠とりわけ経済学の観点から評価して、優先度を見極めようぜという議論。『環境危機を煽ってはいけない』の...
WEB情報通信

Joel Spolsky『More Joel on Software』

Joel on Software  『Joel on Software』の続編。webですでに読んだ記事や、これまで読んだ他の本と被る内容もかなりあったが、やはりどれも最高に面白くてためになる。  特によかったのはハンガリアン記法の話とソフトの差別化戦略の話とカスタマーサポートの話かな。IT関連の仕事をしている人や情報系の学生には絶対おすすめ。 関連書籍 おまけ  ハンガリアンとITというと選択の...
科学技術哲学

グレッグ・イーガン『TAP』

久々にグレッグ・イーガンの短編集。やっぱり現代最高のSF作家と言われるだけのことはある。『TAP』『銀炎』『ユージーン』の3作は思想といい知識といいネタといい、この人らしさがよく出ていて私は好きだな。おすすめ。 『新・口笛テスト』  一度聞いたら絶対忘れない曲を計算で編み出す方法が発明された。星新一を連想させるコマーシャルネタ。まあまあ面白い。 『視覚』  撃たれた後遺症で常に主観的に幽体離脱状態...
政治経済社会

浜野喬士『エコ・テロリズム 過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ』

シー・シェパードがあそこまでやる理由〜『エコ・テロリズム』 浜野 喬士著(評:栗原 裕一郎):日経ビジネスオンライン  上の記事で見てようやくこの分野の入門書として本当におすすめできる読みやすい本が出たかなと思って早速借りてきたが正解。  全体で200ページとちょっとの新書だが、変な陰謀論やポジショントークに陥ることなく、歴史的・思想的背景を幅広く取り上げている。  また参考文献の表記が非常に充実...
科学技術哲学

ウィリアム・ブライアント・ローガン『ドングリと文明 偉大な木が創った1万5000年の人類史』

これはなかなか面白い。 農業文明前史の仮説としての価値がどのくらいあるのかはまだ判断がつかないが、あってもおかしくなさそうな話だし、単純にオークにまつわる雑学を眺めているだけでも楽しい。おすすめ。解説より。  狩猟採集から、大文字で書く「農業革命」を経て、農業文明、そして産業文明へという常識ではなく、狩猟採集から、大文字で書かれるべき「ドングリ文化」をへて、農業そして産業文明へ、という、もう一つの...
文化芸術宗教

繁田信一『殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語』

要約すると文学しか注目されない平安貴族の暮らしだけど、実情はわりとカオスでしたという話。当たり前と言えば当たり前なのだけど、こういう幻想が破壊される感は個人的に大好きだ。  後半はだんだん似たような内容の繰り返しになってきて、一般的にはあまり面白い本とは言い難いので、そんなに積極的におすすめはしない。ものはついでだが、源氏物語については、 ふみまよう  の音読mp3と、 源氏物語の世界 再編集版 ...