書評

科学技術哲学

ポール・デイヴィス『幸運な宇宙』

原題"THE GOLDILOCKS ENIGMA Why is the Universe Just Right for Life?"(『ゴルディロックスの謎 なぜ宇宙は生命にちょうどよいのか?』)。  ゴルディロックスとは童話3びきのくまの主人公の女の子のことで「特別にあつらえたわけではないはずなのになぜかちょうどよい」ことを表す。  テーマは『宇宙のランドスケープ』の時にやや詳しく取り上げたので...
科学技術哲学

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『人間の境界はどこにあるのだろう?』

詳しくはshorebirdさんのところを参照してほしいのだが、私も長谷川眞理子先生訳と書いてなければ手に取らなかったような気がする。内容的にも訳者あとがきのところが一番有益だったような。  どうも『ゲノムと聖書』に似たような「西洋思想の枠組みからは絶対に出ないぞ!」というマイナスの決意みたいなものがちょっと鼻に付く。  『ゲノムと聖書』同様に、最初からキリスト教と西洋思想の伝統にしがらみがない人に...
政治経済社会

エドワード・ルース『インド 厄介な経済大国』

ありがちな駄本みたいな邦題が非常にもったいないインド本。原題は"IN SPITE OF THE GODS - The Strange Rise of Modern India"。『神々をものともせず―現代インドの奇妙な隆盛』という程度の意味合い。  タイトルから連想されるようにインドという名称につきまとう神秘的なイメージにばかり着目する傾向――それは西洋人だけではなくインド人自身にさえも見られる―...
科学技術哲学

ジョー・マーチャント『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』

オーパーツはアニメ・コミック・映画の世界ではよく出てくるが、残念ながら現実ではどれも捏造か勘違いだ。ほぼ唯一の例外が、紀元前の沈没船から発見されたこれ。    アンティキティラ島の機械と呼ばれる、高度な機械仕掛けの時計のように見えるもの。どう考えても一般に知られている機械式時計の発明よりも1400年は早い。    アーサー・C・クラークは「この知識が継承されていたなら、産業革命は1000年以上早ま...
政治経済社会

スアド『生きながら火に焼かれて』

“名誉の殺人”を有名にした何年か前のベストセラー。存在は知っていたがやっと読んだ。 Sony Magazines CATCH BON!(公式立ち読み)  男女平等と女性の社会進出は、先進国でこそある程度当たり前のようになってはいるが、まだまだ女は産む機械で奴隷で家畜以下の扱いという地域はいくらでもあるわけだ。 男の子牧場!?|サイバーエージェントではたらく広報担当のブログ  こんな女性向け婚活サイ...
文化芸術宗教

ショウペンハウエル『読書について 他二篇』

『思索』 『著作と文体』 『読書について』  ショウペンハウエルの三編を収録した薄い文庫本。引用はすべて『著作と文体』より。  書名は手紙のあて名にあたるべきものであるから、先ずその内容に興味を持ちそうな読者層に、その書物を送付する目的をもつはずのものである。だから、書名は独自の特徴をそなえるべきである。また短いことが書名の生命であるから、きわめて簡潔で含蓄豊かであるべきで、その上なるべくその本の...
文化芸術宗教

サビン・バリング=グールド『ヨーロッパをさすらう異形の物語―中世の幻想・神話・伝説』

監修の池上俊一氏からたどり着いた本。こういう事典的なものをがーっと読むのも中世ファンタジーも大好きなのでわりとツボにはまった。目次の項目を並べてみるとこんな感じ。 さまよえるユダヤ人 永遠という罰の重み プレスター・ジョン 朗報かそれとも悪い報せか 占い棒(ダウジング) なんでも見つけ出す魔法の棒 エペソスの眠れる七聖人 復活する死者 ウィリアム・テル 本当はいなかった弓の名手 忠犬ゲラート 命の...
文化芸術宗教

山本弘『神は沈黙せず』

と学会の本は何冊か読んだことがあるが、山本弘の小説を読むのは実は初めてだったりする。  いかにもと学会っぽい蘊蓄が存分に活用されていて、面白いか面白くないかと言えば十分面白いけど、どうしても引っかかるものがある。なぜだろう。  おそらく作者が、主人公たちよりも悪役の加古沢の方に肩入れして自己同一視している――単に作品内のどのキャラも作者の分身のひとつだからというレベルの話ではなく――からだろうと思...