書評

政治経済社会

E.F.ロフタス K.ケッチャム『抑圧された記憶の神話―偽りの性的虐待の記憶をめぐって』

ひいいいいいいい!!! 怖い怖い怖いうぎゃああああ! ホラー小説でもこんな怖い本は滅多にない。事実は小説より怖いナリ。ああああ怖さを紛らわそうとするあまり思わずコロ助口調になってしまったナリよ! 出っ張ったものは何でも男性器の象徴・引っ込んだものは何でも女性器の象徴にしてしまい、何でも幼少期のトラウマで説明してしまう傾向のあったフロイト。 その流れを汲む心理学は、1980年代から1990年代にかけ...
科学技術哲学

ブライアン・グリーン『宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体』

あなたの住んでいるスペースコロニーが何かのはずみで、物理法則は同じだけど他に何もないからっぽの宇宙に一個だけ迷い込んでしまいました。 さて、このコロニーは自転によって人工重力を維持することが、できる(他に何もなくたって空間に対して回転してるんだからできるよ!)できない(他に何もなければ回転しているという概念には意味がないのだからできないよ!) どっちだかわかります? 自信持って答えられる人はかなり...
文化芸術宗教

テッド・チャン『あなたの人生の物語』

グレッグ・イーガンと並び称されているテッド・チャンの短編集。個人的にはイーガンの方が好きだが、かなり面白かった。 イーガン作品に通底するテーマが「自己同一性とは何か?」だとすれば、チャン作品に通底するテーマは「絶対的に隔絶した存在といかに向き合うか?」*1というものだ。 その隔絶した存在は、作品によって、神だったり・異星人だったり・未来だったり・超人類だったり・数学だったりするけども。『バビロンの...
おすすめ書評まとめ

書評在庫一掃セール2009年5月版

最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。 ★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。『パノラマ島綺譚』★★★★ 江戸川乱歩:原作/丸尾末広:画。これ以上ありえないぐらいはまってる組み合わせ。『顔は口ほどに嘘をつく』★★ ポール...
科学技術哲学

ポール・デイヴィス『幸運な宇宙』

原題"THE GOLDILOCKS ENIGMA Why is the Universe Just Right for Life?"(『ゴルディロックスの謎 なぜ宇宙は生命にちょうどよいのか?』)。 ゴルディロックスとは童話3びきのくまの主人公の女の子のことで「特別にあつらえたわけではないはずなのになぜかちょうどよい」ことを表す。 テーマは『宇宙のランドスケープ』の時にやや詳しく取り上げたので繰り...
科学技術哲学

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『人間の境界はどこにあるのだろう?』

詳しくはshorebirdさんのところを参照してほしいのだが、私も長谷川眞理子先生訳と書いてなければ手に取らなかったような気がする。内容的にも訳者あとがきのところが一番有益だったような。 どうも『ゲノムと聖書』に似たような「西洋思想の枠組みからは絶対に出ないぞ!」というマイナスの決意みたいなものがちょっと鼻に付く。 『ゲノムと聖書』同様に、最初からキリスト教と西洋思想の伝統にしがらみがない人には大...
政治経済社会

エドワード・ルース『インド 厄介な経済大国』

ありがちな駄本みたいな邦題が非常にもったいないインド本。原題は"IN SPITE OF THE GODS - The Strange Rise of Modern India"。『神々をものともせず―現代インドの奇妙な隆盛』という程度の意味合い。 タイトルから連想されるようにインドという名称につきまとう神秘的なイメージにばかり着目する傾向――それは西洋人だけではなくインド人自身にさえも見られる――...
科学技術哲学

ジョー・マーチャント『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』

オーパーツはアニメ・コミック・映画の世界ではよく出てくるが、残念ながら現実ではどれも捏造か勘違いだ。ほぼ唯一の例外が、紀元前の沈没船から発見されたこれ。  アンティキティラ島の機械と呼ばれる、高度な機械仕掛けの時計のように見えるもの。どう考えても一般に知られている機械式時計の発明よりも1400年は早い。  アーサー・C・クラークは「この知識が継承されていたなら、産業革命は1000年以上早まり、いま...