E.F.ロフタス K.ケッチャム『抑圧された記憶の神話―偽りの性的虐待の記憶をめぐって』

抑圧された記憶の神話―偽りの性的虐待の記憶をめぐって

 ひいいいいいいい!!! 怖い怖い怖いうぎゃああああ! ホラー小説でもこんな怖い本は滅多にない。事実は小説より怖いナリ。ああああ怖さを紛らわそうとするあまり思わずコロ助口調になってしまったナリよ!

 出っ張ったものは何でも男性器の象徴・引っ込んだものは何でも女性器の象徴にしてしまい、何でも幼少期のトラウマで説明してしまう傾向のあったフロイト

 その流れを汲む心理学は、1980年代から1990年代にかけて抑圧された記憶という考え方を用いて、

「もしもしカウンセラーです。なになに? 自分に自信がない? それは子供の頃父親に性的虐待を受けたせいではありませんか? 違う? なぜそう思います? 記憶にない? いえいえ記憶の抑圧という現象があるのです。記憶がないのは虐待がなかった証拠ではありません。とても酷い虐待の証拠かもしれません。本当に思い出せませんか? そうですか。すでに記憶を回復した患者たちのグループセラピーに出てみてはどうでしょう? ……まだ思い出せない? ふーむ、彼女たちは自らのつらい記憶と向き合っているのに、あなたまだ否認モードにあるのですね。だから良くならないのです。いいですか、貴女が悪いのではありません。悪いのはお父さんです。アメリカの子供の1/4は幼少時に虐待を受けているという説もあります。あなたの告発は、虐待の記憶を抑圧したまま苦しんでいる他のサバイバーたちを救うことにもなるのですよ。何? 何か思い出せそう? その調子です。さあ皆と一緒に勇気を出して! お父さんにぶたれたことがあったような気がする? それは本当にぶたれただけでしたか? 自信がない? もう一息です。催眠による幼児退行治療を試してみましょう……」

「もしもし警察です。あなたのお嬢さんは、あなたが自分と妹を繰り返し虐待・レイプし、おまけに誘拐してきた赤ん坊を殺して悪魔に捧げる儀式を行ったとして、告発の準備を進めておいでです。身に覚えがない? 虐待の犯人はみんなそう言いますな。とにかく署まで来ていただきましょう。……さて、こんなに微に入り細をうがつような証言があります。それでも否認しますか? あなたは否認モードにある。そのこと自体がセカンドレイプとして娘さんを苦しめるのです。それでも否認するというのですか? ううむひどい。こんな血も涙もない人なら本当に悪魔崇拝の儀式だってやるのかも知れませんね。個人的には絶対に許せませんが、自白すれば協力できることもありますよ。早く楽になった方がいいのでは?」

 てな具合に冤罪の山を築いた。

 この話は昔『カール・セーガン科学と悪霊を語る』*1で読んで、だいたい知っているつもりだったが、かなり舐めていた。聞きしに勝る恐ろしさだ。本当にまったく冗談抜きで現代の魔女狩りだったのだな。

  • 善いことは善い人のおかげ・悪いことは悪い奴のせいという二元論的な思考
  • なんとかモードとか単純な図式を当てはめてしまう短絡思考
  • 同調圧力に対する弱さ

 いつの時代も変わらない人間の弱点が全部出ている感じ。

 何より一番怖いのは、本当に悪意を持って行動している奴は誰一人としていないということだ。歴史上の魔女狩りだって、きっとそうだったのだ。

*1:9章が『セラピー』というタイトルで、ほぼ全てこの話題に当てられている。

関連図書

おまけ

 厄を押しつけるなら人形にでも。ボカロ界の進歩速度怖ろしい。

コメント

  1. 通りすがり より:

    トラウマセラピーなども流行っていますが、これらの医学的、科学的、心理学的エビデンスも反証があるのかすら分からない。

    アメリカではトラウマは否定されているようです。
    http://diamond.jp/articles/-/56277?page=4

    なぜ多くの人が疑似科学を信じるのか・・
    非常に巧みに専門用語(医学用語や脳科学用語)を用いながら、暗示にかけるからではないでしょうか。人間の習性として「開示をすると気持ちよくなる」「話を聞いてもらえると心が落ち着いてくる」「尤もな説得をされると信じる」などがありますが、宗教や占術者とどう違うのか。
    私も騙されそうになっていたので怖いです。

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