2011 12/10

表現の自由を脅すもの (角川選書)

 なんだかそれっぽい話題が聞こえてきたので、久々にジョナサン・ローチ『表現の自由を脅すもの』から2ヶ所引用。

我々は、批判や吟味、正しい憎悪や脅しを押し止めようと欲するものではない。」ところで何時も困ることといえば、ある人の憎悪に満ちた発言は、別の人の真摯な批判であるということである(「ホロコーストはイスラエルの捏造である」)。そうなると、誰が線を引くべきか。

人を傷つける邪悪な意見が駆逐されれば、社会はもっとよくなるだろう。」多くの人たちは言う。「悪いことを言いかつ信じる人たちを罰し、そして追い払う必要があるということは、恥ずべきことだが、しかしそれは、文明化された人々を文明化されていない人々から、圧迫されている人々を圧迫者気取りの人たちから守るために、我々が支払わなければならない対価である。」別の言葉で言えば、オムレツを作るためには、幾つか卵を割らなければならないというのである。ジョージ・オーウェルが言ったように、答えはイエスであるが、しかし、オムレツは何処にあるのか。
 宗教裁判といえども、コペルニクスの考えを押さえることはできなかった。せいぜいそれがやったことといえば、知識の進歩を遅れさせ、人々を殺したことであった。新たな異端審問も、同じ事しかできない。信念を抑圧しようという試みは、かえってそれらの信念に注意を向けさせ、有名な裁判事件に仕立て上げてしまう。人種差別的、ホモ恐怖的、あるいはその他諸々の意見は許されるべきではないと強調すると、如何なる大学二年生でも、あからさまな人種差別主義者やホモ恐怖論者であるというだけで、確実に新聞のトップ見出しを飾ることになり、それは、多くの二年生にとってはこらえられない誘惑になるであろう。不快な言論は、人々が怒って喧嘩を売ろうとすれば、もっと不快なものになる。憤慨は四方八方でエスカレートする。しかし誰の考えも変わりはしない。

 また引用だけで終わるのもアレなので、自分の昔のツイートをちょっと引き伸ばして追記。

  • はじめから表現の自由を規制より好む人

 はいない。それは

  • 生まれながらに自由貿易を重商主義より正しいと感じる人

 とか、

  • 生まれながらに賢人独裁より普通選挙を正しいと感じる人

 とか、

  • 生まれながらに進化論を信じて創造論を理解できない人

 などと同様に、全くありえない存在だ。これらの制度・理論は、あまりにも本能・直感に反するもので、特殊な教育によらなければ信じさせることはできない。

 これらのうち普通選挙は一番救いがある。たとえ仕組みそのものが正しいとは信じられなくても、集団の中で自分が平等に扱われることを求める人間の本能には、完璧に訴えることができるからだ。

 自由貿易や進化論にもまだ救いがある。本能には逆らっても、実利や証拠の助けが得られるからだ。たとえ大衆の理解や支持が得られなくても――実際に今日でもしばしば得られない――関わる人は真剣に支持するインセンティブを持てる。

 表現の自由は本能の助けも実利の助けも証拠の助けもまったく得ることができない。

 社会的に受け入れられていく過程が、おおむねこの順序になっているのは、たぶん偶然ではないのだろう。

おまけ

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2011 5/21

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

 他人の家計簿なんてものは、なかなか見られるものではない。見られたらきっと面白いだろう。

 昔の人の生活なんてものは、なかなか見られるものではない。見られたらきっと面白いだろう。

 では、昔の人の家計簿が見られたらどうだろう? もちろん、めちゃくちゃ面白い。超オススメ。

 内容そのものは本を読んでもらうとして、あとがきから教訓的な部分を二箇所メモしておきたい。

「歴史とは過去と現在のキャッチボールである」学生時代、ふと教室の片隅で耳にしたこの言葉に、私は静かな感動をおぼえた記憶がある。歴史とは、いまを生きる我々が自分の問題を過去に投げかけ、過去が投げ返してくる反射球をうけとめる対話の連続。つまりは、そう考えたい。歴史はきまった史実を覚える「暗記物」ではないのだ。

 大きな社会変動のある時代には、「今いる組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっているか」が人の死活をわける。

おまけ

 「たくさんのことが分ったのですから。 生きている人たちの ために。」

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2011 5/21

日本人が知らないウィキリークス (新書y)

 WikiLeaksについて何か一冊だけ読んでおこうと思って探していたが、『エコ・テロリズム』の著者が入っていたので、これにしてみた。

 予想以上に面白かった。他の人にもWikiLeaksで何か一冊という場合はこれをおすすめするようにしよう。

 どの章もそれなりに面白かったが、やはり、

  • 第6章「正義はなされよ、世界は滅びよ」──ウィキリークスにとって「公益」とは何か 〈浜野喬士〉

 の章がとりわけ興味深い。

 ググッていたら浜野喬士氏のTwitterアカウントを発見して少しだけ会話した。『エコ・テロリズム』の書評のことを憶えておられたらしくて恐縮。こうして本の著者とすぐ連絡がついてしまったりするのも現代ならではか。

 さらにそのツイートで知った明日のNHKスペシャルも面白そうなので録画予約しておこう。この方が関わっているなら期待してよさそう。

おまけ

 脳汁漏れそうな超ド級RTA。普通のプレイを一度は見ておくこと。

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2011 5/18

プライスレス 必ず得する行動経済学の法則

 『ライフゲイムの宇宙』と『囚人のジレンマ』の二大傑作でうちではお馴染みウィリアム・パウンドストーンの行動経済学本。

 それらと同等とまでは言えないが、かなり面白い。

 「価格」というものがいかに曖昧模糊とした人間的な構築物であるかということが繰り返し強調される。

 この場でただ一言だけ憶えておくならば「ふっかけた方が得」か。

 タイトル通り面白いだけでなく実益につなげることもできそうなので、営業や交渉に携わる人は一度読んでおくとよいかも。

参考リンク

関連書籍

おまけ

 ギャンブルにかかる心理の話も。

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2011 4/10

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

 コンテナ輸送というものは、あまりにも見慣れすぎていて、随分昔からあったことのように思ってしまうが、現代的な意味でのコンテナ輸送は、実はたかだかここ半世紀程度のものに過ぎないらしい。

 昔の海上輸送では、小分けの荷物を沖仲仕と呼ばれる男達が毎回毎回積み方を工夫しながら、いちいち積み下ろししていた。時間がかかる上に、荷抜きと呼ばれる盗みも横行していた。

 コンテナ化はこれらの欠点を解消し、輸送コストを大幅に下げ、世界の物流を変えた。今日のグローバルな経済的統合はこの「箱」なしには成り立たない。

 非常に面白かった。特に最初の数章が。Wikipediaのコンテナの項目も非常に充実しているので、まずそこを読んでみるのがいいかも。

100円ケース

 ちょっと話はずれるが、写真のように、うちの本棚は丸々一段が100円ショップで買ったプラスチックの箱で専有されている。前々回の引っ越しの時に思いついた方法だ。

 この方法によらずして、これだけの細かいものを収容して、かつ取り出しやすいように保つのは困難なのではないか。コンテナリゼーションと何か共通するものがあるかもしれない。

おまけ

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2011 3/31

(本文とは無関係)

 自粛自粛と過剰に騒ぐのは、経済的にも精神衛生上もよくないので禁物だが、エイプリルフールだけは自粛してもいいのではないかと思っている。

 ただでさえデマが溢れかえっていて、嘘ネタに由来するトラブルも頻発している今、これ以上デマやウソを増やしてどうするんだ。

 自分は今までもエイプリルフールネタなど特にやってはいなかったが、この機会に大いに自粛しよう。できればこのままエイプリルフールという習慣そのものが、なし崩し的に廃れていってくれるとありがたい。

 そもそもエイプリルフールは、情報がいつまでも残り続け、即座に検索され・コピーされ・あるいは翻訳されてしまう現在のネット環境にはそぐわない習慣だ。

おまけ

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2011 3/17

トイレの話をしよう ?世界65億人が抱える大問題

 これは素晴らしい。久々に予想していなかった大当たり本。どの項目も面白いけど、4,8章のインドの部分が特に面白い。

 日本では一見当たり前となっていて、普段絶対に公に話題になることのないトイレ。しかし、今回のような災害の時には問題になるように、一日も欠くことのできない施設でもある。

 今でも世界でトイレがないために失われている人命・健康・寿命はおびただしい。勇気を出して語ることによって何かが変わるかもしれない。強くおすすめ。

参考リンク

おまけ

 他人に勇気出そうと言う手前、釣りタイトルに怯まずこれを貼らねば。

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2011 3/6

(本文とは無関係)

 たとえ話のたとえ話をしたい。たとえ話というのは地図のようなものだ。

 当然だが、地図は現実の地形そのものではない。分かりやすい線や図形で必要な情報だけを表し、残りを全て省いて単純化したものだ。だからこそ有用である。

 たとえ話に対して「元の話と違っているから不適切である」という批判は一般的にはナンセンスである。「1/1の地図」が役に立たないのと同じく、不適切でないたとえ話は無価値である。

 「1/1リアルタイム更新フルカラー3D地図」は現実の地形を表すのに不適切ではないかもしれないが、それを持っていることは、地図を持っていないのと同じである。

 ある場所に行きたいという共通の目的を持っている人々の間では、地図はとても役に立つ。人間の思考はコンピュータのようにはいかないので、論理的に同等なことでもたとえ次第で理解の度合いがまったく違うことはよくある。*1

 しかし、そこに行きたくないと思っている人に地図を与えても無意味だ。偶然に行き着いてしまう可能性もゼロにすることに「悪用」*2されるだけだろう。

 本論に反論できないときにも、たとえ話にツッコミを入れることは常に可能なので、そうして論点をずらした議論に引きずり込んで抵抗するのもよくあることだ。私は、そうした状況をたとえ話地獄と呼んでいる。

 たとえば、この話に対して、お前は馬鹿か「1/1リアルタイム更新フルカラー3D地図」はメチャメチャ有益だろ! と言い出す人が現れて私がその人にまた反論を始めたら、典型的なたとえ話地獄である。

 たとえ話は元からある意見・視点に賛成する人同士での手間や労力を省くことには役立っても、反対意見を持つ人を説得したり味方にしたりということにはまったく役に立たないのだ。

*1:参考:4枚カード問題 推論と社会ルール:進化研究と社会
*2:行きたいと思っている人の見方では。

おまけ

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