2010 8/13

(本文とは無関係)

  • 「お互い人間なんだから、話せばわかる」

 という考え方がある。

 一見、文句のつけようのない立派な考え方に見えるが、大きな問題がある。

 なぜか? 対偶を取ってみればわかる。

  • 「話してもわからない(≒自分に同意しない)やつは人間ではない」

 と言っているのと同じである。

 「話せばわかる」という信念は、自分が間違っている可能性を常に真剣に考える態度とセットでなければ危険である。

おまけ

 13日の金曜日→ジェイソン。

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2010 6/27

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

 我々が恐れなければならない唯一のものは、恐怖そのものである。

フランクリン・ルーズベルト

 ルーズベルト大統領はともかく、この言葉は好きだったのに、しばらく積んでたのを後悔。これは素晴らしい。超いい。

 と並んで、一家に一冊配布を義務づけたいレベル。

  • 進化心理学本
  • メディアリテラシー本
  • 科学リテラシー本
  • 社会問題リテラシー本

 いずれの視点から見ても最高クラス。それぞれ同等以上の内容をもつ本はもちろんあるけど、一冊に濃縮した感じ。その割に価格も低めでコストパフォーマンスも最高。

 例の『The Cove』見に行く人は、これ読んでからにしてほしいかも。

参考リンク

関連書籍

おまけ

 なんでもないものが恐怖の象徴となるたったひとつのルール。

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2010 6/23

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

 原題 “Justice – What’s the Right Thing to do?”(『正義――何が正しいことなのか?』)NHKでハーバード白熱教室として放送されているらしい講義の書籍化。

 歴史を足早におさらいする感じや、日本での流行り方からは、正義論に集中した『ソフィーの世界』、といった印象を受ける。

 確かに流行るだけあって、大変よくまとまっていると思う。この分野の入門書としては最高だ。おすすめ。NHKの番組は未見だが、講義そのものはYouTubeで見られるらしいので、後でちょっと覗いてみよう。

 ただ、邦題は内容に即していない。むしろ正反対だ。『これからの「正義」の話をしよう』とあるが、「これから」の話は、ほとんど何も出てきていない。単に内容を表すものとしては『これまでの「正義」の話をしよう』の方が適切だと思う。

 この分野は今まさに、脳・神経科学および進化心理学の両面から革命が進行中で、この本にまとめられた現在までの議論は、ちょうど進化論以前の生物分類学のようなものになる可能性が高い。

 決して価値がないという意味ではない。それはそれで素晴らしい壮大な知の体系なのだが、現実の問題を解決したり、さらなる進歩の元になったりするというよりは、歴史的研究の対象になるということだ。

参考リンク

参考動画

 英語。[CC]ボタンから字幕(やはり英語)を出せるようになるようだ。

関連書籍

おまけ

 ジャスティスつながり。

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2010 5/3

乱造される心の病

 私はADHDなどの新しい精神疾患の概念には懐疑的である(参考)が、ちょうどそれに関する話題のようだったので読んだ。

 ますます疑念が強まる結果になった。読んでいて楽しい本ではないが、下の目次や抜粋を見て興味を持った人にはおすすめする。

目次

第1章 心の問題か?脳の問題か?――不安をめぐる一〇〇年の闘い
第2章 感情が病状にされる――診断をめぐる闘争
第3章 内気は病気になった!――精神医療産業の決定的勝利
第4章 さあ、病気を売り込もう!――消費者に直接販売
第5章 反跳症候群――副作用と薬物依存の恐怖
第6章 プロザック帝国への反乱――立ち上がる人々
第7章 不安はどこへ行くのか?――感情を消された社会

 本書では不安を例として取り上げ、精神科医や精神科医による病気の定義が一九七〇年代以降急激に変わった過程を示す。まず初めに、不安と内気の簡単な歴史を記し、現在の考え方と古代ギリシア時代、ルネッサンス時代、ヴィクトリア朝時代とを対比させる。次に、二つの章(第2章、第3章)で、DSM第三版の実行委員会が、一一二もの新しい疾患を作り出し、そのなかに不安関連の七つの疾患が含まれた経緯を詳述する。

 その後の章では、製薬会社が巨額の資金を投じて、人のありふれた行動が実は脳内化学物質の不均衡が原因であると私たちに納得させ、病気を作り出してきた経過を述べる。そうした製薬会社の薬剤はさまざまな副作用を起こし、なかにはきわめて危険な副作用もあるため、第5章では薬剤の働きと薬剤が効かない場合が多い理由について明らかにする。

(中略)

 「社会恐怖」や「回避性パーソナリティ障害」であるかどうかは、私たちの社会で肯定される外向性とどの程度かけ離れているかで決まる場合が多いが、第6章ではその議論をひっくり返し、神経精神医学と薬理学への逆風を強めるもととなっている四つの皮肉(中略)を検証する。そして最終章では、診断と倫理に関する問題を幅広く取り上げる。

 総じていえば、本書では、ごく普通の気質が精神疾患にされてしまった過程を包括的に取り上げるだけでなく、今日の不安に関するきわめて重要で新しい考え方を紹介する。私たちは過剰に診断され過剰に薬を処方されているという主張のもと、精神科医、広告コンサルタント、製薬会社が内気や自意識過剰、さらには内省的性質にいたるまでを、重大な精神疾患に巧みに変えてしまった経緯を詳細に述べる。

(「はじめに」から抜粋)

 ただし、記述にはあまり公正とは言えない部分もあるように見える。*1たとえば、フロイトの持ちあげ方などは“敵の敵は味方”的な発想で過大評価しているに過ぎないように思われる。

 特に、本当にうつ病の人には、これを読んで自分の判断で薬をやめてしまう、というようなことは絶対にしないようにお願いしておく。これは、薬を売るために正常と見なされるべき人にまで不安を煽るという問題に関する話であって、心の病そのものの本ではない。

 ちなみに原題は『内気――普通のふるまいがどのようにして病気になったか』。邦題は内容的に間違ってはいないが、圧倒的に焦点が当てられている内気(shyness)の部分を抜かしてしまうのはどうだろう。

 『内気――乱造される心の病』でもよかったのでは。最近では、アメリカで向精神薬が濫用気味*2だというのは、もはやテレビドラマなどでもおそらくお馴染みの話題で、意味が通じないことはないと思うのだが。

*1:なにかを主張する本では、あまり公正にこだわりすぎることもないとは思うが。
*2:日本を基準にすると。

おまけ

 「鬱」しか共通点がないゾ。(柴田亜美風に)

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2010 4/26

第9地区

 素晴らしすぎる。これは最高です。すでに今年度最高はもちろんオールタイムベストに数える人がいるのも全面的に頷けます。

 『アバター』で殺菌・消毒・漂白され尽くして乾ききっていた心に、血と汗と涙と小便とゲロをぶちまけていい具合にうるおいを取り戻してくれました。

 PG-12指定されるぐらいのそこそこきついグロ描写がありますが、そこをクリアしている人は余計な情報を入れてしまう前に是非見に行って下さい。

 アカデミー作品賞にノミネートしていたそうですが、

  • 『アバター』
  • 『ザ・コーヴ』
  • 『ハート・ロッカー』

 のアカデミー賞で話題に上った3作品の全部を合わせて、しかも欠点を修正したような感じになっています。*1実際に作品賞もらえなかったみたいなのは残念です。

 ヒューマニズムとは何ぞや的な高尚なテーマを持つA級映画としても、単純娯楽お馬鹿B級映画としても、どちらも互いを邪魔することなく非常に高いレベルで両立しています。私と10日しか歳の違わない新人監督の作品とはにわかに信じがたい奇跡的な傑作です。

*1:アバター以外未見ですけども。

おまけ

 大9。

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2010 3/27

サはサイエンスのサ

 巡回先にも入っている『くねくね科学探検日記』の鹿野司によるサイエンスエッセイ集。

 語り口は実にくだけた感じで、ネットスラングやマンガネタも入るし、イラストもとり・みきで軽妙な感じだけど、内容そのものは極めて正統派。上のリンクから目次を見てもらえば雰囲気は掴めるだろう。

 話題の幅が広いわりに奥も浅くなく、各種見解もバランスが取れている*1ので、どんな人にもおすすめできるが、やはり若い人に一番読ませたい。中学・高校の図書室に配備してほしい感じ。

 それにしても、なぜかウィザードリィ5の攻略本を書いていたり、なぜかセグウェイに乗ってる動画があったり、面白い人だな。

*1:つまり私自身のものの見方に近いということだ!

おまけ

 「のねん」という語尾からはえのんしか思い浮かばないのねん。

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2010 3/12

ゴルゴ13 155 (SPコミックス)

 ゴルゴ13の出身は、たびたび話題になるものの、決して明らかになることはない。なぜか?

 ある意味では答えは簡単だ。多分あなたもすぐ思いついた通りだ。明らかになってしまったら、いつでも使えて確実に人気のあるネタの一つが無くなってしまうからだ。

 しかし、それはあくまで至近要因だ。なぜゴルゴの出身が確実に人気のあるネタなのか?

 想像してみよう。ついにゴルゴの真の出身が疑問の余地なく判明した! 実はロシア系中国人で日本とは縁もゆかりもなかった!

 あるあ……ねーよ。

 そう、誰もそんなことはありえないと知っている。みんな実はゴルゴは日本人――でなくとも、少なくとも日系人とか日本人とのハーフとか――だと知っているのだ。

 では、なぜゴルゴは日本人でなければならないか?

 いつか一言だけ触れた(参考)が、ゴルゴ13というキャラクターの人気は、戦後日本人の国際政治コンプレックスと切り離して考えることはできない。

 いつも無表情でアメリカ大統領やCIA長官を震え上がらせるゴルゴというキャラクターは、メガネでへらへら笑うエコノミックアニマル*1としての日本人の自己認識の正確な裏返しだ。

 では、もう一度最初の問いに戻って、なぜゴルゴの出身は決して明らかにならないのか?

 明らかにしたっていいのではないか、誰もがすでにそうだと知っているのだから。読者が皆そうであることを望んでいるとわかっているのだ。ネタのストックをひとつぐらい減らしても、明らかにしてあげるべきでは?

 もちろん、違う。

 コンプレックスの補償としての娯楽は、それを楽しみつつ、そうしているということをはっきり自覚させないことが重要だ。

 「日本人と断定されたゴルゴ」は、あまりにも日本人の国際政治コンプレックスの代償の要素がはっきりしすぎる。それは、たとえるならギャルゲーに「非モテ御用達」と明記するような自殺行為だ。

  1. おそらく日本人と思われつつも不明のまま
  2. 日本人と判明する
  3. 日本人でないことが判明する

 ゴルゴの出身についてのありうる選択肢は、この順番で望ましい。つまり、現状のままがベストだということを、作者はもちろん読者もみんなわかっているのだ。

*1:今となっては「むしろまたエコノミックアニマルと呼ばれたい」という思いの方が強くなっているかもしれないが。

おまけ

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2010 3/3

(本文とは無関係)

国民の「幸福度」を調査へ=新成長戦略の指標に?政府

2月28日14時3分配信 時事通信

 鳩山由紀夫首相は28日、首相公邸で菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相らと会い、新成長戦略の具体策取りまとめに向け、国民の「幸福度」を調べる方針で一致した。具体的な調査項目を詰めた上で、3月初めにも着手する。
 会談後、仙谷氏は公邸前で「単なる数字のGDP(国内総生産)だけじゃない成長をわれわれがどうつくっていくのかと(いうことだ)」と記者団に述べ、新たな指標として検討していることを明らかにした。
 「幸福度」については、昨年12月にまとめた新成長戦略の基本方針でも「国民の『幸福度』を表す新たな指標を開発し、その向上に向けた取り組みを行う」と盛り込まれた。 

国民の「幸福度」を調査へ=新成長戦略の指標に?政府(時事通信) – Yahoo!ニュース

 何もしないよりはいいことだと思うから否定はしないけど、どうしてもリアル『パラノイア』という皮肉が出てこざるをえないなあ。

 原文が手元にないので孫引きだが、

幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。

(Anna Karenina by Leo Tolstoy トルストイ『アンナ・カレーニナ』: tomokilog – うただひかるまだがすかる)

 というトルストイの有名な言葉がある。この言葉は、不幸(な家庭)に目を向けようという文脈では価値があると思うが、私の考えではまったくの間違いだ。事実はまさにその逆である。

 今ググったら発見した。また孫引きになるが天声人語で逆転させた言葉がすでに言われていたらしい。

幸福はさまざまだが、
不幸は驚くほど一様である

(朝日新聞、2002年11月19日)

(名言集>ヒントの名言>幸福はさまざまだが、不幸は驚くほど一様である)

 もちろん、不幸も多様である。それは言うまでもない。しかし、いくら多様といっても、古来八苦などとまとめられる程度のパターンしかない。

 幸福の多様さに比べたらまったく単純そのもの。幸福がどんなものかは、人によって千差万別だからだ。

 幸福を調査するとか測定するとかいうことが滑稽に感じられるのは、まさに調査や測定というのは、幸福の多様性にもっとも馴染まない行為だからではないのかな。

参考リンク

おまけ

 しあわせって何だっけ→ポン酢醤油はキッコーマン

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