リチャード・ドーキンス『祖先の物語~ドーキンスの生命史~』

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上

 こ・れ・は、素晴らしい! 殿堂入りクラス。

 内容については訳者あとがきの記述が十全なのでその引用に留めるが、グールドを精神上の師の一人に数える私には特別な感慨がある。

 とにかくこれは超オススメ。

 本書は、進化生態学の巨匠ジョン・メイナード・スミスに献じられているが、ある意味で、「宿敵」スティーヴン・ジェイ・グールドに捧げられた本とも言える。『社会生物学論争史』の中でセーゲルストローレは、ドーキンスとグールドが互いに的を外しながら撃ち合っていると評したが、世間で信じられている以上に、二人の間で通じ合うところがあったのだ。
 生物の魅力は、目を見張る多様性と、にもかかわらず本質的な同一性を持つところにあるのだが、グールドは前者の側面を、ドーキンスは後者の側面をもっぱら代弁し、激しい論争を繰り返しながらも、共にダーウィン主義の擁護者として密かな連帯を保ってきた。グールドが世を去った今、ドーキンスは、これまでグールドが果たしていた役割の一部も引き受けようとしているのではないかという気がする。
 何よりも、生物の進化を、生命の起源から筆を起こしてヒトに至るという通常の形式を廃し、現在から過去に向かって歴史を逆向きに辿るという手法を選んだことが、歴史の偶然性を強調したグールドに対するオマージュである。チョーサーの『カンタベリー物語』を模した本書で、ドーキンスは、ウルトラ・ダーウィン主義者としての自らの立場を堅持しつつも、生命の多様性が作り出す驚異のパノラマを次から次へと見せてくれる。
 『カンタベリー物語』で様々な職種の巡礼者が披露する物語が、本書では、生物たちによる物語に翻案されている。物語は、それぞれのテーマに最も相応しい生物によって語られる。例えば、ホックス遺伝子についてはショウジョウバエが、収斂進化についてはフクロモグラが、年輪についてはセコイアがといった具合だ。こうした物語は全体として、現代生物学のほとんど全ての先端的問題を網羅していて、いささか誇大広告的な表現をすれば、これ一冊で、現代生物学の全容を知ることができる。

おまけ

 マサルさんは確実にギャグマンガ史に残ると思う。

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