長谷川寿一 長谷川真理子『進化と人間行動』

進化と人間行動

 これも読んだのはかなり前だが、下の部分をメモするための再読。

 ついでにおすすめすると、この話題に関する教科書として素晴らしい最高の出来。

 想定されているのは大学の教養課程での使用だと思うが、わかりやすさも重視されているので高校生・中学生でも十分読めると思う。

マーガレッ卜・ミードの神話

 文化が変われば何でも変わる, したがって固定された「人間の本性」など存在しない, という考えの証拠としてあげられた研究に,文化人類学者のマーガレット・ミードの研究があります. ミードは文化相対主義の創始者であるフランツ・ボアズやルース・ベネディク卜の弟子で,サモア,ニューギニアなどの南太平洋洋の人々を研究しました.
 文化人類学の古典とも呼ばれる彼女の著書,『サモアの青春』の中で,彼女は,サモアの文化には思春期の葛藤や性の抑圧は存在しない,結婚前の若い女の子たちのセックスは自由で,それについて話すことにもなんの制約もないと報告しました.つまり,性にまつわる考えや習慣は文化によってなんとでも変わるということです.
 この考えをさらに強固にするのが,彼女の著書『三つの未聞社会における性と気質』の中で語られる,互いに100マイルと離れていないニューギニアの三つの部族における男性と女性の性質の話です.彼女の調査によると,アラペシュと呼ばれる人々は,男性も女性も穏健で,ムンドゥグモルと呼ばれる人々は,男性も女性も非常に攻撃的,そして,チャンブリと呼ばれる人々では,男性が,西欧で普通に女性的と思われている性質を表し,女性が,西欧で普通に男性的と思われている性質を表しているということです.つまり, 「男らしさ」「女らしさ」が完全に逆転している社会もあるというわけです.
 ミードの著書は,まさに20世紀の文化相対主義を絵に描いたごとくであり,非常に広く読まれ,文化人類学のみならず,社会学,心理学などにも大きな影響を与えました.実際,筆者らが修士課程のころには,文化人類学の先生にこの話を教わったものです.
 しかしながら,その後の厳密な再検討の結果, これらの調査結果は正確なものではなく,大部分がミードの性急な思い込みによるものであることが明らかとなりました(Freeman,1984, 1999). サモアの青春についてミードに情報を提供したサモア人の少女たちは,自由で抑圧のない性についてミードに作り話をしたことをのちに証言しました.また,アラペシュ,ムンドゥグモル,シャンブリについては,そもそも学問的に正確なデータは一つも存在しません.
 ミード自身や同時代の他の文化人類学者たちの著書を読むと, ミードがまとめたような性質を彼らが持っていることを示す具体的な証拠は一つもなさそうです.結局,文化にはなんでもあり,文化が変わればすべてが変わるという主張を支える証拠として長らく引用されてきたマーガレット・ミードの南太平洋研究は,信頼性の低いものであることがわかりました.

(P7-8)

おまけ

 性別逆転+「神話になれ」つながり。

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