『人間の測りまちがい』の最新分野版とでも言うべき本。チンパンジーのDNAは人間と98%同じなのだから云々、というような主張は一度ぐらい聞いたことがあると思うが、いったいそれはどういう意味なのか?
現代科学ではDNAのわずかな違いが生物にどういう影響をもたらしているかということは、まだまだ研究が始まったばかり。この98%というのは単に、ある塩基配列をそのまま比較しただけの数字にすぎない。
高校でDNAについて習ったことがあれば少し考えるだけでわかる話だが、どんな生物と比較しても配列に登場する塩基が四文字しか存在しない以上、(意図的に一致しない部分を比較対象に選んだりしない限り)この数字が25%を下回ることはありえないわけだ*1。
「我々は98%チンパンジーである。」という発言に何らかの意味があると考えたいならば、「我々は25%パンジーである」という発言にも全く同じだけの意味があると考えなければならない。もちろんシーモンキーでもイソギンチャクでもフクロムシでも同じだ。
もしそうではないというのなら、その発言者は、自分自身でも何を意味しているのかわからない怪しげな数字を用いて、自分の考えを「科学的」に見せたがっているだけだということだ。
このような話を皮切りに現代人類学の誤用と通俗遺伝学に関する話題がいっぱい。優生学はまだ死んでない。なかなかよい本。かなりおすすめです。
*1:実際にはどの生物間にも類縁はあるので、もっと一致は多くなる。
おまけ
100%チンパンジー(ボノボかも)。
コメント
98%の意味っていうのが、単に塩基配列が一致しているというだけならその通りなんでしょう。
多分木戸さんが仰っているコンテキストは、チンパンジーが98%、塩基配列以外の身体的、能力的、その他の特徴で人間と一致していると主張するということでしょう。
そう主張するなら人間がその文脈の中で25%イソギンチャクと同じであるとも主張しなければならないということになるんだと思います。
塩基配列が一致していたからといってその数字の大小にはそれそのもの以外の意味はないと思います(相関するデータが無い場合)。
25%を話に組み入れることにこだわるからわかりにくくなるのでは?
98%というのは確かに感覚的には非常にインパクトのある数字ですが、しょせんは感覚的にでしかないわけで、その数字が実際にはどれくらいの意味を持つのかは、他の材料をちゃんと検証してみなければわからないと。
実際に検証してみたら、その2%はもうどうしようもないほどの超えられない壁だったということもありえるわけです(例えばね)。
その部分を後ろ手に隠したまま、近いんだぞほらすげー近いんだぞ、と言ってしまうのは問題だぞと。
ガイア教関連のエントリですが、優生学のあたりが個人的に楽しめました。
これからも更新楽しみにしています。
大まかに漠然と言うとこういうことじゃね?
◎チンパンジーは人間に近いか?
・チンパンジー:98%
・パンジー:25%
・イソギンチャク:25%
→チンパンジー、SUGEEE!!!これはOK
◎どれが人間に近いが?
・チンパンジー:98%
・ネアンレルタール人:98%
・クロマニヨン人:98%
・エヴァンゲリオン:99%
→みんな、SUGEEE・・・じゃなくて、もっとコレ用にちゃんと測って下さい。
あと論文の最後の行がこうだったら、最悪だよね
「・・・以上のことから、永井先生は、『パックマン』を娯楽として十分楽しめることが証明できた。
つまり、このことから、永井先生と99.97%同じであるチンパンジーは、間違いなくパックマンを楽しくプレイできると推察されるのである。 以上」
↑確かに全く間違いないような気もするけど、チンパンジーについては何も証明してない
こんな感じ?全然違うってか・・・・スマソ本読んでくるorz
>山下さん
>判ったような判らぬような。
そうです。判ってないみたいです。とにもかくにも98%と数字を見せつけることが有効なわけですね。
チンパンジーは実際に6-700万年前に人類と共通祖先を持っているのですイソギンチャクは数億年前)。だから98%か99.8%か(その学者の数え方、選ぶ比較対象によって変わる)知らんが塩基配列の一致は多くて当たり前(そうでなかったら進化論を放棄せにゃならん)。
この本が問うている問題は「当たり前の意味レベルを遥かに超えているんだ。」の部分ではなく「だから…」の部分。
>「25以下は存在があり得ない。かつ、25は98の1/4の意味がある」という理論は「怪しげでなさ」の勝負に勝てるのでしょうか。
もちろん勝てません。どっちもナンセンスだと言っているのです。
判ったような判らぬような。
ではエセ科学者が「確かにイソギンチャクもヒトと25%同じだ。でもそれは(25以下があり得ないのなら)当たり前。なら意味なんかゼロだろう?
ところがチンパンジーは98%も似ていて、当たり前の意味レベルを遥かに超えているんだ。だから…」とかなんとか言い直したらどうでしょうか。
これに、「25以下は存在があり得ない。かつ、25は98の1/4の意味がある」という理論は「怪しげでなさ」の勝負に勝てるのでしょうか。
>名無しさん
それいつか「おまけ」に使おうと狙ってますw
ん、ていうか合わそうとするか否か、観測者の立場よって、%の意味はかなり変わるってコト?
そんな木戸さんにこれをどうぞ
早く見ないと消えますw
http://www.nicovideo.jp/watch/sm27553
せやから
>(意図的に一致しない部分を比較対象に選んだりしない限り)
ってゆーてますやん(なぜか関西弁)。
>匿名希望さん
AAAGAGG『GAAA』A
TTTC『TCCC』TTTT
と
GGGA『GAAA』GGGG
CCCTCTT『TCCC』C
の『』内を比較すれば差違0%です。
いやまあ、遺伝関係にはまるで詳しくないんで、上記のようなのが比較となるかはわからないんですが。
AAAGAGGGAAAA
TTTCTCCCTTTT
という遺伝子と
GGGAGAAAGGGG
CCCTCTTTCCCC
という遺伝子を比較すれば差異100%なのではないでしょうか?
や、もちろん現実的にそんなことはありえないのは分かっていますし、啓蒙好きなエセ科学者への批判には全面的に賛同しますが、
>この数字が25%を下回ることはありえない
は少し違う気がします。
>山下さん
ああやっと言わんとすることがわかりました。「98%に意味があると考えたいなら、25%にも同じく約1/4の意味があると考えねばならない」と言い直せばOK?
たぶんそもそもこの著者が批判の対象としているようなタイプの主張を見たことないでしょう。98%という数字を根拠に「チンパンジーと人間はほとんど同じなんだ! だから?」と言いたい人は「イソギンチャクと人間は1/4も同じなんだ! だから?」という主張にも少なくとも自分の1/4の正当性を認めるのでなきゃおかしいよ。でも普通そんなことしないでしょ。だったら98なんて数字を盾にするのは疑似科学だからやめなさいという話。
??
意味(ただし、素人的な)はいくつか考えられるでしょうね。例えば「2%しか違わない、チンパンジーとはすごく近いな」でもいいし、「2%も違う、想像以上に遠いな」でもいいです。
しかし飲み込めなかったのは「98%が『本当は』何を意味するか」とか「本当に98%なのか」じゃなく、「98%に意味があると考えたいなら、25%にも全く同じだけの意味があると考えねばならない」というところでして。「異なるのは当たり前」なら、本を読む動機は特に無くなってしまうわけです…
いや、「98%は(どの意味でも)25%と全く同じ意味しかない、という理由」が本にあるなら読みたくなりますが。それは書いてあるのでしょうか。
>山下
25%と98%が異なるのは当たり前です。で、「それなりの意味」ってなんですか?
という話なのです。そういう疑問がもてるのなら本を読んでみることをおすすめします。
すみません。よく飲み込めないので質問してよいでしょうか?
2つの4面体ダイスを同時に振った場合、(面が4つなのだから)同じ目が出る率は25%です。ここで「98%同じ目が出るダイス」があれば、それは25%のダイスとは「全く同じわけではない意味」があるような気がしてしまうのです。なのにチンパンジー率25%と98%に有意な違いがないのか、どうにもよくわかりません。
むろんダイスの(理論的な)率は25から上回りも下回りもしませんが、それは関係無いですよね。だってゾロ目率2%のダイスだって素人には意味があるような気がする、つまり素人は「平均からの偏り
の大きさ」にひっかかるわけですから。
となるとチンパン率98%はそれなりに意味がある、というのはどこがおかしいのでしょうか?