哲学

科学技術哲学

「魂」は実在するか? という問いは「重心」は実在するか? という問いに似ている

いつかまとめてそれなりの長さで書こうと思っていた話だが、この本にまったく同じ表現が出てきたので、もう出してしまおう。「重心」は実在するか? ある意味では、もちろん重心は実在しない。 たとえばサッカーボールの重心には何もない。空気しかない。ボールの重心はまだしも内部の点だが、ドーナツの重心は内部の点ですらない。 しかしまた、ある意味では、もちろん重心は実在する。実在するとの前提の元で行われる大抵の活...
科学技術哲学

ジェームズ・ロバート・ブラウン『なぜ科学を語ってすれ違うのか――ソーカル事件を超えて』

東大生協で見かけて、あまり期待せずに読書リストに突っ込んでおいたものだったが、予想外に素晴らしかった。 ソーカル事件に関するものの中では、『知の欺瞞』そのものは別として、私の知る限り一番いい本だと思う。 いま何やかやで時間をかけられないので、内容そのものには詳しく触れられないが、このあたりの問題に興味のある人には、強くオススメしておく。参考リンクなぜ科学を語ってすれ違うのか:みすず書房海洋学研究者...
おすすめ書評まとめ

書評在庫一掃セール2010年5月版

最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。 ★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。『「標準模型」の宇宙 現代物理の金字塔を楽しむ』★ ブルース・シューム著。ゲージ理論とか真面目に解説している一般書って貴重なのではないかと。エ...
科学技術哲学

ダニエル・C・デネット『スウィート・ドリームズ』

目下バカ検知ワードとして大活躍中の「クオリア」についての議論。分子やエネルギーについて何もわからなかった頃の「フロギストン」や「カロリック」DNAや酵素について何もわからなかった頃の「生気」素粒子や時空について何もわからなかった頃の「エーテル」 などと同様に、まだ神経や脳について詳細がわからない時代であるが故に抱くことが可能であるだけのどうでもいい概念だというのが著者の立場。 内容そのものは特に珍...
政治経済社会

「市民、あなたは幸福ですか?」

国民の「幸福度」を調査へ=新成長戦略の指標に?政府2月28日14時3分配信 時事通信 鳩山由紀夫首相は28日、首相公邸で菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相らと会い、新成長戦略の具体策取りまとめに向け、国民の「幸福度」を調べる方針で一致した。具体的な調査項目を詰めた上で、3月初めにも着手する。 会談後、仙谷氏は公邸前で「単なる数字のGDP(国内総生産)だけじゃない成長をわれわれがどうつくっ...
科学技術哲学

考える葦

人間は自然のうちで最も弱い一茎の葦に過ぎない。しかしそれは考える葦である。これを押し潰すのに、宇宙全体は何も武装する必要はない。風のひと吹き、水のひとしずくも、これを殺すに十分である。しかし、宇宙がこれを押し潰すときにも、人間は、人間を殺すものよりも一層高貴であるだろう。なぜなら、人間は、自分が死ぬことを知っており、宇宙が人間の上に優越することを知っているからである。宇宙はそれらについては何も知ら...
科学技術哲学

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『人間の境界はどこにあるのだろう?』

詳しくはshorebirdさんのところを参照してほしいのだが、私も長谷川眞理子先生訳と書いてなければ手に取らなかったような気がする。内容的にも訳者あとがきのところが一番有益だったような。 どうも『ゲノムと聖書』に似たような「西洋思想の枠組みからは絶対に出ないぞ!」というマイナスの決意みたいなものがちょっと鼻に付く。 『ゲノムと聖書』同様に、最初からキリスト教と西洋思想の伝統にしがらみがない人には大...
科学技術哲学

グレッグ・イーガン『TAP』

久々にグレッグ・イーガンの短編集。やっぱり現代最高のSF作家と言われるだけのことはある。『TAP』『銀炎』『ユージーン』の3作は思想といい知識といいネタといい、この人らしさがよく出ていて私は好きだな。おすすめ。『新・口笛テスト』 一度聞いたら絶対忘れない曲を計算で編み出す方法が発明された。星新一を連想させるコマーシャルネタ。まあまあ面白い。『視覚』 撃たれた後遺症で常に主観的に幽体離脱状態になって...