金庫破りをしないファインマンはありうるか?

天才と分裂病の進化論

 天才と○チガイは紙一重のテーマをもうちょっと追及する。

 紙一重であることは認めるとして、紙一重である必要はあるんだろうか? つまり、金庫破りで上司を困らせないリチャード・ファインマン、今日にもソ連を核攻撃しろと言わないジョン・フォン・ノイマン、人なつこいクルト・ゲーデル、女性にモテモテ王国のアイザック・ニュートンは存在しうるんだろうか?

 ある意味ではこの質問に対する答えは明白だ。実際に人格的にもまともな天才は過去に大勢いたし、今もいるのだから、答えはあり得るに決まっている。

 おそらくそんな疑問が生まれること自体が、性格的に極端な天才のエピソードは性格的に普通の天才のエピソードより面白いから耳に残りやすいという傾向の反映に過ぎないのだろう。

 しかし、それで納得してしまったら話が終わってしまうので、もうちょっと頑張ろう。

 性格的にまともな天才がありうるのは当たり前として、それは部分的にまともでない天才と変わらない働きが可能なんだろうか? 仮にまともな天才しかいない世界になったとして、それはまともでない天才もいる世界と同じようにやっていけるんだろうか? それとも何か重要な部分で違ってしまうんだろうか?

 何の本で読んだ話か忘れたが、アインシュタインは現在のアメリカに生まれていればADHDと診断されて何らかの薬を処方されたのではないかという考え方がある。

 これもただ単にインパクトが強いというだけで頭に残っている根拠薄弱な、どうでもいい話のひとつかも知れない。それでも仮にそんなことがあったら、そのアインシュタインが大物理学者になれたかどうかは怪しいと見るべきだろう。*1

 多くの普通の子供の学習効率を上げるための施策で1人のアインシュタインを凡人にしてしまうとしたら、それは正しいことなんだろうか?

 正しくないとしたら、落ち着きのない子供にリタリンとか与えようとする奴は、ネオナチのなんのビッグブラザーのなんのと非難してやめさせるべきなのだろうか。正しいとしたら、うちの子は個性的なだけなんですとか言って薬を拒否する親は幼児虐待だとして告発されるべきなんだろうか。

 どちらかに決める必要などない。親の自由にという考え方も当然あり得る。しかし本当にそれでいいのか。子供の意志は? 薬ならそれでいいとしても、そう遠くない将来遺伝子操作がかなり自由に行える時代になったらどうするか。

 たとえばフォン・ノイマンのような数学的天才を発揮しやすい遺伝子*2というものは、ほぼ確実に存在する。それが存在しないと思いたければ、フォン・ノイマンは実在しなかったか、実在しても天才ではなかったか、あるいは持って生まれた遺伝子と知能は無関係であると考えるしかない。もちろん、どれも無理である。*3

 ゲーデルのような最高級の数学者になりやすい遺伝子というものがあるとすれば、それは同時に毒殺の妄想に怯えて餓死同然の死を迎えやすい傾向を持つような遺伝子であるという可能性が十二分にあり得る。

 誰かが自分の子供にノーベル賞学者になってもらいたいと考えてそのような遺伝子操作を行うことは許されるのか。

 その結果子供が重い遺伝病を患うことになったとしたら親は罪を問われるか。健康保険は下りるんだろうか。子供は何の問題もなくノーベル賞が取れたとしても、そのまた子供、つまり孫には遺伝病が生じるということもまたありうる。その場合はどうか。そんな遺伝子操作を受けていることを知らずに結婚した相手は慰謝料請求できるだろうか。本人もその親から知らされていなかったらどうか。

 たまたま学者の話から始まったから知能の話になったが、これは知能だけでなくほとんど全てのことに、むしろ知能に関して以上に、よく当てはまる。たとえば左利きの絶滅はジェノサイドか?

 ……と、まあこの辺まではこういうテーマを扱った本なら大体書いてある。

 問題は、問いは大抵同じでも解答は人それぞれ、てんでバラバラということで、ここからわかるただ1つのことは、私達の社会はまだこういう話に対するまともな解答をまるっきり持ち合わせていないみたいだということだ。

 いい加減長いので、この続きはまた今度。他のほとんどのエントリ群にも通じているのでいつか必ず戻ってくるだろう。

 ちなみにこのエントリはジェームズ・ワトソンの人種差別発言のニュースの前に全部書いていたので、ちょっと関連する内容でピッタリのタイミングだが全く関連はない。その話に関しては近く『人間の測りまちがい』に絡めて別のエントリとして書くつもりでいる。

*1:天の邪鬼精神を発揮して、もっとすごい学者になっていたかもしれないじゃないかという意見も頭の隅に留めておくべきだとしても。
*2:正確にはその組み合わせ。
*3:もっともそれは、アインシュタインのような数学的才能を発揮しやすい遺伝子とは、全然共通点がないということはありうるし、実際にかなり違うと予想すべきであろう。

おすすめ類書

おまけ

 これのせいか「初音ミク エロ」って検索ワードで来るアクセスが大杉です。自重してくださいw

コメント

  1. 匿名 より:

    ウィトゲンシュタインのきょうだいを思い出す話ですね……

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