変異型クロイツフェルト・ヤコブ病とプリオン病

 危険部位が見つかるというのは結構あるかと思っていたがこの決断の早さは意外。タイムリーなので前のブログに書いたエントリをちょっと書き直して再録する。

 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)というのはBSE(牛海綿状脳症)、平たく言えば狂牛病のことである。

 狂牛病はごく最近まで知られていなかった全く新しいタイプの病気、プリオン病である。ではプリオン病とは何か?

 寄生虫・バクテリア・細菌による病気はわかりやすい。単に、体に侵入した他の生物が何か体にとって不都合な活動をしているということだ。

 ウィルスは少し違う。ウィルスは遺伝情報たる核酸(DNAまたはRNA)とそれを保護したり宿主に侵入するのを助けたりするタンパク質だけからなっており、核酸を複製したりタンパク質を合成したりできない。標的となる宿主の細胞に侵入してその機能を利用して自分自身を再生産させているのだ。

 対してプリオン病はプリオンタンパク(PrP)が凝集することによって起こる病気である。プリオンタンパクは単なるタンパク質であり、DNA・RNAからなる遺伝情報は一切を持っていない。

 ちょっと待てと思うだろう。遺伝情報を持っていなかったらどうやって増殖したり感染したりできるのか?

 実はプリオンタンパクも宿主自身が作っている。ただしウィルスに感染した時のように遺伝情報を持ち込まれて「作らされている」わけではない。

 本来の機能は未解明であるものの誰でも作っていて、脳や神経にはプリオンタンパクがたくさん存在する。にもかかわらず誰もがヤコブ病にかかるわけではない。

 では凝集する異常プリオンと凝集しない正常なプリオンの違いはどこにあるのだろう。遺伝情報が同じなのだからタンパク質を構成するアミノ酸の種類と配列も同じである。

 それにも関わらず性質が異なるのは折り畳まれ方が違うからである。このことはプリオンタンパクに限らずタンパク質全てに言える。

 ガムテープにたとえるとわかりやすいだろう。長いガムテープをくしゃくしゃと丸める。丸める前は全く同じ種類同じ長さのガムテープでも、丸めた後は、どこが固くてどこが曲がりやすいか、どこがくっつきやすくてどこがくっつきにくいか、などの性質には大きな差ができる。

 異常プリオンは、互いにくっつきやすい構造をしていて、さらに正常プリオンの折り畳まれ方を(誤って)制御して自分と同じ異常プリオンの折り畳み方に変えてしまう性質を持っているわけである。

 そのため異常プリオンは遺伝物質を持たずとも、周囲の正常プリオンを異常プリオンに変えどんどん増えていくことができ、増えた異常プリオンがくっつき合って凝集することによって病気を引き起こすことができるわけである。

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