何もなかったUIE Japanのオフィスに初めてゴミ箱が届いたとき、私はその分類ラベルに迷うことなく『燃やすゴミ』『燃やさないゴミ』と書いた。
特に考えることなく最初からそれがよい書き方だと頭の中で決めており、『燃えるゴミ』『燃えないゴミ』と書こうとはまったく思っていなかったことに書き終わってから初めて気がついた。
なぜそうだったかというとこんなことを考えていたことがあるからである。
イエスの逸話の中でとりわけ好きなのは姦通の咎で石打ちの刑に処せられかけていた女を「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」と言って救った話である。
水面歩行とか魚パン無限増殖とかザオリクとかすごい逸話を持つイエスにしてはいかにも地味な話だが、これはなかなかとっさに言えるセリフではあるまい。
他のどんなセリフでも難しかっただろう。「あなたたちにこの女に石を投げる権利があるのですか?」では全然ダメだっただろう。「俺たちにはあるに決まってるじゃーん!」で終わりだったはずだ。
「あなたたちが罪を犯したことがないならこの女に石を投げなさい」でも「む、でも俺たちは犯罪者じゃないもんねー!」となってやっぱりダメだっただろう。
内容的には何も変わらないのだが、彼は“まず”“石を投げなさい”という言い回しをして具体的なアクションを起こす最初の1人をイメージさせた。それによって群衆のひとりひとりを切り離して自分自身に向かい合わせ、群集心理を打破することに成功したわけだ。
それがゴミ箱となんの関係があるかというと『燃えるゴミ』『燃えないゴミ』と言った場合、その『燃える』『燃えない』の主語はゴミ自身である。せいぜい焼却炉の中にあるゴミしかイメージされない。
どうしても「ビニールだってプラスチックだって燃える燃えないで言えば燃えるんじゃなーい? がんばって燃えてちょうだーい!」と思ってしまいそうだ。
対して『燃やすゴミ』『燃やさないゴミ』ならその主語は自分。自分と考えなくても少なくとも人間がイメージされる。「んー燃やすー? 本当にそれでいいのかー? お前が燃やすんだぞー?」という意識が少なくとも一度は働きそうだ。
根拠は何もない単なる推測ではあるのだが、ゴミ問題などのように群集心理の関係する(心理だけではないが)問題はこうした些細な言い回しで結構大きな違いが現れるのではないだろうかと思っている。
そういう理由でうちのゴミ箱には『燃やすゴミ』『燃やさないゴミ』と書いてあるわけである。もっとも多少の効果があったとしても回収されるところでいっしょくたにされているかもしれないわけだが……。
コメント
面白いかどうかはともかく一度は読んでおく価値はあると思うな。いきなり本物読むのは大変というか退屈だろうからまずは阿刀田高の○○を知っていますかシリーズでも。旧約・新約両方あったと思う。
“まず”ってそういう意味だったのか。うまいな〜。聖書って実はおもしろい?
オヤシロさまと言えば人狼どうするかな。移行すると言ったきり何もしてないや。仕事でRuby on Railsを使ってるのでそれで書き直してみようかしらとも思ったり。
オヤシロさまって群集心理の話しを結構してくれるので参考になります。
それとやっぱり上のは、燃やすゴミが赤のほうがええと思うんです、私も。
わはは、ありがち。それは確かに逆の方がよさそうだ。
非常にどうでもいい話ではありますが社食のゴミ箱が燃えるゴミは青で燃えないゴミは赤である事に納得が行きません。