久住昌之 谷口ジロー『孤独のグルメ』

孤独のグルメ 【新装版】

 知る人ぞ知る怪作。タイトルの時点ですでに何かが決定的におかしい。

 内容も、輸入雑貨の貿易商を個人で営んでいる井之頭五郎という普通の男が、腹を空かして普通に食事をするというだけ。本当にただそれだけ。

 藤子不二雄のSF短編で、食事と性行為に関する羞恥心の概念が逆転した世界に迷い込んでしまう男の話があった。(参考)

 その世界では、食事は個体の維持にしか貢献しない利己的な行為だから、一人隠れてこっそり行う恥ずかしいものであり、性行為は集団の維持に貢献する利他的なものである*1から、正々堂々とおおっぴらに行うべきである、とされている。

 従って、その世界では歩きながらサンドイッチを食べるような気安さで路上性行為が行われ、「食事会」が現実世界における「乱交パーティー」に相当するものになっている。

 どうもこれを読んでいると、そのSFは半分正しいのではないかという思いにとらわれる。

 つまり、人間がものを食う時は一人なのが自然であり、それを克明に描写する――たとえばこの作品のように――のはエロティックな覗き行為であり、いわゆる普通のグルメマンガというのは、乱交パーティーのような倒錯した変態行為なのではないかと。

*1:この考え方は科学的には間違っているが、そこがメインではないので追及しない。

おまけ

 個人的にはゴローちゃんネタといえばテクテクさんのイメージが強い。

コメント

  1. 匿名 より:

    漫画の内容を誤解されそうな紹介文と思いましたが、本当に独りの貿易商の男が食事するだけなのでそれ以上書けないなと納得しました

  2. N より:

    これは本稿(っていう言い方は失礼なのかな?ひとの文章には)へのコメントというより単なる私の「孤独のグルメ」感想文ですが。
    一人で家でネット見ながら冷凍ピラフ食うぶんにはごく自然に何も考えてないけど、一人で外食すると図らずもドラマな空間に迷い込むんですよ。
    多少まずくてもどうせ食うのにヒマだからやたら味を分析してるし、いきつけのうどん屋ですらおばちゃんのアイキャッチして「ごっそさん」とか言うタイミング図ってるし。
    そのおかしみをピンポイントですくい上げた「あるある」ものですよコレは。
    という解釈までは、多分みんなする。けど実際そういうのやれるのが作家の力量ですね。…というのもまあ誰でも言うような…大藤子大先生はSFやリーマンものやらせたときだけはどうにも陳腐ですね。

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