【第12回】 【目次】 【第14回】
私がこのように3名(+私)の文章を並べたのは、もちろんガイア教に慣れ親しんで理解を深めてもらいたかったからだ。これは一番重要なことなのでもっと続ける予定だった。(そう、実はまだあるんだ。)
が、シー・シェパードという団体の活動家が捕鯨船に乗り込んで拘束されるという事件が起きていて、少しでも早く彼らの過激さの源についての話にたどり着く必要を感じたので、ちょっと順番を前後させることにした。
それでも一応、前回の続きから始めよう。
私の意地悪かつ執拗なひねくれたツッコミがなくとも、更に捕鯨船やグリーンピース関連の記述を意識的に頭から追い出して脇に置いたとしても、
「ある程度の年齢まで平均的な日本文化を前提として育っている多くの人間にとって、この『クジラの歌がきこえる』を魅力的な物語と感じることは難しいだろう」
というあたりまでは、捕鯨・反捕鯨問題での立場に関係なく幅広い同意が得られると考える。
たとえイルカ・クジラの大ファンで水族館のイルカショーに通いつめ、もちろん捕鯨には大反対の若い日本人夫婦であっても、
- なぜかわかりあっているクジラ
- ただ食べられるのをまっていたアザラシ
- ざんこくな遊びが大すきなサメ
の間に存在する厳然たる断絶に首をかしげざるをえないだろうし、ラストシーンで両親との和解を早々に諦めて自分とクジラだけの世界に行ってしまうクレアさんを見て、
「まあステキ! うちの娘にもこうなってもらいたいわ」
と思うことはまずありえないだろうと断言しても、必ずしも私の偏見とばかりは言えないはずである。
私の意図通りなら、かなり多くの人が驚いたのではないだろうか、考えうる限り最高にぶっ飛んだ電波よりもただの童話の方が怖いということに。
どう考えてもかなりアブないトンデモ本が「微笑ましすぎて腹筋痛い」ぐらいで済むのに、普通の童話に「血も凍る」*1というのは、よく考えてみれば――よく考えなくてもだが――不思議な話である。
一体何が起きているのだろう?
たぶん「それは文化の違いだ」とあなたは言うだろう。もちろんそれで正しい。まったくもってその通りである。
しかし、その場合私は「それは何という文化のどんな違いか?」と続けて問う。
人間の思考と行動にとって「遺伝と文化のどちらが重要か?」ということは長く真剣な議論の対象だったが、今では「どちらも重要である」という、振り返って見れば当たり前の結論に落ち着いている。
すでに知られているように、人類は遺伝的には極めて均一である。*2だが、人間の思考・行動は後天的に身につけた常識・文化・教育によっても極めて大きく左右されるので、まったく違った文化に育った人間は、時に別の生物よりも理解しがたい存在にもなりうる。
現在まさしくそういうことが起きていると思う。
そろそろはっきり言っても大丈夫だと思うが、私の見る限り、現在反捕鯨運動に激しく反発しているほとんどの人の議論は、控えめに言っても無茶苦茶であり、理解できない存在に対して恐怖を憶える原初の本能に突き動かされてパニックに陥っている*3としか思えない。
答えてもらおう。同じ人間であり、同じようにイルカを愛しているにも関わらず、ユリカさんとビクター・ケラハーを分けているのは何という文化のどんな違いか?
答えられないのならあなたの“文化”という言葉は思考停止の免罪符に使われているだけであり、「あいつらはエイリアンだ」と言っているのと実質的に何も変わらない。ちょっと上品に聞こえるだけだ。
私の答えはもう言ってあるも同然だが改めて言おう。捕鯨・反捕鯨問題を他の環境問題・他の動物愛護問題・他の海洋資源問題とまったく異なる何かにしている核心にあるものは、何千年も昔から脈々と受け継がれてきた一神教の暗黒の側面、先進諸国ではすでに絶滅したと多くの人が錯覚している*4太古のミームだ。
最近ではリチャード・ドーキンスが『神は妄想である』一冊丸々使って批判したのがそれだ。それは人間の寿命よりもかなり長いスパンで存在し、独自の法則に従って受け継がれ、「生きる」。
人間の脳はそんなものを直感的に理解できるようにはできていない。人間の脳は、人間の寿命の間なんとか生き延びて子孫を残すことに最適化されてきたのであって、そのようなものを理解することには何の価値もなかったからだ。
人間がそのようなものを理解したければ、いくらひとりで頭をひねっても無駄である。やはり人間の寿命以上のスパンで存在し受け継がれる知識の力を借りなければならない。『歴史学』や『文化人類学』と呼ばれるものがそれだ。
*1:第12回のコメント欄の表現を借りれば。
*2:これは数十万年前という比較的最近に、人類全ての祖先が小さめの体育館に全員集合できるぐらいの人数にまで減少したことがあるという事実の反映である。
*3:参考:陰謀論は現代の宗教
*4:もちろん事実としても絶滅寸前であり、だからこそ多くの人にとって理解不能になっているのだが。
【第12回】 【目次】 【第14回】
おまけ
アクセス解析によると「ガイヤ教」で検索してこのブログにたどり着いた人がいらっしゃるようですが、お探しのものはこれでしょうか?
コメント
ガイ屋w