文化芸術宗教

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山本弘『神は沈黙せず』

と学会の本は何冊か読んだことがあるが、山本弘の小説を読むのは実は初めてだったりする。  いかにもと学会っぽい蘊蓄が存分に活用されていて、面白いか面白くないかと言えば十分面白いけど、どうしても引っかかるものがある。なぜだろう。  おそらく作者が、主人公たちよりも悪役の加古沢の方に肩入れして自己同一視している――単に作品内のどのキャラも作者の分身のひとつだからというレベルの話ではなく――からだろうと思...
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繁田信一『殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語』

要約すると文学しか注目されない平安貴族の暮らしだけど、実情はわりとカオスでしたという話。当たり前と言えば当たり前なのだけど、こういう幻想が破壊される感は個人的に大好きだ。  後半はだんだん似たような内容の繰り返しになってきて、一般的にはあまり面白い本とは言い難いので、そんなに積極的におすすめはしない。ものはついでだが、源氏物語については、 ふみまよう  の音読mp3と、 源氏物語の世界 再編集版 ...
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H.S.クシュナー『なぜ私だけが苦しむのか―現代のヨブ記』

最近読んだ本の中で連続して目にしたため、有名な本らしいから読まなければと思っていた。ちなみにその一つは『ヤバい経済学』の増補改訂版だったような気がするがまた記憶違いかもしれない。  まずヨブ記そのものについて多少の知識が必要なので、まったく知らない人は、その概要と意味合いについて昔読んだ下のエントリを参考にしてほしい。 ヨブ記タグについて - nerdists’ beach (旧・東瀛倭族拝天朝)...
星新一の夢世界

星新一『不景気』

結婚を控えた若い優秀な科学者エス氏は、経済界の首領から何でも2倍欲しくなる治療不可能なウィルスの開発を依頼されていた。  アイスクリームなら普段一杯で満足するところをもう一杯食べないと気が済まなくなり、本のような一冊あれば十分なものでさえも、もう一冊買わなければ気が済まない。  博士は「どうも無駄のような気がする」と懸念するが「無駄こそ文明の本質だよ」と説得される。そして一生豪勢に暮らせる金額を、...
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土居健郎『「甘え」の構造』

英語には日本語の「甘える」に相当する言葉がない、という話から始まる日本論。Wikipediaにも項があるようなベストセラーだったそうだが最近まで知らなかった。私にはやはりこれは日本論というより裏返しの一神教論として読めてしまう。  たとえば浄土真宗では他力本願といって、自己の力で悟りを開いて成仏するなどという考え方は捨てて、ただ阿弥陀如来の力にすがるべし、というようなことを強調するわけだが、思えば...
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古川日出男『アラビアの夜の種族』

わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: この本がスゴい2008 わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 「アラビアの夜の種族」はスゴ本 【徹夜保証】  と、スゴ本さんのところでメチャメチャ褒めちぎられていたので正月休み用に選んだのだが正解。ネタバレすると致命的というわけではないが、かなり興がそがれると思うので検索禁止。  100%味わえるかどうかはある箇所で「○ィ○○○...
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バート・D. アーマン『破綻した神キリスト』

『捏造された聖書』の著者の本。こちらはそこまで面白くはなかった。極東ブログの書評が非常に詳しく、私もほぼ同意できるのであまり書く事がない。  ヨブ記がどんな話かとか黙示思想がどんなものかとかをあまり知らない人の方がむしろ新鮮で面白いかもしれない。黙示思想は今でもこんな形で現れたりするものだし、知っておいて損はないと思う。  ただ、これに関連して『多様化世界』の記事で予告していたフリーマン・ダイソン...
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エーリッヒ・フロム『愛するということ』

『自由からの逃走』からエーリッヒ・フロムつながりで読んだ。“愛”についての本。内容は参考リンク先が充実しているので繰り返さない。  面白いけど原著が1956年というだけあって、とても時代を感じる。今日時点で、  社会の未開人的自然崇拝的な愛からキリスト教的な愛への成長を、個人の母性的愛から父性的愛への成長になぞらえる  なんてことをやったら「二重三重の意味でPCでない!」と怒られるんではなかろうか...