科学技術哲学

科学技術哲学

長沢和也 編著『フィールドの寄生虫学―水族寄生虫学の最前線』

寄生虫ほど人の心を捉える生物もそうはないだろう。ただしマイナスの方向にだが。口絵からして気色悪さ全開だが、『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』でも感じた現代博物学の面白さもあるので、こういう生物系が耐えられる人なら一読してみてもよいのでは。  しかし、これで思い出したが『パラサイト・レックス』は一度きっちりおすすめしておく必要がありそうだ。寄生虫のみならず寄生という概念そのものに生じた――今...
科学技術哲学

ニック・レーン『ミトコンドリアが進化を決めた』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』の続編に当たる本。 真核生物とミトコンドリアの進化的起源 老化とフリーラジカルとミトコンドリアとの関わり 内温性(温血)生物のスケーリング則  など。前著からわずかの期間にも次々と知見がアップデートされている感があってとてもエキサイティングだ。老化に関しては統一的に予防や治療ができるようになる可能性が十分あるのは確からしい。現在のところは、 頭や体をよく使うよう...
科学技術哲学

無能で説明がつくことを陰謀のせいにしてはならない

ハンロンの剃刀 「無能で説明できる現象に悪意を見出すな(直訳:まさか、愚かさによって充分に説明できるものを悪意のせいにする必要なんかありません。)」 Robert J. Hanlon Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.  というのは、オッカムの剃刀(=思考節約の原理)の系で、レベルの低...
科学技術哲学

小山重郎『よみがえれ黄金の島―ミカンコミバエ根絶の記録』

トラウマの話をしていたら別の思い出が甦ってきて、反射的に検索かけて注文してしまった。私の人生最初の、ものすごく面白かった記憶が残っている科学の本が、これなのである。今読み返しても素晴らしく面白い。  子供向けシリーズとはいうものの内容は高度で、虫の生態から、フェロモン様の誘引物質を使う方法、放射線で不妊化した雄を放す方法まで多岐にわたる。しかし、それを図表・グラフ・写真・地図などを豊富に使って平易...
科学技術哲学

ニック・レーン『生と死の自然史―進化を統べる酸素』

0.予習  予告しておいてから随分間が開いたが、久しぶりに相当面白い本に当たったので紹介する。すごくオススメである。続編にあたる『ミトコンドリアが進化を決めた』も都合がつき次第読みたいと思っている。  まず、絶対に必要というわけではないが以下のエントリの内容を踏まえておいた方がもっと面白いと思う。 ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』 ガブリエル・ウォ...
科学技術哲学

脳は陰謀論を生む機械

分離脳についての実験からは「説明装置」とでも呼ぶべき機能が左脳側にあることが示唆される。たとえ(分離脳の状態になければ右脳から送られたであろう)正しい情報がなくても説明装置はとにかく結論を出す。  端から見ている実験者の立場ではそれはどう見ても作話であるのだが、どうも(少なくとも言葉で説明ができるような)自我は、脳で働いている様々なモジュールがそれぞれ高度に専門化された仕事をこなした後の最終結果し...
科学技術哲学

リー・M. シルヴァー『人類最後のタブー―バイオテクノロジーが直面する生命倫理とは』

宗教右派と自然崇拝の左派、双方からのバイオテクノロジーに対する反発に対する、分子生物学者の立場からの批判。この手の話に慣れている人にとっては改めてすごい話は出ないと思うが、その分網羅性が高く、どんな人にも非常におすすめである。  原題は"Challenging Natrue - The Clash of Science and Spirituality at the New Frontiers o...
科学技術哲学

アルフレッド・W.クロスビー『ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10~20世紀』

アルフレッド・クロスビーつながり4冊目。それなりに面白かったが、『銃・病原菌・鉄』とほぼ完全に重複する内容であり、そちらの方が時代的にも後でより洗練されているので『銃・病原菌・鉄』を読んだことがある人は、差分の分しか面白くないかもしれない。訳者あとがきより。  本書の原題はEcological Imperialism: The Biological Expansion of Europe, 900...