科学技術哲学

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トム・カークウッド『生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』のための予備知識二冊目。 1.なぜ老いるのか  人間の寿命の信頼できる最高記録は120年とちょっとである。不老不死は今も昔も究極の夢であるが、そもそも生物はなぜ老いるのか? 老化は極めてありふれた現象であるにもかかわらず、実はこの問いに完全な答えは未だ得られていない。  「細胞は常に損傷に晒されているんだからいずれ劣化するのは当たり前じゃないの?」などと言ってみ...
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ガブリエル・ウォーカー『スノーボール・アース 生命大進化をもたらした全地球凍結』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』という本がめちゃめちゃ面白かったのでそれに関して書きたいのだが、その前に前提知識として持っておいた方が思われる内容があるので、以前読んだ本を紹介する。まずは一冊目。  スノーボールアース仮説*1は、最近NHKスペシャルの地球大進化でも言及されていたように記憶しているが、大陸移動説以来までは言わなくとも、K-T境界の隕石衝突説に勝るとも劣らない重要な地質学上の革命...
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アルフレッド・W・クロスビー『数量化革命 ヨーロッパ覇権をもたらした世界観の誕生』

『飛び道具の人類史』が面白かったので、アルフレッド・クロスビーつながりで借りてきた。  中世のヨーロッパは全てが宗教一色に塗り固められていて文明はむしろイスラム圏や中国より劣っており、近代の繁栄が始まったのはギリシア文明のルネッサンスから、というのは中学校でも習う話だが、それを“数量化”という観点からまとめた本。訳者あとがきより。  世界を理解する枠組みが、従来のような定性的で目的論的なものから、...
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復刊ドットコムで『表現の自由を脅すもの』をリクエスト

表現の自由を脅すものジョナサン・ローチ復刊リクエスト投票  下に並べたように事あるごとにおすすめしているジョナサン・ローチ(ジョナサン・ラウチとも)著『表現の自由を脅かすもの』原題"Kindly Inquisitors: The New Attacks on Free Thought"(『やさしそうな異端審問官たち――自由思想への新たな攻撃』)。  人生の中でも他人にお薦めしたい本No.1なのです...
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デニス・シュマント=ベッセラ『文字はこうして生まれた』

文字から計算が生まれたのではなく計算から文字が生まれた。文字に繋がる抽象化にまつわる最も古い遺物は一定間隔で刻み目の入った骨。数えていたものはおそらく日数。 家畜を管理するために、一頭囲いから出すごとに一つ小石や小枝を拾い、一頭囲いに戻すたびに一つ落とす、といったことをしていた時期があったはず。*1 シュメールの遺跡では粘土で作られた様々な形のトークンが出土する。農耕の始まりと定住生活によって増え...
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レイモンド・スマリヤン『天才スマリヤンのパラドックス人生 ゲーデルもピアノもマジックもチェスもジョークも』

否定できないけど自分で天才って言っちゃうのはどうよ? と思ったら原題は"Some Interesting Memories: A Paradoxical Life"(「いくつかの興味深い思い出――ある逆説的な人生」)だった。  レイモンド・スマリヤンの本は昔とても好きだった。既読のものと内容が重複する部分が多いのでこれ自体はあまり楽しめなかったが。 数学パズル ものまね鳥をまねる―愉快なパズルと結...
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東浩紀発言とポストモダン・プレモダンあと還元主義の罠

1.専門家団および公共性の軽侮  ある人が家に入ってくる。机の上の財布をポケットに入れ家を出て行く。この行為は正当か?  この問いには、イエスと答えるのもノーと答えるのも馬鹿げている。その家がその人の家であるか、そうでないかによる。前者ならその人は財布を忘れた人であり、後者ならその人は空き巣だ。その前提を知らないままでは正当も不当もありえない。何の話かといえば、 東浩紀の渦状言論: 歴史認識問題に...
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科学を信仰してるだけです

科学を信仰してるだけじゃん みたいな言い回しが後を絶たないな。 この言い回しそのものがおかしいという事を小学生にも分かるように書きたいのだが、 全然うまい事思いつかねー。 こういうのをうまく説明できる頭の良い人がうらやましいな。 でもあきらめずにもうちょっと考えてみよう。 (科学を信仰してるだけじゃん)  思いつかなくても仕方ない、というか思いついたらすごいよ。それは近代以降の科学哲学の基本だから...