書評

文化芸術宗教

必要最低限にしか政治的に正しくないおとぎ話『ハリー・ポッターシリーズ』

固有名詞のセンスが半端じゃない時点で結構面白いだろうということは確信していたのだが、最近ようやく最終巻まで図書館で借りられるようになってきたので、全部読んだ。  どこかで誰かが「魔法界はアムネスティの調査で100位以下になりそうだ」とか書いているのを見て笑ったおぼえがあるが、確かにそんな感じ。大臣の独断で容疑者を処刑したりしちゃうし。  機会均等の原則はしっかり守ってホグワーツの創設者も2/4は女...
科学技術哲学

エドワード・オズボーン・ウィルソン『知の挑戦―科学的知性と文化的知性の統合』

『社会生物学』で有名なエドワード・オズボーン・ウィルソンの本。  読んだのは大分前だが、下のシロアリの倫理のくだりをメモしたくてもう一度借りてきた。  人間が自明と思っている様々な倫理・道徳が、高い知能・複雑な社会から直接に出てくるわけではなく、進化や遺伝と不可分なのだということを言った、有名なたとえ話。 シロアリが現生種の社会レベルから文明を発展させたとしよう。たとえばオオキノコシロアリという、...
政治経済社会

リチャード・E. ニスベット ドヴ・コーエン『名誉と暴力―アメリカ南部の文化と心理』

『みんなの進化論』で言及されていて面白そうだったので読んだ。以下は超要約。  アメリカ南部の文化が、端的に言ってマッチョ的だというイメージは広く知られている。しかし、南部人は単に何に関しても暴力的というわけではない。自分自身や女性親族の「名誉」を守るという文脈で、特に暴力を許容する傾向がある。  よく言われてきた「奴隷制のせいで良心が摩滅しちまったんだよ」という類の説明は、「社会制度が暴力肯定を助...
おすすめ書評まとめ

書評在庫一掃セール2009年9月版

最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。  ★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。 『暗殺の事典』★  カール・シファキス著。『詐欺とペテンの大百科』と同じ著者。そちらほどではないが楽しい。楽しんでいいのかという話は置いと...
科学技術哲学

サイモン・イングス『見る―眼の誕生はわたしたちをどう変えたか』

視覚全般に関する本。質・量・ひろがり・まとまりどの基準を取っても最高クラスです。超おすすめ。 プロローグ 若さと老い 第1章 感覚の共同体 第2章 視覚の化学 第3章 どのようにして眼は可能になるのか? 第4章 適応する眼 第5章 見ることと考えること 第6章 視覚の理論 第7章 視覚能力を授けられた神経質なシロモノ 第8章 色を見る 第9章 見えない色 第10章 眼が見るということ エピローグ ...
文化芸術宗教

山本弘『アイの物語』

山本弘つながりで読む。これは確かにすごく面白い。『神は沈黙せず』の時のような引っかかりもないし、迷わずおすすめできる。 404 Blog Not Found:感無量 - 書評 - アイの物語  弾さんみたいにベストフィクションとまでは言えないけれども、同じポジティブなAIネタを扱っても、宗教的伝統から来るフランケンシュタイン・コンプレックスからいまだ完全に自由でない(ように思われる)世界の最先端S...
政治経済社会

アンソニー・プラトカニス エリオット・アロンソン『プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く』

かなり昔読んだ本だが、ちょっと記憶を確かめたいことがあって再読。ついでにおすすめ。  プロパガンダという単語からは政治的なものの方が先に連想される。この本でもナチスの宣伝戦略の話などはもちろん出てくるが、重点が置かれているのはむしろ広告の方。  もちろん政治を軽視する意図は全くないが、現代人が最も大量に晒され日々の生活に影響を受けているのは確かに商業広告なので、そのテクニックを知っておくことは大切...
政治経済社会

ポール・コリアー『最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?』

以前立ち読みで良い本だとは思っていたけど、図書館の予約の順番が回ってきたのでまた読んだ。やっぱりすごく良い本だった。おすすめ。  思いっきり要約すると、ここ数十年の間に、 先進の10億人+発展途上の50億人  という構図だった世界は、 先進or発展途上の50億人+底辺の10億人  という構図になりつつあるということ。  そして、この底辺国が陥っている罠を打破するには、軍事介入や貿易自由化という、通...