書評

科学技術哲学

野口悠紀雄『「超」整理法―情報検索と発想の新システム』

あまりにも有名なので、読んでいないにも関わらず超整理法そのものは知っており、すでに実践もしているのだが、やはり一度は原典に当たってみようと読んでみた。  当時(93年初版)のパソコン事情などがかいま見えて思った以上に面白かった。  超整理法の要点は簡単で“分類などせずに最近使ったものから順に時間軸で一直線に並べればなくすこともなく合理的な時間で検索できる”というものだ。  今では多くのソフトで「最...
科学技術哲学

ジョン・ダービーシャー『素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦』

フェルマー予想の解決以後、数学最大の未解決問題と目されるのがリーマン予想。それは  ゼータ関数の自明でない零点の実数部は全て1/2である  というものである……が、見ての通り定義だけでも専門用語がいっぱい出てきて、フェルマー予想と違って簡単な言葉で表現する方法がないのが最大の弱点。  この本の中に出てくる数式を理解するには最低でも大学の講義レベルの数学(複素関数論とか解析学)が必要になる。少なくと...
科学技術哲学

サラ・ブラファー・ハーディー『マザー・ネイチャー 「母親」はいかにヒトを進化させたか』

「母親」について生物学・遺伝学・人類学・動物行動学・発達心理学等のありとあらゆる科学的見地からまとめた本。  個々の分野については特に斬新というわけではないが、これほどまとまってる本は今までなかったと思う。特にフェミニズムや少子化問題について何かしら考えたいという人は必読ではないかと思う。  子殺し事件が起きるたびに母性本能がどうのという無意味な議論が繰り返されるし、中絶の是非をめぐって賛成派と反...
科学技術哲学

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』

フェルマーの最終定理って何? というのはwikipediaでも見てもらうとして(ブログに数式書けないし)、ワイルズの証明以来いろいろな本が出たが、数学的な内容に深く踏み込まない方向のものの中で一番面白かったと思う。  古代ギリシャのピタゴラス、エウクレイデス(ユークリッド)、ディオファントスから始まってフェルマー、オイラー、ガウス、アーベル、ガロア、クロネッカー、カントール、ラッセル、フォン・ノイ...
文化芸術宗教

中村伊知哉・小野打恵『日本のポップパワー―世界を変えるコンテンツの実像』

日本の文化発信力についての本。私は昔タイの首都バンコックで5年間暮らしていたことがあって、日本の文化発信力の勢いを肌で感じた記憶がある。  本屋に行けばドラゴンボール*1、テレビでもドラゴンボール*2。おもちゃ屋ではファミコンの古いソフトを何十本もひとつのカートリッジに詰め込んだインチキソフトを売っている。  あまり関係ないが印象的だったのは、おもちゃ屋の店頭で店員さんがドラクエ4やFF5をプレイ...
WEB情報通信

大駒誠一『コンピュータ開発史―歴史の誤りをただす「最初の計算機」をたずねる旅』

図書館で借りたがこれはなかなかいい本だ。古代のそろばんから、元祖“バグ”、コロッサスやENIACまで計算機とそれに関わる人・文物の歴史が写真入りでまるで図鑑のように。  面白いけど7000円もするから普通だったら買えないな。図書館のありがたさよ。  副題に「歴史の誤りをただす」とある。確かに私もコンピュータの歴史には結構興味があるつもりだったが、全然知らなかったり間違って憶えていることも多かった。...
日常の一コマ

『Life Hacks PRESS デジタル世代の「カイゼン」術』

ライフハックというのは仕事や雑用をより少ない労力とストレスで済ませることができるようなノウハウのこと……らしい。  言葉としては最近知ったのだが私は昔からそういうのに凝る人だったので個人的にはこの本はあまり役に立ったとは言えない。一度は考えたことがあるようなこと・やってみたことがあるようなことが多いからだ。  『Web進化論』がWeb2.0って何? という人向けに書かれているのと同様、ライフハック...
ゲーム森羅万象

斎藤由多加『ハンバーガーを待つ3分間の値段―ゲームクリエーターの発想術』

タイトルが面白かったので衝動買いした『シーマン』や『ザ・タワー』の開発者のショートエッセイ集。全体を貫いて繰り返し登場する 時間・機会・手間のコスト スタンダードであることの強さ 人間の解釈に合わせた情報の出し方  といった視点はゲームに関係なく現代社会を生きる上で重要であろう。各章が短くてパッと読めるし全体の分量も適度なので万人におすすめ。