進化

科学技術哲学

トム・カークウッド『生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平』

『生と死の自然史―進化を統べる酸素』のための予備知識二冊目。1.なぜ老いるのか 人間の寿命の信頼できる最高記録は120年とちょっとである。不老不死は今も昔も究極の夢であるが、そもそも生物はなぜ老いるのか? 老化は極めてありふれた現象であるにもかかわらず、実はこの問いに完全な答えは未だ得られていない。 「細胞は常に損傷に晒されているんだからいずれ劣化するのは当たり前じゃないの?」などと言ってみたとこ...
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パスカル・ボイヤー『神はなぜいるのか?』

原題は『説明される宗教』(Religion Explained)。原題の方が内容に忠実だ。全体の趣旨は私なりに思いっきり要約するとこう。従来の説明宗教は説明を与える。宗教は安らぎを与える。宗教は社会に秩序を与える。宗教は認知的錯覚である。 これらはみな一理あるが不十分である。このような現在「宗教の特徴」と言われて思いつくようなものは、いくつかの大宗教の特徴であるに過ぎず、宗教全体の中では時間的にも...
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マイク・モーウッド『ホモ・フロレシエンシス―1万2000年前に消えた人類』

1万2000年前と言えば、以前紹介した『銃・病原菌・鉄』で、人間集団間の文明の格差が生じ始めるスタート時点として仮に設定されていた1万3000年前よりも後だ。 そんな年代まで、チンパンジー並みの体格で火や石器を操っていた別の人類が生きていたとしたらどうだろう? ……という、実に様々な知的興奮を掻き立てるホモ・フロレシエンシスだが、この本自体はどうも書き方が悪いのか、研究に際しての他の研究者やマスコ...
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アルフレッド・W. クロスビー『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』

人間は自分達ホモ・サピエンスの長所を精神に求めることに慣れており、動物と身体能力を比較するときは、負けることを好む。 「俺たち人間はこんなに脆弱な肉体しか持たないのに地上を征服した。だから万物の霊長なんだぜい。イェイ!」と思うと気分がよいのだ。 そのためか、人間の身体能力のうち圧倒的に優越しているものがあることをほとんど忘れている。それは投擲力。ものを放り投げる力。 投石は初期人類にとって重要な武...
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ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』

本書の原題"Out of Thin Air"は、直訳すれば「薄い大気の中から[進化した]」というような意味である。薄いというのは酸素濃度のことであり、何が進化したかといえば、話題の中心は恐竜と鳥類である。しかし著者ピーター・ウォードはもっと大風呂敷を広げる。地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれたというのだ。歴史上の大量絶滅はことごとく酸素濃度が急落し...
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シャロン・モアレム ジョナサン・プリンス『迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか』

病気と進化の関係というのは比較的新しくかつ面白い、ホットな話題の1つ。これとかも面白いしね。この本も面白いんだけど、1章のへモクロマトーシスについての話で、 そもそも瀉血という行為が世界中で何千年も続けられてきたという事実は、この行為に何らかのプラス効果があるということを示している。瀉血療法を受けた人が皆、死んでいたら、こんな治療法はあっというまに姿を消していたにちがいないからだ。 ひとつだけ確か...
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ジェームズ・ローレンス パウエル『白亜紀に夜がくる―恐竜の絶滅と現代地質学』

恐竜の絶滅が隕石衝突によるものだというのは今日時点ではほぼ定説だが、少なくとも私の子供の頃はそうではなかった。出てきたのも受け入れられたのも比較的最近の話だ。 受け入れられたとはいっても、その道は必ずしも平坦ではなかった。地質学と進化論はそれぞれノアの大洪水と天地創造という聖書のドグマと戦うことで始まったようなものである。 その出自のせいもあって、(神の介入のような)偶然で突発的な大事件による説明...
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ミシガンのネズミ

『神と科学は共存できるか? 』と『神は妄想である』の話も書きたいのだけどまだ書けてない。 本全体の主題とは関係なく、この「ミシガンのネズミ」という言葉は、これまでネット上の論争などを見ていてたまに言いたいと思っていた概念を簡潔に言い表す言葉として使えそうだからメモっておく。 広範な一般化はつねに、その境界に例外や「しかしながら」という微妙な領域を――主要な問題点の説得力を無効にすることなく、また傷...