進化

科学技術哲学

アルフレッド・W. クロスビー『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』

人間は自分達ホモ・サピエンスの長所を精神に求めることに慣れており、動物と身体能力を比較するときは、負けることを好む。  「俺たち人間はこんなに脆弱な肉体しか持たないのに地上を征服した。だから万物の霊長なんだぜい。イェイ!」と思うと気分がよいのだ。  そのためか、人間の身体能力のうち圧倒的に優越しているものがあることをほとんど忘れている。それは投擲力。ものを放り投げる力。  投石は初期人類にとって重...
科学技術哲学

ピーター D.ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた』

本書の原題"Out of Thin Air"は、直訳すれば「薄い大気の中から[進化した]」というような意味である。薄いというのは酸素濃度のことであり、何が進化したかといえば、話題の中心は恐竜と鳥類である。しかし著者ピーター・ウォードはもっと大風呂敷を広げる。地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれたというのだ。歴史上の大量絶滅はことごとく酸素濃度が急落し...
科学技術哲学

シャロン・モアレム ジョナサン・プリンス『迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか』

病気と進化の関係というのは比較的新しくかつ面白い、ホットな話題の1つ。これとかも面白いしね。この本も面白いんだけど、1章のへモクロマトーシスについての話で、  そもそも瀉血という行為が世界中で何千年も続けられてきたという事実は、この行為に何らかのプラス効果があるということを示している。瀉血療法を受けた人が皆、死んでいたら、こんな治療法はあっというまに姿を消していたにちがいないからだ。  ひとつだけ...
科学技術哲学

ジェームズ・ローレンス パウエル『白亜紀に夜がくる―恐竜の絶滅と現代地質学』

恐竜の絶滅が隕石衝突によるものだというのは今日時点ではほぼ定説だが、少なくとも私の子供の頃はそうではなかった。出てきたのも受け入れられたのも比較的最近の話だ。  受け入れられたとはいっても、その道は必ずしも平坦ではなかった。地質学と進化論はそれぞれノアの大洪水と天地創造という聖書のドグマと戦うことで始まったようなものである。  その出自のせいもあって、(神の介入のような)偶然で突発的な大事件による...
科学技術哲学

ミシガンのネズミ

『神と科学は共存できるか? 』と『神は妄想である』の話も書きたいのだけどまだ書けてない。  本全体の主題とは関係なく、この「ミシガンのネズミ」という言葉は、これまでネット上の論争などを見ていてたまに言いたいと思っていた概念を簡潔に言い表す言葉として使えそうだからメモっておく。  広範な一般化はつねに、その境界に例外や「しかしながら」という微妙な領域を――主要な問題点の説得力を無効にすることなく、ま...
アニメコミック

デビルマン・寄生獣・ネウロに共通する進化論へのまともな理解 後編

(前回の続き)  で、最後にネウロだ。  最近出てきた新しいボスキャラ「シックス」の設定は、一見『オレが進化の頂点を極めた究極生物なのだッ!』的ないい加減な理解の代表に見える。  しかし、実は定向進化を実体のあるものであるかのような言い方をしていることを除けば、原理的におかしいところは何もなかったりする。  こんなまっとうな方法で進化した少年漫画のボスキャラというのは前代未聞ではないかと思われる。...
アニメコミック

デビルマン・寄生獣・ネウロに共通する進化論へのまともな理解 中編

(前回の続き)  『寄生獣』はこのような文章から始まる。 地球上の誰かがふと思った 『人間の数が半分になったらいくつの森が焼かれずにすむだろうか……』 地球上の誰かがふと思った 『人間の数が100分の1になったらたれ流される毒も100分の1になるだろうか……』 誰かが ふと思った『生物(みんな)の未来を守らねば…………………………』  これはガイア理論のかなりトンデモ寄りな解釈――地球には超科学的...
アニメコミック

デビルマン・寄生獣・ネウロに共通する進化論へのまともな理解 前編

現在少年ジャンプでほぼ唯一と言っていいぐらい着目している『魔人探偵脳噛ネウロ』であるが、最近の展開は単に面白いというのとは違う意味でちょっと興味がある。私が以前から持っている作業仮説を検証できる機会だからだ。それは、 進化についてのまともな理解にヒントを得ているマンガは奇跡的な傑作になる可能性が高い  というものである。少年漫画で進化について触れられる場合『オレが進化の頂点を極めた究極生物なのだッ...