2010 3/1

(本文とは無関係)

 メタプラセボ仮説という単語自体は初めて聞いたが、私はこの効果は当然あると思う。

 まず、メタプラセボもプラセボも何も関係なしに、そもそも「傷や病気が治るのはなぜか?」ということから考えよう。

 傷や病気はホイミやケアルの魔法で治るのではない。「自然」に治るのでもない。意識的にする必要はないが、自分の身体の各細胞が必死に働いて治すのだ。そして、必死に働くにはエネルギーがいる。

 他に治してくれる人はいない*1以上、死なずに治るようにする分だけは振り向けなきゃいけないのはもちろんだ。しかし、病気や怪我以外にも死の脅威は沢山存在するのだから、必ずしも全部振り向けるのがベストとは限らない。

 たとえば肉食獣だってエネルギーは無駄にしたくないから、捕りやすい弱った個体を狙う。病気を治す間にも、サーベルタイガーに襲われたら逃げられるだけの準備はしておく必要がある。でないと、風邪は治っても治る前に食われる。それでは意味がない。

 もっと危険なのは他の人間だ。「何、あいつが病気? よしわかった、今晩寝込みを襲って殺す!」というシビアな状況にある人間と、怪我や病気をしたらゆっくり看護してもらえる恵まれた人間では、条件がまったく違う。

 同じように治療にエネルギーを振り向けるのは間違いだ。前者なら最低限の治療は必要にしても、闘争あるいは逃走のための準備を最大限に整えておく必要があるし、後者なら治療にほぼ全てをつぎ込むべきだ。

 そして、病気や怪我の時どんな条件にあるかは生まれる前にはわからないし、一生のうちにもどんどん変化していくので、あらかじめ遺伝的に決めておくわけにはいかない。

 その時受けているストレス等から判断して、柔軟にどちらの戦略も取れるようにしておくべきだ。そのように対応できる身体を作る遺伝子を持つようにするのだ。

 そして、実際にそうなった。それができなかった個体は我々の祖先にはなれなかった。人間*2が、ストレスによって治りが悪くなる*3のは、突き詰めればこのようなトレードオフに由来する。

 薬がプラセボと知っていようといまいと、人から*4協力的な雰囲気で何かしてもらえるということは、自分が危険な社会状況にはいない、つまり安心して治療に全力を振り向けてもよい、という強いシグナルだ。

 従って、メタプラセボには、プラセボ効果と同等とは限らなくても、少なくとも同様の効果があるはずだ。メタプラセボの効果がまったく確認できなかったとしたら、むしろそちらの方が説明を要する不思議なことだと思う。

 もちろん、メタプラセボは

  • 病院で医者と「偽薬です」と説明された上で薬のようなものを飲む

 ことである必要はないだろう。

  • 神社で神主さんに「単なる気休めで効きませんからね」と説明された上でお祓いをしてもらう

 とか、

  • 教会で神父さんに「神が治してくれたりしませんからね」と説明された祈祷をしてもらう

 でも、同じ程度の効果はあるに違いない。

*1:少なくとも昔はいなかった。
*2:もちろん動物でも同じだが。
*3:良くなるのではなく。
*4:とりわけ、医者のような知識も技術も権力も恵まれていそうな人物から。

おまけ

 病気→菌

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2010 2/13

ヘソリンガス

 shorebird氏の『進化の存在証明』*1についての記事を読んでいて思い出した。

 以前

 苦悩、あるいは私たちがそう呼ぶところの脳神経の働きなどはパンダの親指同様に、そしてもちろんその他のありとあらゆるものと同様に、単に進化の産物のひとつにすぎず、

(バート・D. アーマン『破綻した神キリスト』 神は細部に宿り給う)

 と書いたのは、もうちょっと詳しく言うとそのような意味である。この話は当分できる目処が立たないし、興味があった人は読んでおいてほしい。そこ以外の部分も面白いけど。

*1:”The Greatest Show on Earth”は原題。

おまけ

 痛みつながり。

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2010 1/26

服従の心理

 よく教科書にも載ってる有名なミルグラム実験の本。スタンレー・ミルグラムはスモール・ワールドの概念の先駆者としても有名。

 一応、旧版で読んだような記憶はあるが、

 で、山形浩生氏の批判というのに興味を持った。

 確かに、山形氏の批判は、どれもいいところを突いていると思う。この実験の今日的な解釈として同意できる部分が多い。おすすめ。

 「人間は責任を他人に預けたり、薄皮一枚かぶせて誤魔化したりするだけで、ずいぶん残酷なこともできる」という点で、

 と共通する部分が多々ある。合わせておすすめ。

おまけ

 服従服従。春閣下のは何か違う気がするので将軍様で。

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2010 1/11

人はなぜ走るのか

 当たり前だと思うかもしれないが、人間はマラソンができる。誰でもというわけではないにしても、鍛えれば42.195キロ以上走ることができる。

 そんなことができる類人猿は、人間以外にはいない。人間は投擲力に優れているという話は前にもあったたが、持久走力も大変優れているのだ。

 ところが「人間は精神的に優れた動物であり、代わりに肉体は貧弱で非効率的である」という根拠のない伝統的偏見が根強く、なかなかそのような事実は意識されていない。

 仮に科学が、もっと自分たちの肉体の素晴らしさを強調するような文化の影響の下に進んでいたら、このあたりの歴史はかなり違っていたのではないかと思われる。

 この持久走力は、狩猟への適応であると思われる。狩られる者としての適応をもっと重視すべきという意見(参考)を考慮に入れたとしても、現生人類が高度な適応を遂げた狩猟者であることは変わらない。

 長時間追跡する狩りをすることが、将来を予想することなどの精神的な進化にも重要だったのではないかと臭わせており、これはさすがに飛躍しすぎではないかと思った。

 しかし、『飛び道具の人類史』で、投擲への適応が結果を予測することなどの精神的な進化にも影響を及ぼしたのではないかという意見を読んだときには、必ずしも飛躍とは感じなかった。

 後者を受け入れるなら、必ずしも前者を否定することはできないような気がする。

 もしかして、人間的な知性の進化には、持久走的な狩りをし、かつ投擲を重要な武器とする動物、という条件が必須だったなどということがありうるのか?

 後知恵の理屈すぎると思う反面、やはり否定する根拠は何もないように思える。むしろ、知性の進化が必然ではない理由を解明するヒントが、このあたりにあったりするのかもしれない。

 全体的に面白かった。同著者の他の本も読んでみたくなった。

参考リンク

関連書籍

おまけ

 人はなぜ走るのか。う〜ん、哲学

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2010 1/10

(本文とは無関係)

 オリオン座の1等星「ベテルギウス」で、超新星爆発へ向かうと見られる兆候が観測されている。米航空宇宙局(NASA)が6日に公開した画像には、星の表面の盛り上がりとみられる二つの大きな白い模様が写っていた。この15年で大きさが15%減ったという報告もあり、専門家は「爆発は数万年後かもしれないが、明日でもおかしくない」と話す。もし爆発すれば、満月ほどの明るさになり、昼でも見えるようになる。

(asahi.com(朝日新聞社):ベテルギウスに爆発の兆候 大きさ急減、表面でこぼこ – サイエンス)

 久々に面白い天文ニュースだなあ。

 万一本当に爆発したら、1054年のかに星雲以来のでかい超新星爆発、というか間違いなく空前絶後の天文ショーが見られることになるわけで。見たいなあ。

 さらに万一ガンマ線バーストの方向に入ってたら「人類は滅亡する!」(な、なんだってー!!!)レベルの話になる可能性もあるけど。*1

 少なくともオリオン座は消滅する、あるいはごく薄くなることになりそう、世界中の星図や天球儀は更新を余儀なくされるのだろうか。想像するだけで面白いわ。

*1:もちろん、そんな宝くじ一等を二日連続で当てるみたいな話はいくらなんでもないに決まってるけど。

おまけ

 「あの星々はもう滅んでしまっているのだろうか?」

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2009 12/28

(本文とは無関係)

 最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。

 ★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。

『最新脳科学が教える 高校生の勉強法 東進ブックス』★★★★

 池谷裕二著。胡散臭い分野だけど、まともな内容。個人的には新しい内容はなかったがおすすめ。高校生でなくてもおすすめ。

『ゲーデルの不完全性定理』★★

 レイモンド・スマリヤン著。スマリヤンの他の本とは違って啓蒙書とは言えません。本気で証明します。名前しか知らないで大げさなこと言う人たちに引っかからないように、人生で一度はぐらいはやっとくべきかも。

『整理HACKS!―1分でスッキリする整理のコツと習慣』★

 小山龍介著。iPhoneと書籍電子化の話が書いてあると聞いたので。SugarSync使ってみるか。

『消された科学史』★★

 著者にグールドが入ってたので昔読んだ。科学史好きな人には。

『影が行く―ホラーSF傑作選』★★★★

 その筋では有名な『遊星からの物体X』の原作は、ジョン・W・キャンベル・ジュニア『影が行く』である。

『46年目の光―視力を取り戻した男の奇跡の人生』★★★

 ロバート・カーソン著。ドキュメンタリーに加えて、見るというのは単に眼というカメラに光が入るだけの話ではないという話。再生医療は今後いろいろと面白そうだ。

『結晶世界』★★

 J・G・バラード著。今となってはやや古いけど、近年でもたとえば『EDEN』なんかで元ネタになってる。

『4Gbpsを超えるWebサービス構築術』★★★

 すげえもんだ。そういえば、livedoor readerだけはGoogle無双の今でも使ってるな。

『おしゃべりな宇宙―心や脳の問題から量子宇宙論まで』★★

 K.C. コール著。無難な感じの科学啓蒙本。

『死体が語る歴史』★

 フィリップ・シャルリエ著。予想と違って、いわゆる考古学の時代の話より歴史時代の話が多い。

『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』★★★★

 ハワード・ジン著、レベッカ・ステフォフ著。子供向けだけど良くできてる。

『盲目の時計職人―自然淘汰は偶然か?』★★★★★

 リチャード・ドーキンス著。新刊が出た影響で紹介しときたくなった。兄貴は書名のつけ方が悪魔的に上手いと思う。

『虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか』★★★★★

 リチャード・ドーキンス著。全体にいい本だが、前にもちょっと触れた第9章のガイア理論批判のところは、いつか使うかもしれないので興味がある人は読んどくといいかも。マーギュリスはもう擁護できないレベルにまで行ってしまったみたいだなあ……。(参考)

おまけ

 ゲーデルつながり。

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2009 12/27

ヒューマン・ユニヴァーサルズ―文化相対主義から普遍性の認識へ

 ここ1世紀ぐらいの人類学の歴史を超大雑把に捉えれば、文化相対主義が盛り上がって頂点を極めた後、徐々に後退している歴史であるといえる。

 もちろん、今日の基準に照らせば馬鹿馬鹿しいほどに極端な相対主義は、さらにその前の、もっとずっと極端に酷い文化差別・性差別がまかり通った時代への反動として生まれてきたものだ。

 そのことを忘れて、単に後知恵の批判をするだけではまずい。それらの歴史も踏まえた上で、新しい知見を受け入れていかなければならないのだ。

 で、これはその人類の普遍特性、ヒューマン・ユニバーサルに関する本。エディプス・コンプレックスの存在を自明視していることだけちょっと疑問だが、いい内容だと思う。

おまけ

 要するに、人間のすることが全て文化の産物だというのなら、なぜこんなことが可能なのかということ。

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2009 12/19

進化の存在証明

 はーい皆さん、グールド亡き今世界一有名な進化論啓蒙者であり、エマ・ワトソンに瓜二つのイケメンであり、人格的には割とクソ野郎なドーキンスの兄貴の新刊のお時間です。

 今回のテーマは非常に明解。進化は事実だということ。

 「……それはギャグで言ってるのか?」と思うでしょうが、旧約聖書の創造論をまんま事実として信じている人間が今でも大勢いて、一定の政治力を保っている欧米の読者を主な対象としているので、そこは割り引いて考えて下さい。*1

 個人的には、あまり新しい話はなく、いつもと比べると不満なのですが、むしろ『利己的な遺伝子』もまだ読んだことがないというドーキンス初心者に、1冊目の本としておすすめできるのではないかと思います。

 内容とは関係ないですが、6章のタイトルが『失われた環境』となってしまっています。急いで翻訳・出版したので校正ミスしたのでしょうが、ちょっとかっこ悪いです。

 『失われた環(ミッシング・リンク)』と書こうとしたが“環”が単漢字変換できなかったので、“かんきょう”を変換して後で“境”を消そうとしたが、消し損なった。……という経緯が丸わかりです。

参考リンク

*1:日本の理科教育状況も別にほめられたものではないというのは、また別の話として。

関連図書

おまけ

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