2019 2/3

『いまさらですがソ連邦』★★★★

 速水螺旋人(著、イラスト)、津久田重吾(著)。Kindle Unlimitedのキャンペーンで読んだけど、面白かった。

『数学パズル大図鑑: 名問・難問を解いて楽しむパズルの思考と歴史』★★

 イワン・モスコビッチ著。フルカラーかつ大きめで楽しい。パズル的にも水準高し。

『交雑する人類―古代DNAが解き明かす新サピエンス史』★★

 デイヴィッド・ライク著。専門的。個別にはすでにぽつぽつ漏れ聞いてる内容が多かったけど面白い。

『ぼくたちに、もうモノは必要ない。 – 断捨離からミニマリストへ』★

 佐々木典士著。妻経由。男性視点の断捨離本は珍しい(?)ので。アイリスオーヤマのエアリーマットレスとやらがいいというので子供の敷き布団として買ってみたが、確かによかった。

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』★★★

 津川友介著。個人的に改めて特にこれという内容はなかったが、このタイトルで名前負けしてないだけでも十分か。

『タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源』★★★

 ピーター・ゴドフリー=スミス著。原題”Other Minds: The Octopus, the Sea, and the Deep Origins of Consciousness”(『異なる心:蛸・海・意識の深い起源』)まだまだこれからの話だと思うが興味深い。

『若い読者のための経済学史』★

 ナイアル・キシテイニー著。タイトル通りの内容。中高生にもいいかも。

『鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけーーー申請から施設探しまで、介護初心者には想定外の事態が待っていた!』★

 まだ具体的に必要にはなっていないが、心構えとしては役に立った。

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2019 1/13

『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』★★★

 高橋孝雄著。個別の内容に特に独自性があるわけではないけど、遺伝に変な否定意識のない子育て本はまだ珍しい気がするので。

『反西洋思想』★

 イアン・ブルマ著、アヴィシャイ・マルガリート著。そんなに面白いわけじゃないが有用な視点かと。

『実践フェーズに突入 最強のAI活用術』★★★

 野村直之著。AI本では久しぶりにちょっと面白かった。いわゆる「地球シミュレータ」と同等の性能のマシンが現在100万円で買える、という話が印象に残った。

『サルたちの狂宴』★★★★

 アントニオ・ガルシア・マルティネス著。シリコンバレーものとしてもfacebookものとしてもかなり面白かった。

『好き嫌い―行動科学最大の謎―』★★

 トム・ヴァンダービルト著。単独で特別すごい話はないけど。

『学びを結果に変えるアウトプット大全』★★

 樺沢紫苑著。時間本がよかったから読んだけど、そこまでとは。会長本とテーマがかぶってしまったせいもあるか?

『性欲の科学 なぜ男は「素人」に興奮し女は「男同士」に萌えるのか』★★★★

 オギ・オーガス著、サイ・ガダム著。進化心理学好きとしては「科学」の部分に目新しい話はないが、具体的な話がとても面白い。

『カラー図解 進化の教科書』★★

 カール・ジンマー著、ダグラス.J・エムレン著。最近のブルーバックスってどんなのかと思って。カール・ジンマーだけあって普通に良い。

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2018 10/7

『知ってるつもり――無知の科学』★★★

 スティーブン・スローマン著、フィリップ・ファーンバック著。いまではそんなに珍しくない話題ではあるが、意外によかった。

『知の果てへの旅』★

 マーカス・デュ・ソートイ著。個々の話題はちょっと薄い気もするけど、よい。

『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』★★★

 ヨハン・ノルベリ著。まあこれもいまではそんなに珍しくなくなってきた話題ではあるが、よい。

『広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由』★

 スティーヴン・ウェッブ著。50の理由のアップデート版。正直そこまで変わってない。前のを読んでればパスでもいいかも。

『遺品整理屋は見た!』★

 吉田太一著。孤独死関係のエッセイ集というか。ちょっと興味深い。

『馬・車輪・言語』★

 デイヴィッド・W. アンソニー著。かなり専門的。思いっきり『銃・病原菌・鉄』の装丁をなぞってる気がするけど、同じ調子で読もうとするときついかも。

『人が人を殺すとき―進化でその謎をとく』★★★★★

 マーティン・デイリー著、マーゴ・ウィルソン著。殺人に関する進化心理学の古典。古典らしくいま読むと流石に古い話題とも感じるが、古いからといって間違っているわけではない。あまり馴染みがなければ今からでもおすすめ。

『amazon 世界最先端の戦略がわかる』★★★★

 成毛眞著。IT業界人なら知っていることも多いだろうが、とても面白い。

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2018 6/17

『シンメトリーの地図帳』★★★

 マーカス・デュ・ソートイ著。普通に良い数学啓蒙書。

『サルは大西洋を渡った』★★★

 アラン・デケイロス著。面白い。内容はshorebird先生にお任せ。

『誰もが嘘をついている』★★

 セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ著。『ヤバい経済学』ビッグデータ版みたいな位置づけの本。著者自らそう言っている。

『とっておきの数学パズル』★★★

 ピーター・ウィンクラー著。タイトル通り。高水準。

『猫はこうして地球を征服した: 人の脳からインターネット、生態系まで』★★★★

 アビゲイル・タッカー著。これも面白い。内容はこれもshorebird先生にお任せ。

『プログラマ脳を鍛える数学パズル』★

 増井敏克著。よくあると言えばよくあるが、いいと思う。

『七王国の玉座』★★★★★

 ジョージ・R・R・マーティン著。アマゾンプライムビデオで『ゲーム・オブ・スローンズ』がとても面白かったので原作も。これはすごいな確かに。ゾンビもドラゴンもいるテンプレ的ファンタジー世界なはずなのにあまりファンタジーぽくない不思議。なんともユニーク。まだまだ続く。

『集合論入門』★★★

赤攝也著。タイトル通り入門書だが、大変よい。

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2018 4/22

『Goならわかるシステムプログラミング』★

 渋川よしき著。最初の一冊には向かないけど、いい。

『消費資本主義!: 見せびらかしの進化心理学』★★★★★

 ジェフリー・ミラー著。素晴らしい。shorebird先生のところで大まかな内容を知っていたにも関わらず詳細も大変面白かった。

『気づきのセラピー―はじめてのゲシュタルト療法』★

 百武正嗣著。『キレる私をやめたい』で知った。若干スピリチュアルというかオカルティックな領域に踏み込んでるような気もして100%首肯はできないが、面白い。

 私にはこれも自己欺瞞の話に見えてくる。自己欺瞞という概念が確立していない時代から経験的に積み重ねられた、自己欺瞞を脱するためのテクニック集、というか。

『夫に死んでほしい妻たち』★

 小林美希著。夫婦で読んだ。

『かさぶたくん』★★★★★

 やぎゅう げんいちろう著。子供がなぜか無茶苦茶ハマって一ヶ月近く毎晩読んでた。

『おへそのひみつ』★★★

 やぎゅう げんいちろう著。こっちもかなり。

『文明の接近』★★★

 エマニュエル・トッド著。識字率やその他のデータから判断すれば、イスラム特殊論には根拠がないという話。なかなか面白い。ビント・アンム婚という概念を初めて知った。

『帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕』★

 エマニュエル・トッド著。こちらもそれなりに。アメリカに悲観的すぎ中国やロシアに甘すぎるように思えるが、フランスの左派としては普通なのか。

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2018 1/3

『女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化』★★★★★

 デヴィッド・M・バス著。とても良い。結構前に出てた本なのに知らなかったのは不覚。内容は例によってshorebird先生のところ参照。

『アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える』★

 アンドレアス・ワイガンド著。現在では特別目新しい話題はないけどビッグデータとか。

『家族をテロリストにしないために:イスラム系セクト感化防止センターの証言』★

 ドゥニア・ブザール著。わりと面白い。要するに昔(今もか)「カルト」と呼ばれていたものそのまんま。世界情勢は変わっても人間はそうそう変わらんということか。

『ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ』★

 ジョン・ハンケ著。ポケモンGOに興味ある人のみ。

『獣の奏者』★★★

 上橋菜穂子著。守り人シリーズから連続で。そちらほどではないけど十分面白い。著者も自覚しているようだけど、3巻以降はやっぱり蛇足な気がする。

『シンプルな政府:“規制”をいかにデザインするか』★★

 キャス・サンスティーン著。ナッジを政治に生かそうという話。アメリカで実際ここまで進んでいるとは知らなかった。日本ではどうなんだろう。

『人類進化の謎を解き明かす』★★★★★

 ロビン・ダンバー著。こりゃすごい。全部がこの通り正しくはないかもしれないけど、従来考えられてきたような様々な説が、ここまで定量的に判定できるようになってきているというだけで十分面白い。

『フェイクニュースの見分け方』★

 烏賀陽弘道著。まあ流行り物。良いと思う。

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2017 9/17

『シブサワ・コウ 0から1を創造する力』★★

 シブサワ・コウ著。電ファミの記事がムチャクチャ面白かったので。やっぱり一代で大企業を築くような人は普通ではないな。

『すごい進化 – 「一見すると不合理」の謎を解く』★★

 鈴木紀之著。内容はshorebird先生にお任せ。

『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』★

 パット・シップマン著。イヌの家畜化の影響が大きかったのではないかという仮説。

『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』★★★★

 長谷川眞理子著、山岸俊男著。対談形式。進化心理学とか慣れてる身には初歩的だが、賛成できる内容。詳しくはやはりshorebird先生にお任せ。

『錯覚の科学』★★★★

 原題”The Invisible Gorrilla and other ways intuitions deceive us”(『見えざるゴリラ――その他直感が我々を欺く方法』)有名なゴリラバスケ動画の実験他「不注意による見落とし」の本。内容はいいのに地味すぎる邦題がもったいなすぎる。自分が見落とされるブラックジョークか?

『天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編』★★★★★

 上橋菜穂子著。ついにラスト。若干駆け足気味ではあったが、最後まで面白かった。唯一気にくわなかった「帝」関連も一応無理のない(?)結末ついたし。著者の他シリーズも読んでみよう。

『この世界の片隅に公式ガイドブック』★

 「この世界の片隅に」製作委員会著。長尺版作成決定とか聞いた。

『哲学入門』★★★

 戸田山和久著。タイトルの印象から普通に連想される内容ではない。ダニエル・デネットとか、いわゆる伝統的な「哲学」ではない哲学の入門。入門の新書としては最適かと。

『菜根譚』★

 洪自誠著、中村璋八翻訳、石川力山翻訳。いろんな意味で古典らしい内容。やや単調で退屈にも感じるが。

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2017 6/10

 寄生獣のアニメをやってたときに書いたものの清書です。内容的には上とほとんど変わっていません。TwitterやTogetterもいつまで存在するかわからないので、こちらにまとめておきます。


 『寄生獣』のストーリー展開の変化、作者にすら予想していなかった変化は、進化論のダーウィン以来最も重要な進展をそのまま取り込んでいる。

 ハミルトン革命とか血縁淘汰とか、呼び方はどうでもいいが、要は遺伝子視点での進化の見方と、それに伴う生命と利他行動に対する人間のものの見方の変化だ。

 で以前書いたように、寄生獣オープニングのモノローグと、パラサイトの設定は、まさしくガイア理論のとりわけトンデモなバージョンを連想させるもので、実際そこに着想を得たとしか考えられないものだ。

 要するに、地球(全体)の利益を守るための、地球(全体)に意思のようなものが存在するという発想である。

 いま、それなりの教養のある「普通」の人が、ガイア理論のことを聞くと、どうしてこんなあからさまにアホなオカルトっぽいトンデモが、知的なはずの人々にまでもてはやされたのか、不思議に思えるだろう。

 だが、それは後知恵というやつで、血縁淘汰の理解以前の生物学について知る必要がある。

 ダーウィンの進化論の時点では、DNAはもちろん遺伝の実際の仕組みは不明だった。メンデルの法則が再発見されるのさえダーウィンの没後だ。

 ダーウィン時点で進化論で説明できない(と思われていた)最大の問題は、たとえばハチのコロニーにおける働き蜂のような不妊カーストだ。

 自分で子を作らず、コロニーに尽くし、巣が危機にさらされると自殺攻撃を行う。こうした利他行動は、進化が子孫の変異を通じて起きるものだとしたら、進化できないではないか、というわけだ。

 しかし、進化できないのが問題だと考えること自体が、ある意味進化論になれきった人間の後知恵の見方とも言える。従来は特に問題視されていなかった。集団の利益、あるいは種の利益、言ってみれば「みんなの未来」を守るため、と解釈されていた。

 他にも、たとえば、鋭い牙を持つ狼が、腹を見せて降参するのも、殺し合いを避けて「種の利益」を守るためだとか、鳥が虫を食うことによって虫が増えすぎて森が禿げてなくなってしまうことを防ぐのだ、とかいう言い方も普通にされていたりした。

 抽象的な「種の利益」を守るために「他人」――もちろん姉妹同士であることは認識されていたが――のミツバチ同士が協力したり、森の秩序を保つために多種の生物が協力しあったりしているという、(今日の視点では間違った)認識が普通だったのだ。

 そんな時代には、地球のために生物全体のバランスを保つための仕組み、というのも、それほど馬鹿げて見えなかったのは理解できよう。

 パラサイトが繁栄しすぎた種を食い殺す本能を持つが、自分の子孫を作らない、という設定は、いわば不妊カーストがなんらかの抽象的価値を守るためのものだと認識されていた時代のものだと言える。*1

 さて、もし寄生獣1話掲載時点にタイムマシンで戻って、当時の人に「この作品は完結からずっと後になっても大傑作として広く認知されており、改めてほぼ原作準拠のストーリーでアニメ化されたりしてますよ」と伝えたとしよう。

 当然、その人は冒頭モノローグの「みんなの未来を守らねば」と思った誰かについての話があって、何らかの決着がつけられただろう、と解釈するだろう。その結末を教えてくれないか、と言うだろう。

 ところが、ご存じの通り、この「地球上の誰か」、素朴に解釈すればガイアの意思とでも言うべき存在については、1話以降最後までまったく触れられない。地球の絵によって暗示されるのさえ「この種を食い殺せ」のシーンが最後である。

 広川市長の演説としてかなり不自然な形*2で繰り返されるだけで、そんなモノローグは最初から存在しなかったかのごとく、ふっつり消えてしまう。

 にも関わらず、なぜ不朽の傑作たり得るのか? 普通なら「傑作だったけど、風呂敷は畳みきれずに最初の伏線未回収のまま思いっきりすっぽかしたよね」ぐらいのツッコミは避けられないところだろうに、なぜそうならなかったか?

 なぜならば、この作品の連載とほぼ平行して――もちろん時代精神的な大雑把な意味でだが――まさにこのガイア幻想は、ふっつり消えたんだ、そんなものは最初っから存在しなかったのだと。

 そのガイア幻想を消し去った最も重要な要素こそ、作中で田村玲子が聴講している利己的遺伝子の理解と、利他行為(≒共生)およびその逆たる捕食・寄生に対する解釈の変化だ。

 利他行為≒共生(そしていわば共生の拡大解釈の極限がガイア理論)が謎だった時代には、共生は善いことで、寄生は悪いことだと思われていた。

 たとえばアリやハチは集団で協力する働き者の進化した善い生物で、たとえば寄生虫というのは、他者を利用する怠け者の退化した悪い生物であるというわけだ。*3

 言うまでもなく、これらは人間視点での擬人化でしかないわけだが、「擬人化でしかない」と切って捨てられるのは、「では本当は何なのか」ということが、現在ではすでにしっかりと確立しているからだ。

 遺伝子視点での進化の見方は、利他行為の謎を完全に解いた。不妊カーストは不思議でも何でもなくなった。個体に利他行為を取らせる遺伝子は、その遺伝子を共有する血縁を通して子孫に伝わる。個体の利他行為は、同時に遺伝子の利己行為であり、そこに矛盾はない。

 女王蜂と働き蜂との関係は、人間の生殖細胞と手の細胞との関係と変わりない。手の細胞や脳細胞は繁殖しないが、その存在は不思議ではない。手や脳が生殖細胞に子孫を作らせることによって、生殖細胞にある手や脳を作る遺伝子が生き残り、次代の手や脳を作らせるからだ。

 遺伝子視点では、同種の共生が不思議ではないのと同様、他種との共生も特別なものではなくなる。同種の遺伝子プールにないというだけで、ある遺伝子とある遺伝子の利害が一致しているというだけだ。

 アリとクロシジミは何らかの意味で他の(共生しない)生物より偉いわけではない。アリの中のある遺伝子とクロシジミのある遺伝子の利害が一致している――彼らのゲノム内の遺伝子同士の大概と同じように――というだけのことでしかない。

 田村玲子との大学での会話に出てくる「豚と人間は共存していると言えない?」というのはそのあたりの話だ。豚の遺伝子は人間(の遺伝子が作る個体とそれが集まって作る社会)を使って自分を増やす。

 その関係が、手の遺伝子が脳を使い(あるいはその逆)自分を増やそうとする行為より、なにか特別なものと考える必要はない。

 人間のゲノム内にも、出現当初はエイズのような病気であったであろうレトロウイルスの名残と思われるものがたくさんある。

 そうなってくると通常「(寄生生物でない普通の)生物」とされるものは、単に「もはや別々に観察されることがあまりない寄生生物同士の集合」でしかないことになる。

 また寄生生物の研究も進んで、サナダムシやらその他の寄生虫も退化した単純な生き物なんてものではなく、環境と宿主に適用するためとてつもなく複雑な進化を遂げただけなのだと考えられるようになった。*4

 寄生に対する嫌悪感が存在すること自体は、人間(を含む大型動物)にとって不思議でも何でもないことだとしてもだ。

 もう少し身近な話にたとえよう。我々は「腐敗」と「発酵」が、どちらも単なる「微生物の活動」であり、人間にとって都合が良いか悪いか、という恣意的な基準で呼び分けられているだけだ、ということを知っている。

 遺伝子視点の進化の理解によって、「寄生」と「共生」にも同じことが起きた。

 「寄生」と「共生」はどちらも「遺伝子同士の利害に基づく離合集散」であり、人間にとって悪いイメージか善いイメージかというだけで、恣意的に呼び分けられているだけだということだ。

 もちろん微生物の活動を理解したからといって、肉が腐らなくなるわけでも納豆が作れなくなるわけでもないように、遺伝子について理解しても、サナダムシが寄生虫でなくなるわけではないし、蜂が共生しなくなるわけでもない。しかし人間の考えは以前と同じではいられない。

 ちょっと寄生獣から離れすぎたから戻ろう。さっきの「もはや別々に観察されることがあまりない寄生生物同士の集合」という表現、ミギーやその他のパラサイトが徐々に人間社会に溶け込んで目立たなくなっていった、という終盤の表現に通じるところないかな。

 そしてタイトル寄生獣のトリプルミーニング。パラサイト、広川の言うガイア理論的な意味での地球への寄生獣≒人間、ラストの寄り添って生きる獣。最初のひとつのガジェットを通して、二番目の解釈が三番目に移り変わっていく思想史を描くことになった――最初から意図したわけではなしに――と言えるだろう。

 そしてもうひとつ、ラスボス後藤さんについてだ。面白いことに、彼の設定はまさに悪しきガイア幻想のカリカチュア的な存在になっているのだ。複数の生物が、「ひとつの意思」のものに「完璧」にひとつの生物として「統一」され、「完全生物」となる。*5

 取り込まれていたミギーの感想、「意外なことにとても気持ちよかった〜」とかいうのも、より大きなものの一部として何も考えずに過ごすというガイア幻想(というかずさんなホーリズム全般)の持つ魅力を表現しているようでなんか面白い。

 毒物によってその後藤さんの統一が崩れてそれぞれの利害が表に出てきて、最後は爆散するってところも、前に触れた遺伝子視点によるガイア幻想崩壊を連想させるものがないかな。

追記

 元のTogetterに来たものの中で、ひとつだけ重要と思われる指摘について追記する。『寄生獣』以前にもう利己的遺伝子は知られていた、というものだが、もちろんそれは知っている。

 最先端の学説が、学者に広まり、インテリに広まり、一般向けエンタメまで広がって、法律や制度に埋め込まれ、しまいに誰も意識しない常識になるまで、長い時間がかかるものだ。今は「一般向けエンタメまで広がって」あたりの期間に注目しているだけだ。

 エポックメイキングなドーキンスの『利己的な遺伝子』原著は1976年。それでさえ20世紀を通じて発展してきた社会生物学、1970年代に確立した血縁選択説を一般向けにわかりやすく説明しただけ*6で、真にオリジナルなのは「ミーム」を造語したことだけと言われるぐらいである。

 『利己的な遺伝子』の日本語版は『生物=生存機械論―利己主義と利他主義の生物学』の名前で1980年。1989年に『利己的な遺伝子』の邦題に戻して第二版。

 『利己的な遺伝子』の内容を粗雑かつ扇情的に扱った竹内久美子『そんなバカな!-遺伝子と神について』がベストセラーになったのが1991年。『寄生獣』の発表期間は1988年から1995年である。

*1:ただし新一が即座に「この世のもんじゃねーよ」とか反応してるので、すでに現代に近い価値観が混じってはいる。
*2:仮に第1話に遡って描き直せるのであれば、同じ表現にはしなかったであろう、というぐらいの意味で。
*3:特に後者は「福祉に頼る貧乏人は社会の寄生虫である」というアナロジーとなり、重大な影響を及ぼしたが、今回その話はしない。
*4:この辺は『パラサイト・レックス』に詳しい。超オススメ。
*5:戦闘狂であるというところは合わないが。
*6:だけとは言えないと私は思うが。

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